▼決意の朝に

一面墨色だった天井が段々と明るくなっていく、
試合前夜 というかもう、当日朝。
結局、全然寝付けないまま空が白んできていた。
いっそ起きてしまおう。
身支度を整え、早めの朝食をとり、夜が明けないうちにわたしは家を出た。

大通りの商店では、今日の中忍試験の話で持ちきりらしい。

「今年の中忍試験、お前は誰に賭ける?」

「オレぁ断然うちはだな。五千両かけてもいいぜ!」

「バカ言え。分家っつっても木ノ葉最強の日向一族がいるだろうが!」

「砂隠れの“砂漠の我愛羅”ってのもかなりヤバいって噂よ」

「この奈良ってまさかシカク上忍の息子さんか?」

「油女一族もいるな……旧家の跡継ぎは勢揃いだな」


「にしても……オイ、この月浦シズクって、あの国境沿いで捨てられてたっていうガキか?」

「そのガキといい九尾のといい、こんなのが木ノ葉の代表を背負うなんざ話にならねえな」

鉢合わせするにも気まずくて、わたしはこっそり屋根づたいに、慰霊碑の方角へと進んだ。
この季節は早朝だけが涼しくて心地よい。
さくさくと緑を踏みしめ、目的地へ。
由楽さんがなくなったここは、やっぱり特別な場所で、何かにつけて来てしまう。

今日は、そこにはすでに先客がいた。
白い衣が風にはたむき、名を呼ぶと笠が傾いて、三代目様の顔が覗いた。

「三代目様!」

「おお、シズクか」

「おはようございます。ずいぶんとお早いのですね」

「お主こそ 本戦の出場者はまだ体を休めてる時間じゃろうに……こんな明星に墓参りか」

「気持ちが高ぶって寝れなくなってしまって。それに…まだ由楽さんに報告してなかったものですから」

「シズク、ここでは畏まる必要はない。以前のように三代目のおじいちゃんと呼んでもよいぞ?」

「火影様をそんなふうにはお呼びできません!」

三代目様が笑うと目の横にしわができる。それを見るのが、好きだ。
たくさんの名前が刻まれた御影石の前にひまわりをおき、そっと手を合わせる。殉職ではないから由楽さんの名前はここには刻まれていない。
わたしを守って、彼女は英雄になり損ねた。


「由楽のことは、本当にすまなんだの」

となりで佇んでいた火影様が静かに口を開いた。
深い慈愛に満ちた低い声だった。

「おやめください。三代目様のせいではありません。何度も頭を下げられては……」

「いや 里の長たるものとして、あまりに不行き届きじゃった。お前にはその後もつらい思いをさせ続けたの。肩身の狭い思いをしたじゃろう」

「……わたしが孤児院ではなくおじさまのもとで暮らせたのも、アカデミーに入学できたのも、下忍になれたのも、すべて三代目様のおかげです。感謝のしようもありません」

「ワシに出来たのはほんの些細なことじゃった。あとはお前の頑張りがあってのこと」

三代目様は煙管を離し、ふうと煙を吐き出した。


「あの……ひとつおたずねしてもよろしいですか?」

「なんじゃ」

「わたしのアカデミー入学も下忍登録も、ご意見番の方から反対されていたと聞きました。三代目様はどうして許してくださったんですか?」

「……お前には火の意志が宿っておるからじゃ」

「火の…意志?」

「里を、里に生きる人々を守ろうとする意志のことじゃよ」

「忠誠心というものでしょうか?」

問うと、三代目様は少し笑った。

「シズク、お前にはどんな強い忍もかなわないほどに、里を大切に想う強い気持ちがあるのじゃ。だからワシはお前を信じとる」

「……はい!」

火の意志、か。
わたしにはあるのかな。三代目様の気持ちに見合うだけの力があるのかな。
たぶんまだ全然足りないはず。でも三代目様が信じてると言ってくださった。その信頼に答えたい。

「木ノ葉の額宛てをつけるには、わたしはまだまだ未熟者ですが……でも精一杯戦います!」

「うむ。ワシも楽しみにしとる」

由楽さん、ここまできました。
あなたとの約束を果たすために、まずは第一歩です。
今度は、今日は、自分の腕で戦います。
がんばるから。みててね。


「その火を絶やさぬようにな」

「はい!!」

夜は動き出し、眩しい光が青空の朝をつれてきていた。

- 54 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -