▼本戦開始

中忍選抜試験 第三の試験本戦。
開始直前、一般観覧席は大勢の見物客で満席になっていた。第一の試験で試験係を務めた神月イズモとはがねコテツは、作業服のまま観客席に紛れていた。

「そういえばコテツ、お前 予選の数合わせであの湯隠れの忍と戦ったって言ってたな」

予選を見ていないイズモは、ふと耳にした話を思い返し、隣にいるコテツに問いかける。が、コテツは途端に苦虫を噛み潰したような顔をした。

「実は結構本気で相手しようと思ってたんだがよ」

他国の忍でも、下忍相手に力の差つけられっと自信なくすよな。コテツは盛大にため息をついた。

「中忍のオレが対峙して、圧倒的な差見せつけられたんだぜ?」

「あのシズクとかいうくのいち……どうするかな」


仲間の試合を見に来たサクラといのは、試験場中央で整列した出場者を見渡す。ナルト、ネジ、シノ、シカマル、シズク、砂の忍が三人に、湯隠れの忍。その列には、どういうことか 二人の想い人であるサスケの姿がなかった。

「サスケくん、まだ来てないわね。どうしたのかしら」

「……」

サクラの脳裏に、サスケの首元につけられた痣がふと過る。もしかしてこの1ヶ月の間にサスケの身に何か起きたのではないか。まさかまた、あの大蛇丸が。
不安に駈られ、俯いたサクラ。
しかしそこに、背後からサクラの名を呼ぶ声がある。

「よ!久しぶりだな サクラ」

「カカシ先生!!」

1ヶ月ぶりに姿を見せた第7班の担当上忍は、今日は奇跡的に時間通り現れた。

「カカシ先生、サスケ君がまだ来てなくて……」

「分かってるよ。アイツは心配ない。まだオレと修行中だから」

「どういうこと?」

「今のオレは影分身なんだ。本体のオレはギリギリまでサスケの術を詰めてるとこ」

「……そっか、良かった。サスケ君に何かあったわけじゃないのね!」

カカシの普段通りのおどけたような口調に、サクラはほっと安堵のため息をついた。


「あ、変態上忍」

サクラとカカシの会話が耳に入ったのか、ちょうどいのの前席に座っていた1人の客が彼に振り向いた。黒髪のくのいちは、カカシが一月前に出会ったカジの弟子 ヌイだった。

「誤解を招くような呼び方しないでくれるかな、キミ」

「真実を言ったまでよ」

「その人 カカシ先生の知り合い?」

「まーね。……ヌイ シズクの試合観戦しに来たのか?」

「あいつが来いってうるさいから。アタシはただ、師匠の鍛えた刀の切れ味を見に来ただけ」

「ふーん、なるほどね」

不器用な照れ隠しをしてプイと前に向き直ったヌイに、カカシはこっそりと苦笑いをした。
何年も里に降りなかったヌイの心を、あいつが揺り動かしたってとこか、と。


*

桔梗城で殺害されたハヤテに代わり 試験官に任命された不知火ゲンマがリングに降り立つと、対戦表の変更を出場者に伝えた。無論、今回出場不可となったドス・キヌタの最期については、我愛羅を除く他の出場者は与り知らない。

「いいかてめーら これが最後の試験だ。地形は違うがルールは予選と同様一切無し。どちらか一方が死ぬか負けを認めるまでだ。ただし、オレが勝負が着いたと判断したらそこで試合は止める。わかったな」

受験者たちは唇を固く結んだまま、ゲンマの次なる指示を待つ。

「じゃあ一回戦だ。湯隠れのキリュウと木ノ葉隠れの月浦シズク、この2人だけ残して他は会場外の控え室まで下がれ!」


「おい……」

シカマルが物言いたげにシズクを見やるも、当のシズクは落ち着き払った笑みを浮かべていた。

「大丈夫。心配しないで」

そうはいったものの、心配しないほうがむしろおかしい。だがシカマルはそれ以上他言せず、控えの観覧席へと上がっていった。
2人の忍と試験官だけが残ったところで、シズクはポーチから額宛てを取り出し、ギュッと結む。途中でほどけることがないよう、固くきつく。

「珍しいわねー。シズクが額宛てつけてるとこなんか初めて見る」

「普段は絶対つけようとしないのに」

やがて試験官の不知火ゲンマが開始の合図を叫ぼうとしたが、シズクが手を出して制した。


「試合の前にいいですか」

そう言い、対戦相手と向かいあった。

「湯隠れのキリュウ。数年前の中忍試験の本戦で、お前が木ノ葉の忍と戦って殺したっていう話は……本当?」

会場内がシズクの発言によって静寂に包まれた。
頭を垂らしていたキリュウは顔をあげ、ククと低く笑みを漏らす。

「忘れたなァ。雑魚は記憶に残らねェ」

シズクは反射的に、血が滲むほど強く拳を握った。

「そう」

彼女は握った手のひらを胸の前で合わせて関節を鳴らした。

「今回はそうはさせないからね」

光の宿る澄んだ瞳には真っ直ぐ強い意志が宿っていた。シズクは再度指を鳴らし、凛とした表情で口元だけで笑んだ。



「第一回戦、キリュウ対月浦シズク。始め!」


――キキィン!

合図が告げられると同時に両者は鯉口を切り動く。刃が交わる音が連続するががそこに姿はなく、一拍の後に2人は距離を置いて着地した。

「え……!」

ぽかんとした表情のサクラに言い、カカシは片手で額宛てを上に押し上げる。カカシとて 写輪眼を使わないと目が追えない。彼の赤い目に、それぞれ刀を手にした二人の忍が写る。
シズクは正眼の構えを正し、チャクラ刀をぶんと一振りするが、刀は鞘から取り出したままの色だ。

(そうだ。初っ端では秘密兵器は使うな。もう少し引きつけろ)

リングでは対戦者の刀が交差し続ける。その様子に、ナルトは興奮した面もちで物見席から身を乗り出していた。

「シカマル、なんだってばよあの武器!シズクあんなん持ってたかァ?」

「チャクラ刀だろ。アイツが持ってるとは知らなかったけどよ」

ただの刀ではなくチャクラ刀であるということは、その刀身にチャクラを込めて戦う筈だ。自らの師 アスマの戦闘スタイルを重ねて、シカマルはそう推測する。
そのやや離れたところで、ネジは白眼を発動して様子を視ていた。キリュウの刀の腕は相当のもので、速さもさることながら、確実にシズクの急所に狙いを定めて斬撃を放っていく。対して シズクはキリュウの攻撃をするりとかわし、相手の動きを軽々しくかわして刀を振りかざしていた。


「あの子、剣術も使えたのね」

「あの動きは木ノ葉剣舞か。カカシの奴も古風だな」

第十班の弟子の試合を見物しに来たアスマは、隣に連れ立っているやはり上忍仲間の紅に話しかけると、彼女は感心したように頷いた。

「たしかに型にとらわれない剣舞の柔軟な動き、彼女にはピッタリだわ」

斬り合いに慣れるため この1ヶ月のほとんどを剣舞の達人 ヌイと過ごしたのだ。
上達ぶりには目を引くものがある。

刀筋は火花を散らすほどに激しく衝突し、その度にシズクはくるりと回りながら敵の太刀を防ぎ、後方に跳躍しては間合いをとった。
しかし シズクの息が切れ始めていた。

(向こうが早すぎる。体力を消耗したら後半はスピードに追いつけなくなる!それに防戦じゃラチがあかない!)

先手を取る必要がある。
シズクがキリュウと距離を詰めようと動いた そのときだった。

「げほ……っ!?」

シズクが突として噎せこみ、口から血を吐いた。

「ケケケ。オセェんだよ」

対戦相手の変化に、キリュウは口が裂けるような気味の悪い笑みをもらした。

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