▼32 サプライズ(三)

就任おめでとう さあ解散解散―――となれば都合良いが、六代目火影襲名の慶典はまだ始まったばかりで、広場では里総出の宴会が始まる。
休憩時間をぶっちぎりでオーバーした再会も束の間、オレもシズクも任務がある。オレは六代目火影の元へ、シズクは雨の里長の元へ、向かう先は反対の方向だった。

「六代目火影のお出ましじゃぜ!」

寄ってくる民にも笑顔を見せつつ、カカシさんは賓客席へ。
火の国諸大名にはじまり、忍連合の五影、各国の里長。引っ張りだこだ。オレも忍連合の調整役としてカカシの傍らにつくが、この応対に骨の折れること。

「えーい、六代目!いざ尋常に勝負!!」

祝いの席で雷影が火影に力比べを持ち出すわ。
(なんでも雲隠れ流祝福の儀式らしい)

「それで、六代目の火影夫人はいつお迎えになるの?」

水影が伴侶の気配を問い質すわ。
(あくまでも事実調査であるらしい)
おとなしくしているのはせいぜい 若年の我愛羅だけだ。
土影のジイサンなどは、ヒマをもて余してはサボりを催促する始末だった。

「老人は話が長い……綱手姫の前振りで疲れたわい。オイ 奈良の小僧よ 今から一局どうじゃ?火影邸にも将棋盤はあるじゃろう」

……そういや、将棋 ずいぶん指してねェな。

「将棋盤は…火影邸にあったかどうか」

受け流しつつ オレは視線を土影のジイサンからその後方へとスライドさせる。暁鼠色の羽織を纏った長身の男が、興味津々で皿の上の料理を眺めていた。

雨隠れ里長・テル。
我愛羅程じゃねェが若き君主だ。
忍連合加盟国の長が寄って集まってカカシさんと談笑してるってのに、雨隠れ里長だけがその輪に加わろうとしねえ。
そいつは影たちの会話の及ばぬ席で部下を従え、振る舞われた酒を飲み 飯を食っては、傍らに立つシズクに何やら耳打ちしてやがる。

ここは馴染みのねェ里だろうしわからんでもないが、外交そっちのけで一体何話してんだ?

「アナタの戦友たちも同じく妙齢でしょう?皆さんご家庭をお持ちで?」

「えーっと……だいたい独り身ですが」

カカシさんが水影に詰問する裏、失礼にあたらぬ程度に オレはテルとシズクの会話に聞き耳を立てる。

“月浦上忍、この料理は?”
“木ノ葉名物の伝統料理です”
“この酒は”
“お酒の味はよくわかりませんが 辛口で評判の銘酒かと”

なんだ、食いもんの話ばっかかよ。五大国の長を前に息巻いて親睦を深める様子もナシ。かといって敬遠する様子もナシってか。捉えどころのねえ男だ。

「六代目。そろそろお時間です」

「ああ、そうね。……すみませんねぇ。明日の会議のあとにでもイイ男紹介しますから」

カカシさんもようやく水影の追及を振り切り、次なる客人の元へと足を進める。
件の里長 雨隠れのテルへと近付いた。
テルは周りを気にせず料理を堪能している最中だったが、隣で待機するシズクが頭を垂れて一歩退くのに気付き、皿から顔をあげた。

「テル殿 今日はよくぞお越しくださった」

カカシさんが朗らかに彼に声をかける。

「あァ、火影殿。正式襲名おめでとう」

テルの第一声は快活で、仰々しさは感じさせられない。

「木ノ葉は初めてなんだが来て良かったよ。いい里だな。食い物はうまいし女も美人だ」

なんつーストレートな里長だよ。意表を突かれたが、六代目も表情を崩さず、両者は固く握手を交わしあう。

「……ときに 月浦シズクが迷惑をかけてやしませんか?今回の就任式に参列したいとシズクが無理を申したのではと思いまして」

カカシさんの穏やかな眼差しはテルの背後に控えるシズクに向けられる。さりげない会話だが微妙な駆け引きを感じさせる言葉だった。

「とんでもない。月浦上忍は実に良くやってくれてますよ。以前月浦上忍から アナタは恩師にあたると聞いてたモンだから、就任式は立ち会うべきと思いましてね。彼女は元々そちらの里の忍だし許可書はいらんものかとばかり」

「そうでしたか。心遣いをありがとう」

木ノ葉から持ち掛けた契約でシズクは今あちらさんの持ち物になってるわけで、オレたちが馴れ馴れしく会話することは今の主人への無礼にあたる。
元気だった?とか、顔見れて嬉しいよ、とか。カカシさんにも言いてえことは山程あるんだろうな。

「木ノ葉は若い世代が実に優秀だ。そちらさんは側近かな?」

いくつかの短い会話のやり取りがなされた後、ふと流れがこちらに向いてきた。

「奈良シカマル。若いですが木ノ葉随一の参謀です」

すっかりカカシさんの紹介されるがままになってたが、オレの名を聞いたテルの目が僅か見開かれたのを見逃さなかった。

「あァ、君の噂はこっちの里にも届いてるよ」

「光栄です」

「君にも世話になりそうだな。よろしく」

会釈し差し出された手を掴み――そこで気が付いた。人差し指から薬指までに、何か薄い 紙片のようなかさついた感触があることに。
なんだ?
顔をあげると、テルの目が弓なりに弧を描いている。

「くれぐれも宜しく」

ニッと笑みを浮かべ、テルの掌が離れていった。他の誰にも気付かれずに、小さな紙片をオレに握らせて。

“月浦シズクについて 君に話がある
戌の刻 この場にて待つ”


*

「へ!?」

式典を終え、日もとっぷり暮れた頃のこと。
テル様が急にへんなことを言い出すものだから、私は思わず奇声を上げてしまった。

「ほんとに、家に帰ってもいいんですかぁ!?」

「あァ」

「ほんとのほんとにですか!?」

「だから許可するって言ってんだろう。月浦上忍」

雨隠れの班員と夕食を共にし、今夜は仲間と交互に仮眠を取りつつテル様の護衛に従事する予定だった。
郷里での任務だからといって私情は挟まぬようにと 来訪する前から再三告げられていたのに、何故か今の今になって帰宅許可が下りたのだ。

「エイプリルフールじゃありませんよね?失礼ですが フリーを利用してナンパをお考えでは」

「自由時間撤回されたいか?」

「失礼しました撤回しないでください!」

なんでだろう、テル様の気紛れだろうか。
なんだっていい。つまり今からシカマルに会いに行けるってことだ。

「ありがとうございます。神様テル様仏様!!」

「しつこいなァ。ホラ帰んだったら早く出てってくれ。んで、明日の会議には遅刻しないよう」

「はい!行って参ります」


荷物を抱えて待機室を出た途端に全力疾走する。
風景はあんまり変わらない いや、この一年でまた少し変わっただろうか。暗いからよく見えない。

この坂を登ればあともうすぐ というところまで来て、道の向こう側に黒いシルエットが見えた。
近所の皆さんごめんなさい。騒音、今日だけ許して。

「シカマルーっ!!」

大声で名前を呼び 私はシカマルの首に腕を回して飛びついた。

「お前!なんでここに、」

「奇跡だよ!テル様から帰宅許可がおりたの!」

「帰宅許可…?」

ねえ 今日は一緒にいてもいい?そう口に出そうとしたが、目の前のシカマルが一際険しい表情をしていることに気がついた。

「……悪ィ ちょい野暮用があってよ」

「野暮用?」

私の背中を受け止めていたシカマルの手が強張り、やがて離れていった。
言葉少なな返事を残して、彼は里の中心部へ続く道へと歩いていく。街灯に照らされるまっくろな影は すぐに暗闇に溶けていった。

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