▼39 何万回でも応えよう

深夜にも関わらず、木ノ葉隠れの阿吽の門前は里の民でごった返していた。オレたちの出迎えだろうな。まあ大方予想はついてた。なんたって地球滅亡の危機を救った任務だったんだからよ、スルーされても拍子抜けだしな。

「おかえり〜!!」

「よっ!世界の英雄!地球の救世主!!」

「月ってどんなとこだったんですかァ?」

だがこれはこれでめんどくせー。火影邸に直行しようにも道という道に人だかりができてんじゃ足止めを食っちまう。

「ただいまだってばよ!みんなァー!」

オレは後ろからナルトの肩を引っ張り、耳打ちした。「ナルト、悪ィがここは任せた」

「あ?任せるって何を?」

「皆聞いてくれよ!ナルトとヒナタ、付き合うことになったんだぜ」

群衆に向かって声高に宣言すれば、たちどころに各所から絶叫と歓声があがる。親しい仲間うちじゃヒナタの長年の片思いは周知の事実だしな、感慨深いだろ。ナルトは里の英雄、ヒナタは深窓の令嬢なわけで、それぞれ狙ってたやつらは御愁傷様だが。

「っつーわけで引き付けててくれよな」

「おい!!」

ナルトとヒナタは瞬く間に人垣に飲み込まれてった。
今がチャンスだ。流れに逆らい、ポカンと突っ立ってたシズクの手首を掴む。

「シズク、ボサッとしてんな。今のうちにカカシさんとこ行くぞ」

「え?」

「お前のほうの面倒事はまだ片付いてねーだろ」

「……うん」

シズクは小さく頷き、オレの腕に引っ張られるまま流れに逆らい始めた。


*

明け方でも、火影邸に火は灯されていた。六代目ときたら、事件が解決した後も休憩ひとつ取らずに復旧対策を考じていたらしい。

「只今帰還しました」

「おかえり。お前たちならやってくれるって信じてたよ」

カカシさんは深く穏やかに笑った。
日向ハナビ奪還と月の接近を阻止、そのふたつの任務のあらましを伝え終えた後、シズクは与えられてたもうひとつの任務について話をきりだした。

「カカシ先生……これを」

シズクは腰からポーチを外してカバーを開ける。収納された忍具の上に、手のひらサイズにも満たない薄桃色の欠片。やわく薄い花びらのように、吹けば飛んでっちまいそうだ。
思慮深い六代目は、カグヤの宝具に触れようとはしなかった。

「“天の羽衣”だな」

「奪取には失敗したんです。“天の羽衣”は目の前で燃やされたはずだったんだけど、帰り道でポーチを開けたら、この小さな欠片が入ってたの。きっとトネリが滑り込ませたんだと思う」

「そうか……」

月での別れ際、大筒木トネリはオレの記憶については一言として語らなかったが、奴は物自体の返還を、謝罪の形に選んでやがった。正直ありがてェけど、そんならそうと早く言えっての。帰りがけに恥ずかしい台詞連発しちまったじゃねーかよ。

「テンテン、どう思う?」

カカシさんが傍らに控えさせてたテンテンに声をかける。忍具のエキスパートは待ってましたといわんばかりに返事をし、嬉々としてポーチを受け取った。すぐさま巨大な虫眼鏡を取り出し、つぶさに観察したのちに、にっと笑った。

「六道仙人の宝具がそうなんですけど、この手の秘宝の類いって、簡単には壊せないんだそうです。自己修復機能が備わってるらしくて。現に形状の大部分が破壊されても組織は残ってるし。見てみてください。コレ、端の方からちょっとずつ広がってきてるでしょ?」

「復元可能か。じゃ、その中に蓄積した記憶も修復されるもんなんスか?」

「おそらくわね。資料によれば、“羽衣”から記憶を取り出すには対象者がもう一度被ればいいらしいわ。直ればこっちのもんよ」

「……よかったぁ……!」

シズクの顔がへにゃりとほころぶ。そういや任務中はめいっぱい笑ったシズクの顔、見たことねェ。こいつ、こんなふうに笑うんだな。

「今日明日とはいかねェだろうが一先ずは安心だな」

「オレの目から見ると、別になくても良さそうなんだけどねぇ」

「?」

デスクに両肘をついてオレたち二人を眺めるカカシさんの半月瞼は、あやしいものを睨む目付きで。

「お前たちの仲、一回任務組んだだけの同僚って間柄じゃなさそうなんだけど」

オレの隣で、シズクは一気に頬を赤く染める。

「カカシ先生、そ、そういうわけじゃ」

状況を察したテンテンもニヤニヤして合いの手を入れる。

「なーんだ。“羽衣”なくてもいいのかァ〜」

「ちがいます!それとこれとは別で、記憶は記憶で、その、私のこと思い出して欲しいし!」

「ハイハイのろけェ〜」

「テンテンさんっ!」

正直に顔に出てやがる。コイツ、嘘がとことん下手くそなのはオレに対してだけじゃねェんだな。
フォローするつもりも煽るつもりもねェけど、これだけ言っとかなきゃオレの気が済まねェ。

「ま、揃いも揃って皆でオレを騙してたってのも最終的にゃ功を奏したってことじゃねェスかね」

ぎく。ぎく。ぎく。
六代目、テンテン、シズク。一様に白々しくオレから目を逸らしては冷や汗をかき始める。せめてもの報復だ。大人気ねェけど、大人ねェのはどっちだ、って話だよな。簡単にゃ許さねーからな。

「シカマル、それについては……」

「それについては皆にも謝ってもらわねーとな」

カカシさんの詫びを途中で制して、窓の外を指差す。

「下、行きましょうよ。あいつらのとこ」

胴上げの掛け声にあわせて、オレンジの影が高く宙にほうりだされてんだろう。

広場は大盛り上がりだった。

「ほら、あれ」

親指を向けるとカカシさんは目をしばたき、体を傾けて騒ぎの方向を眺めた。

「へェ……」

顔を赤らめたヒナタの脇をうるせェ女二人で固めて訊問。テンテンもそこに加わった。胴上げから下ろされたナルトはナルトで、キバに肩を回されて照れた顔してる。チョウジが笑顔で手を叩いて、サイはスケッチブック取りだして筆を走らせる。
皆いい顔してやがる。

「やっとか」

「やっとっスね」

「えへへ」

シズクは泣き笑い。

「一時はどうなっちゃうかと思ったけど、またこうしてみんなでいられるの、嬉しいな」

シズクのこれが自然体なんだろう。もうオレの前で過度に大人しく振る舞うことはない。笑いたきゃ笑って、泣きたきゃなけばいい。
お前はお前で、
お前はオレの隣で。
それはこれからも変わらねェから。

天にあっては比翼の鳥。
地にあっては連理の枝。最初からひとつじゃなかったから出会えるってやつだ。

またよろしくな。


「そうそう。気を揉んだよ。ま、お前たちの件も、うまくいかなかったらオレがまたしゃしゃり出るしかないかなーって思ったりして」

「しゃしゃり出る?」

「あ、今のお前は知らないんだよねェ ハハハ。流石にこの歳で三角関係ってのはキツイんだけどさ」

「もー、カカシ先生ったら」

「……三角関係?」

おいおいどういうことだよ、相当めんどくせー位置関係にいたんじゃねェか?
なあ、前のオレ。

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