▼12 理想郷は遠くの海に

遺跡での戦いの後。

以前の戦火の悲惨さは見る影もなく、風の国の入り江は早くも賑わいを取り戻していた。

空は濃い紺碧。
澄んだ海。
武装解除した灰色の戦艦にやや不釣り合いな白い帆がはためく。積み荷を運搬する人影の中に、テムジンを見つけた。
犯罪者ハイドの一件として、事件がはしなくも終結。テムジンは回復した仲間たちと 近隣の村々への謝罪を終えたのち、海の向こうの故郷に帰ることを決めた。


「テムジンって、おじいさんの一族なんでしょ?こっちで暮らせばいいのに」

「あっちは戦乱の最中か…」

「帰っても安全に暮らせる保証はないんだよね」

「仕方ない。あの子が決めた道じゃ。もう とうにわしらは枝葉が分かれとるんじゃ。あの子の魂はもはやこの大陸には根づいておらん」

「…大変ね」

こっちは忍の世界。戦って身に染みたが、海の向こうは別の力の世界だ。簡単に行き来することは出来ねェ。
もしかしたら、あいつらとはもう二度と会うこともねェかもしれねーな。


「だが、ひとりではない。今度こそ、仲間たちと一緒に、本当に争いのない世界を作るために頑張るんだと言っておった」

仲間に囲まれ 笑い合うテムジンの顔。最後にようやく笑ったツラ拝めたぜ。
旅立つ孫をあたたかく見送っていたじいさんだったが、がくんと肩を落とすと、目は急に落胆の色に変わった。

「仕方ないのォ。わしゃふられてしまったわい」

指さす先には、テムジンにじゃれるネルグイの姿が。
あいつは王族に仕える動物だって話だ。もともとキャラバンから脱出したのも、テムジン絡みだったってことだよな。せっかく迷子を探して届けたってのに、まあしょうがねェか。こればっかりはよ。

遠ざかる戦艦に、サクラとシズクはいつまでも手を振ってた。


「そういや、ナルトは?」

「それが…探したんだけどいないのよ」

「ナルトってば、素直じゃないよねえ」

なるほど、そういうことか。
変なとこムキになったりカッコつけたがんの、ナルトらしいちゃらしーな。
ひとりごちて、地平線を臨むシズクの横顔を盗み見る。

そういや、素直じゃない、で思い出した。
落下したシズクに焦り、地底遺跡の広間に繋がる回廊を三人で急ぎ下ってたときのこと。
行く手から、シズクの声が聞こえてきた。

「わたしの知ってる“騎士”はね、仲間の命が危険にさらされないように、解決策を二百通りも三百通りも考えるような人だよ。安易に仲間を捨て駒にする人じゃない。だから安心して、信じてついていける」

思い返すだけでこっちが頭から火ィ噴きそうだ。大体あんなこっ恥ずかしいこと、いけしゃあしゃあと言えるコイツが心底恐ろしい。素直すぎんのも大概困りもんだ。

「あれ、シカマル、顔赤いよ?熱中症かな」

「…何でもねェっての」

「?まだ怒ってる?」


シズクの奴は行動が伴ってねー。
あっさり手ェ離したりするし、オレの感情に気づいてんだかどうだか…イヤ、コイツに限ってそれはねェな。
期待すりゃ裏切られる始末。
これ以上オレにどうしろってんだか。

「だからごめんって。ドジ踏んだのは反省してるから…」

「四の五の言うなっての。任務のヘマは五代目に報告しとくからな」

「げ!シカマル!それだけは勘弁して!」

「私たちのこと心配させた罰だからね!シズク!五代目のカミナリ食らってちょっとは懲りてよね!」

「そんな〜!」


それはまだ、忍たちが危険な任務の遂行と仲間の命とを天秤にかけるようにしながら生きていた時代。
理想郷はいまだ遠く。
遥か向こうの海からやって来た騎士なる戦士が、のちの木ノ葉隠れを担うことになる火影とその仲間たちと拳を交わし、仲間とは何かを問い掛け合った出来事が、あったそうな。

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