▼14 木ノ葉と雨とむし

「この前の会議の件だけど、承認通り本部が鉄の国に置かれることになったよ」

「じゃあ新しい任務システムも本格始動するってわけッスね」

「ああ。さしあたって問題になるのは人事だ。任務依頼を統括し、各里の戦力を把握した上で適材適所を見極め依頼を振り分けることの出来る頭脳が連合に必要になる。その例の仕事、お前に頼みたいんだけど」


遡ること数ヶ月前、本格的な連合発足。六代目は厄介な席をオレに薦めた。あのときオレの口をついて出てきた台詞は めんどくせーではなく「やっぱそうなるか」だった。
それきりオレは今までの態度を改めた。火影の前でだらしない若者敬語は用いない。めんどくせーは、使うだけ時間の無駄だった。言ったって何かが解決するわけでもなし。頑なだと言われても仕方ねェ。これがオレ流の大人になる方法だった。


あの短すぎる手紙から1ヶ月後。定期連絡の折りに シズクからは手紙が送られてくるようになった。
はじめこそ生来の元気はなかったが、手紙の内容は次第に好転し、シズクが少しずつ雨隠れの里や忍たちと打ち解けていってる様子が見てとれた。
依然として五大国と小国間は膠着状態。但し草隠れが連合に加わることになって世界情勢は傾いた。同じく雨隠れも五大国の同盟に参加すればさらに明るくなる。
要の任に従事するシズクに、粗野ではあるが、しかし欠かさず返事を書いた。


そっちが軌道に乗ってきたみてェで安心した。
噂じゃ一年中雨が降りやまねえ里だと聞いてたが、案外そうでもねェらしいな。川面に架かる虹っての、お前が好きな《風雲姫》シリーズのラストみてェな あんな感じだろ?さぞかしいい眺めだろうな。

そういや 手紙は夜書いてるってあったが、あんま夜更かしすんなよ。かえって効率が悪くなる。現に今回送られてきた手紙、所々ミミズがのたうち回ってるみてーな字で、なんかの暗号かと思った位だ。
ちゃんと寝ろよ。
じゃあまた。

追伸 上忍になってもこき扱われるとは正直思ってなかったぜ。




久しぶり。
忙しい合間に手紙を書いてくれてありがとう。

ようやく良いおしらせができます…最近ね、同い年のくの一の友達ができたの!
おしゃべりではないけどとても優しい子たちで、私の考えも理解してくれて。困ったときは手を貸してくれるの。味方になってくれる人がいるのって、すごく安心するね。

時間のあるときに傘をさして歩きながら、道案内してもらって、町並みやお店もほとんど覚えました。この前の休日は、その子オススメの甘味処へ行きました。同封した落雁は、そのお店で買ったものです。
覚えてる?おやつの時間にさ、おばさまはお茶と一緒によく落雁を出してくれたよね。
ちっちゃい頃はあんまり好きじゃなかったけど、これは甘すぎなくて美味しいよ。
無事届いたかな?

任務に忙殺されてることと思いますが、たまにはおばさまとお茶しながら、体を休めてください。
ちょっと多めに送っちゃったから、待機所のみんなにも分けてね。
追伸 あなたの親友宛てに名産の岩魚の燻製を送ろうとしたんだけど、伝達鳥に狙われてダメでした。お菓子で勘弁してねって伝えてください。




よう。元気か?
土産の菓子 無事届いた。公平に分けようとしたが、母ちゃんを含めた女子連中に殆ど食われてなくなっちまった。
あと お前の師匠が言うことには「今度は菓子じゃなくてうまい酒送ってこい」だとよ。本当にあのひとは無茶ばっか言うぜ。

こっちは今月から本格的に雪が積もり出した。
雪かきの任務依頼が増えてとにかくめんどくせー。ま 配分は下忍班だし 気長にやるつもりだがよ、こうも大雪だと大変だ。


仲良くできる奴ができて良かったな。


*


定期連絡に併せてシカマルからの手紙が届く日が、いつしか私のいちばんの楽しみになっていた。
どんなに短くてつっけんどんな言葉でも、私が書いた他愛もない内容に相槌を打ってくれるのが嬉しくてたまらない。
月に一度のやりとりが待ち遠しかった。

仲良くできる奴ができて良かったな。
先月の手紙、末尾に添えられていた一文を思い返す。
もうすぐ定期報告を出す時期だ。こんどの手紙にはなんて書こう…なんて調子の良いことをいつまでも考えていたかったけれど、現実はそうもうまくいかないのだった。

雨隠れではまたしても事件が起きた。否、この言い方は適切じゃない。事件は既に起きていて、その原因が遂に片鱗を現したと言った方が正しい。
数ヶ月前 雨隠れ郊外を流れるミソギ川周辺で活動した数十名が急病を訴えた例の奇病事件。あのときの騒動の原因をつきとめるべく、被害を受けた人たちに当時の状況を聞いて回っている頃のことだった。

「虫みたいだった」

「虫?」

「そう。川の水で目を洗ってたら、僕の手と目に ぞわわって、ちっちゃくてみえない虫がたくさん這ってくるかんじ」

スイレンの弟で、件の被害者であるデイゴ君の証言から、私の推論は始まった。

虫。
蟲。
――寄壊蟲。

木ノ葉隠れの旧家・油女一族は、無数の寄壊蟲を身体に飼い 武器とする。自分のチャクラを与えて、戦闘や諜報活動に用いるのだ。“虫とチャクラ”そう連想して真っ先に思い至ったのは、シノの術。そして、シノが忍界大戦後に提出した報告書に記されていた、ある毒蟲の存在だった。
私の記憶が正しければ、シノは忍界大戦で 穢土転生された同一族の忍・油女トルネと戦っていた。ナノサイズの毒蟲を身に巣食わせる秘術使いで、彼に触れた者はたちまち毒蟲に感染し、打つ手はないと言う。
トルネの毒蟲に予め耐性を備えていたシノだからこそ応戦できたが、これを教訓に、秘伝忍術使いが穢土転生された場合のマニュアルを作成すべきである――資料には、たしかそう綴られていた。

肉眼で目視不可能。
触れれば全身に至る毒蟲。
デイゴ君の直感を信じるならば―――あれはウイルスや細菌を扱う忍術ではなく、蟲そのもの。

しかしこの推測には穴がある。
仮に毒蟲だとして、既に穢土転生から解放された死者の術がなぜ今になって、それも大戦跡地から離れた雨隠れの地に及ぶのか説明がつかない。
だいたいこの世には数多の術があるのだから、蟲だからと油女一族の術に断定するのは尚早だ。

油女一族に シノに話を通すのが手っ取り早い手段なのだろうけど、火影様宛の報告書は全て雨隠れ側が検閲している。闇雲に火影経由で油女一族にコンタクトを取ること自体、リスクが高い。「雨隠れで毒蟲が暴れてたみたいで、里民が危険な目に遭いました」なんて、報告書に明記できるか。
万が一にも奇病が本当に蟲の仕業だとしたら、木ノ葉隠れと雨隠れの関係は一気に後退を辿るだろう。
まして私が赴任してから日が立たずに起きた事件ともなれば、犯人として白羽の矢が立つのは、他ならぬ私だ。

どうすればいい?

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