▼40 七人いる!

火の国と雨隠れの国境。
見返り柳の橋は夜の静けさに包まれ、人影も目につく変化もない。シズクもまだ来ちゃいねェようだな。

ナルトたちを木陰に配置し、オレは一人橋の上に立って様子を見守った。

この橋では毎回シズク関連で何か起きて、巻き込まれる。よって否応なしに馴染みのある場所になっちまってた。
来るんじゃねェ。
ただの取り越し苦労であってくれと、今回は例外になることを祈ってたが、どうやらそう都合良くはいかねェらしい。

夜風が吹き、木立がざわめく。
舞い散る木の葉に紛れて現れたのは、シズクだった。


「うそ シカマル?」

「よう。……久しぶりだな」

揺れる髪に垣間見えたシズクは、不意打ちを食らったような表情をしてた。

気配は一人に留まらなかった。

「あれ。シカマルだっ」

「な…!」

「皆も揃ってるね」

「そんなぁ…どうしてここに?」

「なんで!?待ち伏せされてる!!」

「……」

一、二、三、四、五、六。
六人。
しかも揃いも揃ってぞろぞろと、皆アイツの顔してやがる。

「オイ、なんだよアレ。影分身か?」

近くで身を潜めていたキバが呟く。
影分身?いや、それにしちゃ気配の質がいつもと違ェ。橋向こうを注視すると、六人のうちの一人が、やおら声を張り上げた。

「さっきから黙りこくって……天道、さてはお前裏切ったな!」

「だって……シカマルに嫌われたくなかったから…」

「同じ私のくせに何してんの!」


シズクがシズクに掴みかかってるって、一体どういう状況だよ。
連絡塔からの謎のメッセージはこいつら全員で企てたものじゃねえのか。つーかオレに嫌われたくねェってのも、話の筋が読めねェ。

シズクにバレちまってるなら仕方ねえし、オレはハンドシグナルで他のメンバーを近くに呼び寄せた。

「なにあれ。分身同士ケンカ始まっちゃったわよ」

「分身じゃねェってばよ あれ」

林から飛び出して来たナルトは、早々に仙人モードに切り替えてやがった。毎度感心するが、仙人モードの感知能力ってのは利便性が高ェな。

「何かのワナじゃないの?」

「ヘーキヘーキ。自然エネルギーは感じるけど、あれ全部、いつものシズクみてーだし。悪意も感じねェし」

「あれ全部シズクって……ナルト、どういう意味かもうちょい説明しろ」

しかし、ナルトがオレの問いかけに応じるよりも早く、向こう側に佇むシズクたちがそれぞれ口を開いた。

「ナルトの言う通りだよ。私たち全員、月浦シズクなの。ちょっとしたトラブルで分裂しちゃってさ〜」

「トラブル……?分裂?」

「うん。でもそのお陰でこうして里に戻れるチャンスが巡ってきた」

先程胸ぐらを掴まれてた一人が、襟元を正してオレたちに向き直った。

「私たち、正確に言えば七人に分かれてるんだ。天道、人間道、地獄道、修羅道、餓鬼道、畜生道。そして元々の本体である外道の七人にね。要するに今の私たちは、シズク六道ってとこかな」

六道。
その呼称を最初に耳にしたのは、忘れもしねェ ペイン六道の襲来の日だった。
雨隠れの長門が司令塔になり、別の六つの個体をチャクラで操ってたあれだ。木ノ葉の里はペイン六道の奇襲で壊滅的被害を受けたから、今でもはっきり覚えてる。


「一ついいか?」

「「「「「「なあに?」」」」」」

「……」

六人居るってのは考えモンだな。

「全部で七人なら、残り一人はどこにいんだよ?」

オレの問いに答えるまでに、シズクたちは一様に目配せをし合っていた。
さっから違和感が拭えねェ。
ペイン六道は司令塔の長門によって動き、話し、攻撃をけしかけてきた。だが目の前にいるシズクたちは、こいつらのいう元のシズクとの上下の関係がねェように思える。
さっきから一部口うるせーのがいるし、それぞれ違う自我を持ってるみてェな反応をしやがるし。


「もとのシズク……“外道”は、これまで通り雨隠れで与えられた任務についてるよ」

ここにいない、もう一人のシズク。
そいつだけが雨隠れにいる。
じゃあこいつらは六人で何しにここまで来たんだ。


「アンタたちは任務そっちのけでここまで帰って来たワケ?」

「まぁそういうこと。いの、悪いけど 叱られる義理はないからね。もとの私が“完璧になりたい”って望んだせいで、私たちは切り離されてお払い箱になっちゃったの。これから先どうしたって自由でしょ!」

「何だと……?」

「だから、もう一生このままなの!」

「私たちは“あっちの”シズクに必要じゃなくなった。シカマル。私たち、里に帰りたいの」

橋向こうから一歩踏み出したシズクは、まっすぐにオレを見、まるで乞い願うみてェに囁いた。


*


同刻 雨隠れ・ミソギ川の森

私から乖離体が切り離されたかどうか?
こればっかりは、いくらテル様とミルラに話を聞いても見当がつかない。

自分の身に起きた変化について知りうる方法、それは、思い付く限りでは輪廻眼の視覚共有だけだった。
本体と全く同じ個体が乖離体として形成されるなら、私と同じ輪廻眼を持っていることになるだろう。
そう思い立ったまま、深く考えずに発動したのだった。

遠方の瞳を介し、私は私から離れた六人の自分が居場所を求めて移動する様子のを目撃した。
見返り柳の橋。
向こう側に立つシカマルたちの姿。
木ノ葉の里に灯る星のような灯火。
懐かしいはずなのに、なぜこの胸は以前のように“帰りたい”と痛まないのだろう。

視覚共有のリンクを切り、私は立ち上がって木ノ葉の里の方角に体を向けた。
テル様とミルラは長いこと口を閉ざしていた。

「分かれた個体はじきに戻るんですよね?」

そんなこと、二人を見れば一目瞭然だ。
けれど願わずにはいられなくて。

「戻れないなんてことはないですよね?」

「分身体や影分身体ではない。コピーじゃなく別々の個体になったと考えるのが自然だ」

「そんな……」

返ってきた答えにもすぐには納得できない。
無意識のうちに足を踏み出そうとしていたのか、背後から、テル様ともミルラともわからない厳しい声が投げ掛けられた。

「追うのは許さない。君が木ノ葉に出向くというなら、雨隠れと木ノ葉隠れの協定は破棄と見なす」

「聞くが、今の君は乖離体を追いたいと思うか?」

「……」

言われてみれば確かに、切迫した問題に感じられなかった。枝分かれして逃げた自分を取り戻したいという感情が、なぜかわかない。
それどころか、私を騙したこの二人を、何故だか憎めなかった。
出会い頭にミルラがクナイを放たなければ、そもそもテル様が私に任務を与えなければ、この乖離は起きなかった。乖離が起こるよう仕向けたのは、この人たちなのに。
責める気になれない。今シカマルの顔を思い浮かべても、これまでのように胸が苦しくならないのと同様に。

私はそれぞれの心を失ったんだろう。

「月浦上忍。君は自分の中で相反する感情が乱立したとき、いっそこの身が二つに分かれれば良いと思ったことはないか?」

「……」

「今は慣れないだろうが、これが君のためにも、互いの里のためにもなると、今に判るだろうさ」

囁きは低く、私は諭されているのか脅されているのか判らなくなった。

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