▼24 信じてる

同刻・鉄の国

雪舞う空に聳える荘厳な舎屋は、春も近い今日この頃でも未だ白雪をすっぽり被っている。この忍連合本部入り口に、木ノ葉隠れから来た三人の忍の影が並んだ。

「やっと着いたな」

肩に積もった大量の雪を払い、奈良シカマルが着込んでいた木ノ葉の里の外套を脱いだ。

「間に合った。開始時間ギリギリセーフね」

同じくサクラも外套をしまい込むと、背後にいる護衛対象のほうへと振り向いた。

「カカシ先生……じゃなかった、六代目様。外套は預かります」

「別に言い直さなくても、そのままでいいんだけどね」

と、残るカカシが自分の外套をサクラに手渡しながら苦笑いした。火影の名入りの正装は雪原に溶け込むように馴染んでいる。

「木ノ葉でならまだしも、里長会議で“カカシ先生”なんてポロッと言っちゃったら流石にマズイでしょ。シカマルですら最近じゃ口の聞き方に気を使ってるのに」

「サクラ」そのシカマルがたしなめた。

「話は後だ。本当に遅刻する前に入るぞ」


鉄の国、忍連合本部。
五影会談は、最近になって“忍連合里長会談”という名で召集されている。円卓には並ぶ七つの椅子が、この名称変更の経緯を物語っていた。

既に鎮座する四人の影たち。
それぞれの護衛兼補佐官に加え、六つ目の椅子には草隠れの里長が。さらに真新しい七つ目の椅子には、滝隠れの里長・シブキが席を連ねていた。

六代目火影の背後に立ち、奈良シカマルはいっそう堅固な顔つきで会談に望む。戦前は、同じポジションに奈良シカクが背していた。今ではその息子が同じ役目を受け継いでいる。彼の働きぶりは、五影たちも承知の通りである。

鉄の国の侍・ミフネを進行役に会議は定刻に始まった。

「前回の会談にてご承知の通り、本日を以て滝隠れの里が新たに忍連合に加盟なさることになった」

終戦後 忍連合の本格始動から早数ヶ月。ぽつぽつと、五大国以外の隠れ里が加盟を表明し出している。

「宜しくお願いします」

滝隠れの里長シブキは朗らかな笑み浮かべていた。
シカマルがシブキを見るのはこれで二度目。聡明な首領で、人同士の繋がりが生まれればこの世に争いは無くなると 前回の会合で大胆にも言ってのけた男だ。滝隠れが小さい里ながら実力ある忍を輩出しているのも頷けた。
五大国の隠れ里は戦後も決裂せずに手を取り合ってきたが、忍界には両の手で数えきれない忍里が存在しているのだから、大国だけ結束していても真の平和は見えてこない。小国の連合参加は願ったり叶ったりである。
このように加盟里が続々と増えるのは良いが、シカマルの仕事は、それに比例して増える。草隠れが加盟した折りは鬼燈城の警備改正に奔走。滝隠れの場合は、尾獣を失った分の力の均衡を図る必要があるなどと、会議中も彼の頭脳は忙しない。

「――次は雨隠れも顔を出して来たらいいんじゃがよ」

最中 オオツチの小声が聞こえてきた。
雨隠れが加盟すれば岩隠れの東側の情勢も安定する、と見越しての願望だろう。
重鎮の言葉に耳を傾けながら、前にいるカカシが、チラリと背後のシカマルに目配せをしてきた。
意味深長。
恐らく、これまで内密にしてきたシズクの任務の件を(諸事情あって我愛羅は既に知っているが)、この席で他の里長たち全員に話すつもりらしい。
言うならば話題に出た今このタイミングだ。他の者には判らないようにちいさく頷いて、シカマルも同意した。

「実はその件でお話が」


土の国、火の国、風の国。
三つの大国に囲まれ、かねてより戦火の絶えない土地だった雨隠れ。大国への恨みつらみを捨てきれないこの小さな里に、とあるくのいちが 覚悟を決めて飛び込んでいったこと。
平静を努めて、カカシは内密にしていた案件を打ち明けた。

「初耳じゃぜ」

木ノ葉が内々に雨隠れへ協定をもちかけていたと知り、里長たちの反応は当然のことながら思わしくなかった。

「その月浦シズクというのは確か…例の忍界大戦で奇跡的に生き返ったという医療忍者のことですね?」

「はい。雨隠れの里長の一存でこの場に報告できませんでしたが、二年間の締結が上手くいけば、連合加盟も検討するともおっしゃった」

「ええい、此度は随分と腰が低いな、火影?そもそも雨隠れの里長は信用にたる者か?前任はあの暁の首領だぞ!月浦シズクに一任するのも信用ならん!」

協定締結で対談した里長のテルは、気さくな人物でかなりの技量も感じるが 隠忍自重の名君とは呼びがたい。各々の不信感を露にする影たちから理解を得ようとカカシは心を砕いた。

「あちらの里長殿については図りかねるとしても、シズクに関しては保証します」

「根拠は?」

「あいつは木ノ葉の里や連合に忠誠を固く誓ってる、心から信頼のおける私の弟子ですから」

カカシは揺るぎない声で断言した。
はたけカカシの弟子と聞いて、他の里長たちも疑う余地はない。
忍界大戦で世界を救った二人の英雄と、この会議の護衛として同席するサクラは揃ってカカシの弟子。これほど信頼にたる人選もないだろう。

「オレもその忍とは多少の面識があるが、そいつが裏切ることはまず考えられない。強引ではあるが、雨隠れの交渉はその忍に任せてみないか…あいつなら橋渡しの役を必ず成功させるだろう」

里長たちの反応を見ていた我愛羅もカカシの肩を持った。
うまくいけば、国と国 里と里の間には、因縁という名の関係を経て 新たに和解の橋がかかる。
彼女に託したいというカカシの思いを知り、臨席した長たちは皆 最後には頷いてみせた。


同刻・狭間

「そういうことだったか」

シズクが語る真実を聞き終えたカンダチの顔には、冷嘲が。

「…ハハハハハ…」

侮蔑のせせら笑いが狭間にこだました。

「その眼を見たときに思ったことは間違いではなかったというわけだ」

手を出さずとも開ききった瞳孔をシズクに向け、カンダチは彼女の周囲を蛇が這うようにゆっくりとにじり寄る。

「俺の人生は最後までお前らの眼に翻弄されていたのだな。お前の父は半蔵だけではあきたらず、身内から腹心に至る全ての人間を根絶やしにしておきながら、神を名乗っていた…ふざけたことを!俺や部下は故郷の里を追われる羽目になったというに!!」

「オイ、黙れ」

耳元で容赦なく浴びせかけられる怒声に、眉をつり上げたのはシズク本人ではなくサスケだった。彼の右手は外套下の刀に触れている。

「お前も随分と罪を重ねてる身だろう。お前にシズクを糾弾する資格はない」

「サスケ、いいの」

シズクはサスケの牽制を拒む。怖じ気づくことなく、カンダチの主張を受け入れた。

「父さんのやり方が残忍だったことに変わりはない…だからこそ、私は、」

そこでカンダチの怒りの火にさらなる拍車がかかる。

「ハハハ!偽善者ぶるか?小娘が!惜しいな…俺が生きていたらお前を真っ先に貝螺王の生け贄にしてやるところだ!!」

「そうしたければ、そうすればいい」

毅然とした声だった。シズクは振り返り、射抜くように鋭い瞳でカンダチを見つめると、薄く唇を開いた。

「私はあなたを蘇らせることができる。ここから元の世界に連れ戻しましょう。私が憎いなら、生き返ってから、煮るなり焼くなり好きにすればいい」

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