▼茜のそらと小さい背中

木ノ葉じゃ奈良一族もそこそこ名の通った一族だし、オヤジが上忍なだけあって、忍の世界に足つっこんでる自覚は一応あった。
だが、今聞かされた砂漠の我愛羅の話は、まるで異次元。アスマや孫の木ノ葉丸……火影の家族は何かと大変な思いもしたらしいが、少なくとも家族の絆はある。
ひきかえこの我愛羅ってやつは、マジで悲惨な人生送ってやがる。兄弟とすら解り合えねえ深い溝。生きてきた世界がまるきり違ェ。

ナルトは完全に震え上がって、オレの影真似は時間切れ。迫り来る砂の脅威は先程と比較しても遥かにデカイもので、逃げ道はナシ。

「やめて!!みんなに手出ししないでっ」

その刹那、シズクが飛び出して我愛羅に立ちふさがった。

「お前はなぜ何度も人の盾になる」

「そんなの大切だからに決まってるでしょ!?」

バカ野郎、あんなヤベー奴相手にオレたちを庇おうってのかよ。
シズクに砂の手が迫ってるっつーのに、影真似の使いすぎでチャクラが足りねえ。
ちくしょう。このままじゃ。

「ならばお前から先に死ね」

と、我愛羅は何の感情もねェみてーに冷たく言い放った。

「シズク!!」

砂がシズクの鼻先を掠めたそのとき、突として誰かが叫ぶ声がした。


「そこまでだ!」

扉に立っていたのは真緑の全身タイツに黒髪おかっぱの…確かガイって名の上忍だ。リーの担当上忍の。
上忍の牽制に、我愛羅は砂の動きを止めた。

「本戦は明日だ。そう焦る必要もないだろう。それとも今日からここに泊まるか?」

「!くっ……」

流石に分が悪ィと感じたのか、それとも何か別の考えがあってのことか。殺気の途絶えた我愛羅は、頭を抑えてフラフラと頼りねェ足取りで扉へ歩いていった。

「お前たちは必ずオレが殺す……。待っていろ」

最後の最後に、背筋も凍るような捨て台詞を呟いて。

*

その後、ナルトとは言葉少なに別れた。
シズクは病室に残ると言って聞かなかったが、オレは半ば強引に アイツの手を引いて帰った。
あんな危ねェヤツに遭遇して、どっか安全な、安心できるとこに行きてェと思った。
真っ先に浮かんできたのはやっぱウチだった。

日も落ちてきてたが、オレは将棋盤を縁側に運んで駒を並べ始める。
なんか手を動かしてねえと頭が混乱しちまいそうだった。あれから何度も、我愛羅の顔が、目が、言葉が頭をよぎる。どうしても離れてくれねェ。
シズクは指し方どころかルールすら満足に身に付いていない。アスマよりも相手にならねェ。オレはガイドブック片手に、ひとり将棋を差し始めた。
パチ。木の心地よい音が廊下に響き、徐々に心が鎮まってくのを感じた。反対に、シズクのヤツはじっとしてられねェのか、廊下や庭を落ち着きなく行ったり来たりしてやがる。

「ナルト、大丈夫かな」

「さあな……力量違いすぎてだいぶビビってたみてェだけど」

「それだけじゃない。ナルトには……」

「ナルトには、なんだよ?」

「……ううん。なんでもない」

シズクが口を閉ざしたために、続く言葉は聞けなかった。
我愛羅の言ってたことも気にかかったが、言われてみりゃ ナルトの様子もおかしかった。自分が本物のバケモノ飼ってんだとかなんとか、妙なこと言いやがって。

「……あーっ、もう!!」

あちこち彷徨いた挙げ句、シズクはいきなりオレの後ろに座ったかと思うと、背中をくっつけて凭れてきた。

「っオイ!」

「ちょっとだけ背中貸してて」

「なにがちょっとだ 重いんだよっ」

オレの気も知らねェで、シズクはどっか上の空で、こう訊いてくる。

「ねえシカマル……家族から必要とされないのって、どれほど苦しいんだろ」

「は?」

「あの砂忍の班、姉兄弟でこの里に来てるのに、なんだか仲悪いみたいだし……殺すとか、あんなふうに傷つけることが関わりだって言ってたよね」

試験会場で砂のスリーマンセルを見てても、あいつらには血の繋がった兄弟の雰囲気が全くなかった。怯えた姉と兄と、冷酷な目ぇした弟。
仲が悪ィ、で済むような易しいモンじゃねえだろう。恐怖と憎しみで繋がってる感じがありありと伝わってくる。

「なんか怖い。明日の試験も……なにか悪いことが起こりそうな 嫌な予感がする」

「……」

嫌な予感、か。コイツは試験だけじゃなく、死の気配っつーのか、不吉な空気を肌で感じてる。

さっきガイ先生が割って入ってきてなかったら、今頃シズクもオレもナルトも全員まとめてあの世行きだったはずだしな。
ただでさえ冷や汗の止まらねェ事態の上に、オレたちの盾になろうとしたシズクを見た瞬間、心臓が止まるんじゃねェかと思った。

いつもなら邪険に扱う背中を、今日は引きはがすことができねえ。
コイツがどんな表情をしてるのかはわからなくて、ただ、なんとなくこっちからも背を押し返してみる。

「予感は予感だろ」

「そうだけど」

「人間焦ったり無理したってろくなことねーぜ」

オレは猫背のまま、赤みの差してきた空を仰いだ。ただでさえ女に守られかけたってのに、これ以上不安を駆り立てたら、男として情けねェよな。

「よけーな事勘ぐったってしょーがねェよ。こうして空みてるとよ、オレたちなんてちっぽけなもんだと思えてくるぜ」

「……なんかジジくさい。悟り開いた?」

「うるせー」

首だけ逸らして横顔を覗き見ると、シズクはたいしたことねェみてーなフリしてやがった。
やっと笑ったな。
励まし方が粗末で、自分でも呆れちまうぜ。背中のあったかさと鼓動の早さに、ほっとしたのはオレの方。言葉なんかなくても、こんなふうにそばにいられる存在が、あの砂漠の我愛羅にゃ、いんのかな。

こんな暑い日にあんまひっつくな、といいつつも、後ろから見られたら頬が赤ェのがバレちまうかもしれねーな。
西日のせいにでもしとくか。

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