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サクラたちが二度目の受験生として受験し、シカマルやテマリさんが試験官を務めた、とある中忍試験。
関与していない私の知るところではないけれど、その内容については聞き及んでいる。シカマルから聞いた限りでは、我愛羅を快く思わない砂の上役がクーデターを画策していたとかで第二の試験が中断されたはずだ。
「あの頃の雨隠れは、表向き前体制に成り済ましてはいたが 裏ではペイン様の変革が進んでいた。私とスイレンは感知能力で他里の実力者を探り、人柱力の炙り出す任を受けた…中忍試験を口実にだ。それで私らともう一人……アジサイの三人で試験に参加した」
「人柱力探し…」
幸い大事には至らなかったけれど(木ノ葉崩しといい中忍試験は問題ばっかりだけど)、雨隠れにも思惑があったなんて。
私は合理的な人間じゃないから、ふと考えてしまう――もしもそのとき ナルトが試験に参加していたら?
参加してたら、どうなってたんだろう。
「試験の途中だった。ある木ノ葉のスリーマンセルと戦闘になった。柔拳使いに、お団子頭のくのいち。それと奇天烈な身なりのオカッパ」
「それ、まちがいなくネジとテンテンさんと、リーさんだ」
「やっぱ知り合いだったか。あんたが砂の国境警備とそのリーって忍の話をしてたから、そうじゃないかと思ってた。あの戦いの末、アジサイが地下の遺跡に落下して、あっちの仲間も一人巻き込まれた。それぞれの仲間を救出するために、私たちは手を組んだんだ。あいつらには随分助けられた。…木ノ葉や砂に赴いて、あいつらに会って知った。他里には仲間のためなら敵とも休戦したり協力したりできるような奴らがいるんだと」
「それでフヨウもスイレンも私を木の葉の忍だからって邪険にしなかったんだね」
「あいつらがとても自由に見えた。私らもこれからはそういう風に変われるんじゃないかって思った」
自由。
ガイ班の三人がフヨウの目にそう写ったと聞いてはじめこそ意外に感じたものの、よく考えれば合点がいく。
忍術が使えないリーさんのコンプレックス。能力のいかしどころが分からないというテンテンの悩み。己の立場を《籠の中の鳥》と称したネジの長年の葛藤。それらの内情を抱えて三人が戦ってきたことは、傍目からフヨウたちには判らなくて当然。
自らの忍道を模索できること自体を自由だと感じたのならば、それはそれでひとつの真実なんだろう。
懐かしげに追想している一方で、フヨウの表情には影があり、どことなく寂しげだった。
その理由も彼女は話して聞かせてくれた。
「アジサイは殉職したんだ。あの試験で中忍に昇格して、初の任務だった…アジサイはそのテンテンってやつと再戦を誓って別れたんだが…果たせなかったな」
「…ごめん、立ち入ったこと聞いちゃった」
「いいんだ。心の整理はついてるし、アジサイの意思を受け継いでこれからやってこうと思ってる。アジサイも今頃は西の塔で安らかな眠りについてるだろうし」
事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、そのアジサイという忍の行方については、私はおろかフヨウですら知り得ない顛末がある。
アジサイが眠るのは死者の塔ではなく火の国木ノ葉隠れの外れ。死後 彼女の遺体は新たなペイン《畜生道》として人知れず雨隠れを離れたのだった。他のペインと共に、使命を全うするために。
私がその事実を小南の手記で知るのは、もう少しあとの話である。
すこし迷って 息を深く吸いそして吐き、私は「黒髪の柔拳使いを覚えてる?…ネジは…戦争で殉職したの」フヨウにそう告げた。彼の死を共有していた木の葉では、少なくとも、口にせずにまかり通っていたことだった。
目をそらさずにいたい。
そうでなきゃ、ネジを怒らせる。悲しませる。
「そうか…かなりの手練れだったが…残念だったな」
「ネジにがっかりされないように、自分の足で立って、しっかり歩かなきゃって思う」
そうだ。
ネジだけじゃない。あの戦いで おじさまやいのいちさんたちが私たちに繋げてくれたものがある。そして 由楽さん、お父さんにお母さん、アスマ先生、自来也様。託していってくれた人たちに、恥ずかしい姿は見せられない。
さびしいなんて いじけてる場合じゃなかった。
二人であれこれ話こんでいるうちにスイレンがやってきて、私たちは三人になった。
忍のチーム編成において最も基本とされる三人組。
スリーマンセル。
欠けた人を補うことは永久にできないけれど、私たちはここから新しく始めるのだ。
「今さっき、デイゴの視力が完全に回復したの。すっかり元気になった…アナタのおかげだわ。本当にありがとう」
「力になれたなら良かった。まだ安心はできないけどね」
「お祝いしなきゃだな」
「お礼といっては何だけど これからご飯でもどう?奢るわ」
「私たちいきつけの店があるんだ。安くてうまいとこ」
「ほんと?行きたい!ぜひ!」
そのアジサイという子はいない。ネジはいない。
でも私たちがこの先 手を取り合うことができれば、ガイ班とスイレン、フヨウは、また再会できる。
「そうと決まれば早速 一緒に食べにいきましょうか」
あの中忍試験のときは大変だったね、なんて笑いあえる日がきっと来る。
その日を思い描きながら、私はスイレンとフヨウのあとを追った。
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