▼39 SOS

自宅の濡れ縁で遠くの峰を眺め、ぼうっとしながら過ごす。それに飽きたら、黙の国の任務報告書を適当に書き足す。
雨隠れで異変が起きていることなど知る由もないオレは、木ノ葉隠れの里で、久々の休暇を堪能していた。
こんな穏やかな日、ここ一年以上縁がなかったな。

終戦後ほどなくしてカカシさんが六代目火影に就任し、オレも自然と側近のポジションに定着して。
六代目や皆の期待に応え、里の、忍界の未来のため尽くしてェと思って、あれこれ奔走してた。
オレらしくもねェ。
オレはオレで、オレのままやってきゃいい。足りねェ部分は仲間に支えてもらえばいいだけだ。
身に染みたからにはもう忘れねェよ。


こうして任務後に休みを貰ってんだし、ひとまず休んで、心身の余裕を取り戻して―――そう考えて縁側から立ち上がった、その矢先の出来事だった。

≪シカマル!聞こえる?≫

馴染み深い声が、文字通り頭の中に直接語りかけてきた。


「いの?」

≪いきなり心伝身かけて悪いわね、シカマル≫

「いや、いい。それより何かあったのか?」

≪それがね……≫

聞けば、いのは一瞬間をおいて、ばつが悪そうに口火を切った。

≪さっき情報部宛てに緊急連絡が来たのよ。火の国の西連絡塔にシズクが現れたって≫

「シズクが連絡塔にいるだと?」

他国に隣接する国境 一定箇所に設置された忍連合の連絡塔には、警備隊と情報部が常駐することになってる。
雨隠れで長期任務中のアイツがどうして連絡塔にそこにいるんだよ?

≪そこに居るっていうシズクと心伝身を介して話したんだけど、変なのよ。自分はこれから見返り柳の橋に行って、六人で木ノ葉に不法侵入するから、急いでシカマルに伝えてとかって、おかしなこと言ってて≫

どういうことだ?

立ち止まり、いのの言葉を反芻する。

「間違いなく本人か?」

≪たぶん。ちょっと様子がおかしかったけど≫

「言ってたのはそれだけか」

≪そこで術が切れたから、それ以上聞き出せなくて……≫

雨隠れに何かあったんなら公式の緊急通達が木ノ葉に来てるはずだ。だがそんな通達が木ノ葉に届いてるとは聞いてねェ。オレだけじゃなく、困惑ぶりから察するに、いのも知らねェようだし。

わざわざ非公式にメッセージを伝えようとするってことは、あいつの身に何か起きてるのか?


「六代目に報告は」

≪今からするつもり≫

「それなら火影邸に出向いて直接カカシさんに報告してくれ。オレもすぐそっちに向かう。詳しい話はあとだ」

≪わかったわ!≫


通信が途絶え、頭の中に静寂が返ってくる。
こっちの極秘任務で忙しくしてた2ヶ月ほど、オレからシズクにゃ返信を出せてなかったが、あいつの直近の連絡には急な知らせはなかった。
何にせよ、考えるにはまだ情報が少なすぎる。

「ったく……めんどくせーことになってなきゃいいが」

部屋にある忍者ベストをひっつかみ、夜空の下、オレは急ぎ家を出た。


*

オレが火影室に到着する頃には、いのの話は既に六代目に通っていた。

「シカマル、すまないな。休暇中にまで」

「いいんスよ。で、どう思います?」

「状況は見えないけど、シズクからの緊急のSOSであることに間違いないだろうね」

「オレもそう思います。六人に分身してるっつーのも気になるが…不法侵入ってのが一番意味深だ。これじゃまるで犯行予告ッスよ」


“私はこれから見返り柳の橋に行って、六人で木ノ葉に不法侵入する。そう、急いでシカマルに伝えて”



「いの、そのときのシズクの様子をもう少し詳しく教えてくれる?」

カカシさんは術中の様子をいのに訊ねた。

「私が覗いたシズクの頭の中は間違いなく本人のものだったんですけど、いつものシズクと違ってて、情報や思考が偏ってるんです。部分的に欠損してるっていうか」

「何かの術で操られてるとか?」

「その様子はありませんでした」

話の途中から、いのは何故か意味ありげにオレへと目をくべる。

「……」

尚更不可解だ。
この一年、木ノ葉と雨の協定を遵守して任務に就いていたシズクが、掟を破る理由は何だ。


「理由は定かじゃないにしてもだ。雨隠れとのやり取りには時間がかかる。そのうちにシズクは行動に移すかもしれない」

「シズクがメッセージ通りに木ノ葉に向かってるんなら、ここで考えるよか直接話を聞いた方が早ェだろうな……」

今のシズクは木ノ葉と雨の関係を左右する鍵だ。
任務の取り決めを無視して自里に帰ったりしたら、あちらさんとの協定が白紙になりかねねェ。
どんな理由があろうとも、アイツを木ノ葉に踏み込ませるわけには。

「オレに行かせてもらえないスか、六代目」

名乗り出れば、六代目が途端に眉を伏せる。

「お前は休み中でしょ。それに、全部一手に引き受けないって そうこの前約束した筈だ」

「だからこその仕切り直しッスよ。もう自分だけで抱えこんだりしねェ。今度は仲間と一緒だ」


今回、黙の国の任務でよく思い知らされた。
オレは一人で何でもこなそうと肩肘張っちまってたんだ。テマリやナルトたちのお陰で目が覚めたっつても過言じゃねェ。
シズクが一人で何かしようとしてんなら、それは仲間のオレたちで止めるべきだ。

「お前も言い出したら頑固だね」

カカシさんはいつもの困ったような顔で笑い、ゆっくりと頷いた。

「至急隊員を集めて、見返り柳の橋に向かってくれ」

「シカマル!私も行くわ!」

「おう」

「頼んだよ、二人とも」


*

オレといのは、その日里にいた同期連中に片っ端から声をかけ、真夜中を過ぎた頃に出発した。

集まったのはサイ、サクラ、ナルト、そしてキバと赤丸。オレといのを合わせて総勢六人と一匹。これだけ揃えば不足はねェ。

急ぎ足で森を移動しつつ、知りうる情報を共有する。

「つまりボクたちは、シズクがその橋を越えないよう食い止めればいいんですね」

「でもよ、なんでシズクがそんなことすんのかわかんねーってばよ。ホームシック?」

「んなわけないでしょバカナルト!ハア…何か悪いことが起きてなきゃいいけど」

「何だろーとやるっきゃねぇよな!なぁ赤丸!」

「ワウ!」

謎の伝言を受けてからと言うもの、オレにはもう一つ気になることがあった。


「単刀直入に言えばだ。今すぐ忍連合に加盟したいが、月浦シズクをそちらに返したくはない」


雨隠れの里長・テルが以前オレに打ち明けた、本心らしき一言。
あの日を境にシズクとはギクシャクした関係になっちまってる。で、今夜の一件だ。
どうも変な流れじゃねェか。


お前は今何を考えてんだ?シズク。

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