▼09 チェックメイト

「部外者は引っ込んでていただけますか」

頸椎まで達しなかったのは幸いでしたが、びりびりと麻痺したような痛み、動きを止めるには充分な損傷でした。手足を鎧兵に拘束され、そうこうしているうちにハイドは鉱脈の扉を開く鍵を見つけてしまった。

「ああ、困りましたね。また尊い犠牲が増えてしまう」

迸る閃光。吹き飛んだ体。
ハイドを妨害しようとしたネルグイが、カヒコさんが、石の力の前に成す術もなく倒れていく。

「力の加減がよくわからないな…うーん、まあ いいか」

再び放たれた閃光。しかし、それが誰かの命を奪うことはなかった。カヒコさんに向けられた衝撃波を、テムジンが刀身で以て食い止めていたんです。

「なんのつもりですか、テムジン?」

「申し訳ありません。ですが、すでにゲレルの鉱脈は我々のもの。このような無力な老人など、捨て置けば」

「そういうことではないのですよ。的の前に立たないでください。」

「は…?」

ゲレルの石を操り、鉱脈を手中に収めたハイドにとって、テムジンの利用価値はとうに失われていた。理想郷の指導者の役を演じるのにも飽きていたのかもしれません。

「そこにいると、お邪魔なんですよ」


弱き者に手を差し伸べる救済者?とんでもない。彼は、人の命を弄ぶ恐怖の独裁者。

残酷なまでの真実を明かしたハイドは、テムジンからゲレルの石を抜き取り、迷いのない一撃を浴びせました。
「役立たずは死になさい」いともあっさり切り捨てて。

記憶のかけらを頭の最奥に消し去り、易々と騙されたテムジンが悪い?違う。どう考えてもコイツが悪い。
何もかも失ったこどもにとって 手を差し伸べてくれる大人がどんなに大きな希望になるか、知ってる。だからこそ許せませんでした。

「テムジン!」

「…おれ…は……おれ…たちは……いったい、なんのために…」

信じるものを失い、重ねてきた罪の重さを知り、絶望にうちひしがれるテムジン。
奇妙なことに、わたしを拘束する鎧兵にも、不可思議な異変が現れていました。それまで強靭な力でわたしの四肢を食い止めていた兵たちの力が次第に抜けていったんです。
ハイドに加勢するわけでもなく、テムジンの絶望に共鳴するかのように深く沈黙していた。
そこで気付きました。
この鎧兵たちは、こどもたちの生命エネルギーを抽出して作り出されたもの。いわば彼らの魂であり、心そのもの。
こどもたちの固い忠誠心が強靭な肉体となり、いくら傷ついても立ち上がる傭兵が生まれた。
そして今、ハイドの野望に利用されていたことで深く傷つき、兵力は急に衰えた。

「ホントにそれでいいの?」

鎧兵の腕から抜け、物言わぬ彼らに問い掛けてみました。

「テムジンが…仲間がピンチのときに、あなたたちはまだあんな奴に服従するの!?」

顔はない、声はない。けれど届いていた。
たしかに聞こえたような気がしたんです――――――「守りたい」って。


ナルトとテムジンを襲う閃光は、二人の手前、鋼鉄の背中に炸裂して。二体の鎧兵は二人を庇い、倒れて動かなくなりました。

テムジンの頬に、溢れて伝う涙。仲間の背中に横っ面を叩かれて、ようやく目が覚めた。
それまで頑なに感情を見せなかった彼が、歯を食い縛り、ハイドに射抜くような鋭い眼差しを注ぎました。

「テムジン、やれるのか?」

「ああ」

ナルトの問いに力強く頷いて、二人は駆け出した。


あとになって、全てが終わってから、テムジンはこう言いました。
ナルトの言う通りだった。仲間を犠牲にする夢など、あってはならなかったんだ、って。
ねえ綱手様。もしかしたら、忍道も騎士道も、案外おんなじようなものなのかもしれませんね。



オレが応戦したのは蝙蝠に擬態する女騎士だった。この期に及んでやっぱ敵は女かよ……っといけねェ、その話は別に大して重要じゃねーんだ。
海の向こうの大陸じゃ、チャクラを使わねェ戦闘スタイルが確立されてんじゃないっスかね。
幻術と飛行能力に特化したヤツで、影を扱うオレとしちゃ ああも飛び回られちゃ分が悪かったんスけど、敵の足取りを追って同じく遺跡に侵入したらしいカンクロウが、丁度よく居合わせて。好都合だった。オレがトラップで敵をポイントへと誘い込み、カンクロウがクロアリで仕留める。即席の連携にしちゃ、出来は上々だったんじゃねーかな。

地下最深部に潜ったシズクやナルトんとこに 一刻も早く駆けつけてェところだったが、先を急ぐ前にオレたちにゃもう一仕事残ってた。
移動要塞に取り残された、こどもたちの救助ッス。
無茶苦茶な侵入で要塞も傾いちまってたし、オレとサクラ、カンクロウ、我愛羅で、カプセルからこどもたちを助け出して急ぎ遺跡の外へと運んだ。

「こいつらの様子はどうだ?サクラ」

「息はあるけど意識が戻らないの」

「そうか…」

抱えたこどもを隣に寝かせ、再度往復しようと立ち上がった、ちょうどそのときだった。地鳴りと共に地底深くから揺れと衝撃が地表に伝わってきた。

「なんなの!?」

「まだ地底遺跡にゃあいつらが残ってるってのに。めんどくせーことになってねェだろうな」

振り返り様に谷を見下ろしながら、オレは思わず呟いてた。

「…くそ、無事でいろよ」




ハイドを倒しても、まだ大きな問題が残っていました。激戦の影響で鉱脈の扉の鍵が壊れ、封印が解けてしまったんです。
崩壊した天井の向こう、鉱脈のエネルギーの塊は荒れ狂う滝の流れのように波立ち、いつ何時こちらに押し寄せてくるかもわからない状況で。

「暴走が起きたらどうなる!」

「わからん。じゃが、帝国が滅んだ時のことを考えれば…大陸の半分が吹き飛んでもおかしくはない」

「なんだって!?」大陸の半分といったら、木の葉や砂隠れはおろか、忍の世界そのものがあっけなく潰えてしまう。

「どうすれば止められるの?」

「残念ながら止める方法はない」

「でもカヒコさん、さっき石はこの世からなくすって言って何かしようとしてたじゃない!」

「そうだ。あんたはなにか方法を知ってるはずだ。さっき言っていた、あの床の術式はなんだ!」


テムジンが指差した先には、カヒコさんが短剣を突き立てようとしていた場所、紋様のある床だけが、崩れずに残っていた。そこに組み込まれていたのは、王家の血で契約された、特殊な口寄せでした。

この日まで決して呼ばれることのなかった、全てを飲み込む時空の穴。カヒコさんが言うことには、ゲレルの鉱脈が時空の穴に落ちてしまえば、暴走もなくなるって。
しかしリスクは大きく、術式の中央より時空の穴が出現するために、術の発動者は時空の穴に吸い込まれてしまって、生きて帰られない。


「そういうことか」

テムジンは目を閉じ、小さく呟きました。そして立ち上がると、
「じいちゃん、生きて帰れないって――」まだ状況を飲み込めてないナルトの首筋に手刀を食らわせました。

「ナルト…!テムジン、何を」

「償いにはうってつけの役割だ」

「!?」

「みんなを頼む」

そう言い残し、テムジンは封印の術式へと踏み出しました。その腕を掴むと、彼は僅かに視線をこちらに向けて振り払う。

「テムジン!方法は他にもある!わたしたちが影分身で…」

「お前、さっき“騎士”の話をしていたな」

「え?」

テムジンが唐突に持ち出したのは、地底遺跡でのやりとりのことでしょうか。

「お前たちが戻らないとその騎士は悲しむだろう」

「え…ちょっ、」

再び捕らえようとしたそのとき、わたしとテムジンの間にゲレルの鉱脈から奔流が押し寄せ、彼の影は瞬く間に彼方に見えなくなった。

「テムジン!」

いなくなって悲しむとか、そんなの
お前も一緒じゃんか。

数秒の迷いの末、わたしはよだれ垂らして気絶してるナルトの横っ面を、パァン!!力一杯張り飛ばしました。

「…ナルトォ!起きろおおお!」

こうしちゃいられない。最善手を考えるんだ。誰一人犠牲にならない道を。

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