▼29 苦楽は共に

お次の謎かけはこれだ。
《木ノ葉隠れの里が最も力を入れてる行事と言えば?》
ヒント1。その行事は年に一度だけ。ちなみに今夜。ヒント2。今は夏。ヒント3。里は祭り囃子と火薬の煙で満たされる。

ご名答。夏の花火大会だ。

一大イベントに忍たちが動員される中、オレは関所に籠城、山積みの仕事を裁いていた。これはこれで骨が折れるが、クソ暑い熱帯夜の会場警備と天秤にかけっと 体よか頭を使う方が涼しい。集中できたもんじゃないが。

――コツコツ。
太鼓と花火の反響に混じって窓を小突く音がして、六代目火影からの鳩が重大任務発生の知らせを運んでくる。
こういうときはほぼ雑務だ。
今日は何のことだか。

連絡を受けて火影室に乗り込むと、六代目はいつもの調子で椅子に腰を鎮めていた。

「夏祭りにトラブルでもあったんですか」

「いや。お祭りは万事順調」

卓上にでんと置かれた四角い箱を、六代目が風呂敷で丁寧に包んでいる最中だ。

「もうじきシズクの誕生日でしょ。明日雨隠れに書状を送るとき、プレゼントも同封しようと思ってさ」

………やべえ。
シズクの誕生日 忘れてた。

「六代目様、公式なやり取りに誕生日祝い紛れ込ませて問題になりませんか」

「一筆添えてあるし大じょーぶ。ま、危険物じゃない限り押収はされないさ。それより お前の分もまとめて包むから すぐに贈り物買いに行っといで」

いつも一枚上手で、食えねえひとだ 六代目は。オレがシズクにプレゼントを用意してねェことも、あまつさえ任務に忙殺されてあいつの誕生日すら忘れてたことも、さりげなくフォローしてくる。

「六代目様も送るんですか」

「そ。オレはコレ」と、大事そうに箱をさする六代目。

「イチャイチャシリーズを全巻収録した特製ボックスだ。豪華特典として映画のDVD付き」

なんつーもん送ろうとしてんだこの人は。

「シズクの記念すべき十八歳の誕生日だからねえ。十八といったらコレでしょ」

六代目、イチャイチャタクティクスを詠唱した黒歴史はなかったことにカウントしてるみてーだな…

「…そういや、雨隠れから就任式参加の返答が来たって聞きました」

「いつもながら耳が早いねえ」

就任式をひたすらに拒み続けていたこの人が、最近になってようやく首を縦に振ったのだ。終戦から一年の節目には終戦記念式典をやるし、そこでなら、と。
五大国や近日加盟した小国の隠れ里が木ノ葉で一同に集結する、祝いの席になる。

「入国許可書のリストにはシズクの名前はなかったんだよねぇ…残念ながら」

残念というのはオレに対してか、それとも自分自身に言ったことか?
生返事を返してリストを預かり、オレは足早に執務室から退散することにした。

六代目の危険物が確実に押収されるとしてもだ。女の誕生日プレゼントってのはもともと皆目検討がつかねーし、他国に運ばれんなら尚のこと物に悩む。
怪しまれないものがいいんだろうけどよ。

「おーい!シカマル!」

祭通りで名を呼ばれた。誰だと聞くまでもねえ。
振り向くと、祭りの警備担当だったらしい いのチョウジが手を振りながらこっちに近付いてきていた。

「よう、久しぶりだな。警備か?」

「そ。今終わったとこよー。もうクッタクタ!」

「シカマルは?」

「オレはその、なんつーか」

「あ、判った。六代目からの“特別任務”だね」

「何でそれを…」

言いかけて、二人がそれぞれ手に持つ小包で大体を把握できた。

「お前らもか」

丁度良かった。こういうとき頼りになんのはやっぱダチだよな。


提灯で彩られた露店は目まぐるしい。粉ものにイカ焼きもろこしかき氷、翫具店は射的に水ヨーヨー。金魚すくい。
そういやいつだったか シズクの前で格好つけようとして、カカシさんとオレでバカみてえな小競り合いしたっけな。あんときの嬉しそうなシズクの顔、まだガキだったがなんつうか…。
っと 思い出し笑いはかっこつかねえな。口の端が緩んでいけねェ。

「シカマル、あれがいいんじゃない?」

いのが指差した一角は簪や櫛を広げた的屋で、浴衣姿の若い女子たちが集まって 櫛や簪を手に取っては順々に鏡を覗き込んでいた。

「簪か」

和装に合う華やかな装具が並んでたが、あいつが簪を飾る姿がどうも思い浮かばねえ。どっちかっていうと、うまく纏められずに悪戦苦闘する困り顔ばかりで。

「こっちの櫛はどう?」

チョウジは飾り紋の入った櫛を手に取った。

「キレイだけど…でも櫛って、忌み言葉を連想するじゃない?女子に贈るには誤解を招きそうよね」

櫛にかけて、苦と死か。成る程。鈍感なオレらじゃ気付かねェ いのらしい気遣いだ。

「確かに贈り物としては好まれないがな。ただなぁ兄ちゃん、男が女に贈るときはかえって、苦難があっても共に添い遂げようってことにもなるらしいぜ」

オレたちの会話を聞いた商人が苦笑いしながら言った。
なんか究極のプラトニックラブって感じね、いのは頷く。反面チョウジは隣のたこ焼きの屋台に目を奪われている。
苦楽を共に添い遂げる、か。大層なプロポーズだ。だが今は流石にタイミングが悪ィな。
結局 オレはその店で良さげな簪を購入したのだった。


*

雨隠れの里長・テル様の呼び出しを受けて私が執務室に伺うと、卓上は様々な物品で賑やかになっていた。

「どうなさったんですか?」

「どうもこうもないさ。これ、これ」

テル様は18禁マークの入った小説の数々を指差していた。

「君って随分如何わしい本を好むんだな。意外」

「誤解です!私が輸入を希望したんじゃありません」

“誕生日おめでとう。お前もついに大人の仲間入りだ。よく読んで勉強しとくように”――添えられていたメッセージカードにはこう書かれてあった。

カカシ先生のドすけべ。任務の赴任先でこのイチャイチャシリーズを受け取れと?

「…テル様に差し上げます」

「ホントか?そりゃあ有難い!このシリーズは雨隠れじゃ売ってないんでね」

テル様は多大なる興味を示し(そういやこの方もドすけべだった)、鼻の穴を膨らませながら小説のページを捲り始めた。

そのほか、贈り物はみんなからのもたくさん同封されていた。
奈良家の家紋入りの小箱を見つけて、私はすぐに手に取った。上箱を開けると、華奢なつくりの 大人っぽい簪が姿をあらわす。


随分と忙しそうだが、元気にやってっか?

お前の誕生日だっつーことで、祝いの品を同封した。
この前の夏祭りで 露店に出てたんでな。そんとき見つけた簪だ。ここ最近のお前の髪型は知らねーが、髪伸ばしてんならこういうのも必要だろ。任務のねェ時にでも使ってくれ。
まちがっても武器にゃ使うなよ。

誕生日おめでとさん。


前に指輪をもらったけれど まさかシカマルがアクセサリーを選んでくるとは思わなかった。
女の子が集う露店で、仏頂面で簪を選ぶシカマルを想像して、それだけで胸がいっぱいになる。

「…シカマル」

思わず声に出ていた。

「《シカマル》って、例の婚約者?」

イチャパラを熟読しながらもテル様は耳ざとく、聞かれてしまった。

「はい」

「ふ〜ん」

連合に未加盟の雨隠れに、シカマルの名前はそう知られたものじゃないらしい。余計な詮索をされなくて助かった。

頷いて、簪をきゅっと握った。火照った指先に心地よい つめたさ。家に帰ったら、すぐにお礼の手紙を書こう。
うまく結べるかなぁ。

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