▼41 六道彼女
自分たち六人はもとの本体から分裂したのだ、と主張するシズク六道たち。
オレとしてはその原因らしき“ちょっとした”トラブルの事情を知りてェんが、話題を避けてんのか、こいつの口がら聞ける気配は一向に来ない。
この件に雨の里が絡んでんなら情状酌量の余地はある。
だが シズクが自分で招いた結果なら、これこそまさしく雨とのトラブルの火種だ。
「とにかくお前らを木ノ葉の里に通すわけにはいかねェんだよ。個人的な理由で二里間を自由に往き来できねえこと位判ってんだろ」
「シズク、冷静になりなさいよ!カカシ先生に責任取らせるつもり?」
カカシさんの名が効いたのか、何人かのシズクはサクラの叱咤に口を閉ざす。反駁してくる奴は、二人ほど。
「“冷静さ”はあっちに置いてきたから、私たちにはないよ!ここを通してくれないんだったら、腕ずくで押し通るだけ」
「力押しなら私の出番だね!」
「おいシズク、」
「いっくよー!――ロケットパンチ!」
シズクの腕が変形し、追撃系の兵器がオレたち目掛けて発射された。聞く耳を持たねェどころか、あいつら 先制攻撃してきやがった。
「サイ!」
振り返ると既に、サイの手元では絵筆が走り出していた。
「忍法・超獣戯画」
巻物から繰り出される墨色の狛犬たち。優勢に思えたが、ミサイルの執拗な追撃は超獣戯画を墨の飛沫に変えていく。
「あの技!ロボットみてーなペインのやつだってばよ!」
「なかなかやりますね」
「輪廻眼の個別能力を使ってくんのか……」
「シカマル!あいつら迂回する気だぜ!」
攻撃の隙を見計らってか、橋向こうのシズクたちは踵を変えて来た道を駆け出していた。
シズクの六道がペインをモデルに作られてんなら、それぞれに特化した能力がある。確かその中には口寄せ系の術者もいる。
一人でも木ノ葉の里に侵入されたらアウトだ。
「ここはボクに任せて」
「頼んだぜ、サイ……皆追うぞ!」
「オウ!」
応戦するサイを残し、オレたち五人は橋の向こう岸に渡った。
視界の悪い夜の森を、キバの先導で追跡していく。
逃げ足の早ェシズクとは距離を保つのがやっとだった。
「で、どうすんだシカマル!」
「まずは一人残らず捕獲しないことにはな…」
「…やるしかないのね」
オレだって出来ることなら戦闘は回避してェが、あいつが先手を打ってくんなら話は別だ。
「こっからは手加減無用だ」
言ってるそばから気配が濃厚になってくる。
茂みが開けた先には、シズクが一人だけ、足を震わせながら所在なさげに突っ立っていた。
待ち伏せを残して他は前進ってわけか。
「みんな…、追って来ないで…!」
「ナルト!」
「わかってるってばよ!」
ナルトの手には、青く渦巻く螺旋丸。キバとオレの背を越え、ナルトがシズクに突進してく。
「行くぜェ!」
「や、やめて!螺旋丸とか勘弁してー…!」
やたら気弱な悲鳴と共に シズクが両手をナルトに向けて突き出すのが見えた。
「ナルト、ごめんね…!封術吸引!」
「!?」
螺旋丸は触れるや否や、シズクの手に前触れなく吸い込まれていく。
「な、おわあああっ!!」
体勢を崩したナルトが頭っから盛大に林に突っ込んでいく。ペインの能力は報告書っ前に読んだが、さてはあれがチャクラを還元して術を無効化するって能力か。
「ナルトォー 生きてるかー!」
「うるせーってばよ、キバ…」
「このシズク相手にチャクラを扱う忍術は不利だな…」
「ここは私が残る!先を急いで!」
グローブを固く絞め直してシズクに向かって行ったサクラの背中を見、隙間を縫うようにして足止めをすり抜ける。
額に嫌な汗が滲んできた。
この光景、まるでいつかの奪還任務と同じじゃねえかよ。
*
「残りの六道のスキルはたしか… 口寄せに引力と斥力、拷問の能力、魂を抜き取る能力。これで合ってるか?ナルト」
「おう。引力のヤツも強ェけど、最後のヤツがマジヤベーんだ!」
ナルトの言う通り、厄介なのはそいつらだ。
まさかオレたち相手に危険な術を使ってくるわけはねェと思いたいが、いかんせんそういう能力を持ってるってだけで手堅い。
サイとサクラを残し、今のオレたちは四人。
同じようにシズクも四人。
足止めを欠きつつ進む算段だろう。
「どうってことねェよ!オレらだって長髪のペインと互角にやりあったんだぜ?なあ赤丸!」
赤丸の咆哮が轟いた直後、正面には次なるシズク六道が、二人。
今度のシズクには他の奴にはねェ怒気と殺気を感じる。
仁王立ちの構えで髪を逆立てて マジギレしてる時のあいつにそっくりじゃねェか。
「私は人間道。みんながこれ以上追ってくるんなら、容赦しないよ!!」
「足止めとかめんどくさーい」
「うるさい 畜生道!それ以上減らず口叩いたら魂引き抜くよ!」
「えっ 怖い冗談やめてよー。同じ私なのに」
人間道に畜生道。
言動からして、短気な方が魂を抜き取る能力者だな。やたらと好戦的なのもいれば足震わせてるやつもいるし。
もしかしてこいつら六人、それぞれ人格も分担して担ってんのか?
「ほら畜生道!ボサッとしてんな!」
「はいはい。“口寄せの術”〜」
「二人か……」
一方がタチの悪い相手なら、ここはオレが残って影真似で二人とも拘束すべきだな。
「ここはオレが――」
だが言い終えないうちに、キバが身を乗り出した。
「まとめてかかって来い!!」
「おい、キバ!」
「オレも残るってばよ!シカマルといのは先に行ってくれ」
キバは赤丸と揃って木立から地面に降り立ち、それにナルトが続く。
「心配すんな!力じゃなくてココ使うからよ!」
ナルトのやつ、自分の頭を指差して笑ってやがる。
そうか。
六道と名乗っててもお前にとっちゃ相手はシズクなんだな。
ペインの時もそうだった。ナルト、お前は力を力で制するんじゃなく、敵と腹割って話そうとぶつかってんだった。
シズクの能力に気を取られすぎて、オレもすっかり見失っちまってたらしい。
まさかお前に“頭使え”なんて言われる日が来るとはな。
しっかりしねェといけねーよな。
「ねえシカマル、気付いてる?」
森を駆け抜けながら、いのがオレに声をかけた。
「シズクたちの反応、ひとりずつちがう」
「ああ……。本体を離れた六道には特有の能力だけじゃなく、それぞれ自我がある」
「私に情報を密告したシズクは六人のうちの一人みたいだった。何か突破口があるんじゃない?」
「もとの私が“完璧になりたい”って望んだから、私たちは切り離されてお払い箱になったの。もう元に戻らないんだし、これからどうしたって自由でしょ!」
シズクの一人はそう言ってたが、どうあってもあいつらを統合して雨隠れに帰還させる手立てを考える必要がある。
ナルトの見立てじゃ六道たちは自然エネルギーから出来てるんだよな。そのエネルギー体を元に精神も分裂した。
コピー体の影分身は消失して本体に統合されるが、シズクの場合はむしろ バラバラになったパズルのピースを組み立て直すことで元の形に戻るってのに近い。
チャクラを1箇所に寄せ集める――道は確かに存在する。
「段々仕組みがわかってきたぜ。いの、皆と繋いでくれるか」
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