▼これからの記憶

風の国 砂隠れに程近い都市“楼蘭”。
シズクたちの生きる時代でこそ砂漠に埋もれる遺跡であったが、その昔は 空に届かんばかりの千の塔を有する、栄華を極めた都市であった。地下深くの龍脈から運ばれるチャクラにより繁栄を支えた楼蘭は、今まさに最盛期を迎えていた。それだけなら何も木の葉が介入することはない。
問題はその龍脈の用途。近年の楼蘭では大臣格の何者かが執政補佐の裏で暗躍し、龍脈のチャクラを悪用しているとの噂があるのだという。
尖塔の隙間から表を伺い、カカシはヤマトとシズクに説いた。

「あの傀儡忍部隊も龍脈のチャクラでつくられてる。仕込み武器以外にチャクラで攻撃してくる」

「傀儡なのに術者の気配が見えないけど」

「楼蘭の傀儡はチャクラ糸が広範囲なんだ」

「厄介な兵器だね」

「あれは地下でつくられていて、もっと危険な兵器もあるらしい」

遅めの自己紹介と状況整理済ませたヤマトとシズクは、はたけカカシの非凡さを早々に痛感することになった。
未来人に出会うという特殊な状況事態を理解するのは大人でもまず難しいことで、たとえそれができたとして、好奇心であれやこれやと質問攻めになりかねない。しかしカカシ少年の場合は、二人が木の葉の仲間だと充分な確信を得た段階で、潜入先の都市に関する情報を共有したのだった。

「オレは今から下にいって、地下装置の稼働をとめる」

チャクラ刀を手に一歩踏み出したカカシの瞳は、鋭く、緊張感が滲みでている。幼稚さの影もかたちも見当たらない。
尊敬する父の背中に追い付くため、そして自分を信頼した上司に応えるため。彼の覚悟は大人顔負けである。

「カカシ君、その任務協力させてもらうよ」

「!」

「ボクたちがこの時代に飛ばされたのは単なる偶然じゃないようだし、キミの任務はこちらの件に繋がってるのかもしれない。それに 時代は違えどボクたちは同じ木の葉の仲間だしね」

「……」

「もちろん、キミは信頼されてこの場を単独で任されているのだろうし、キミの技量をもってすれば一人で事足りるかもしれないが」

「……アンタたちが足ひっぱらないんなら、ついてきてもいーけど」

そのつっけんどんな返しに、シズクは首を傾げる。
自分がよく知るカカシなら、「そ。んじゃ頼むよテンゾウ」と素直におまかせするところだ。
今のカカシの素っ気ない態度は、サスケの返事を彷彿とさせる。幼い頃はカカシも尖った性格だったのだろうか。
額あてがまっすぐ結ばれた横顔や、暗部の刺青が未だ刻まれてない細腕を見ながらシズクはしばし物思いに耽った。
歳だけは聞いたけれど、今のカカシには写輪眼はない。カカシが身を投じるであろう戦乱の世は、今度の、未来なのだ。


* * *



この時代の者と未来の者で同じ任務を全うするにあたり、ヤマトの心にやや不安要素が生じた。彼女の思考が意味ありげに視線に含まれたのを、見落とさなかった。

「すまないが5分ほど時間をもらっていいかな。他の仲間と無線で連絡が取れるか試してみたいんだ」

カカシは半月瞼の上にシワを寄せたが、首を縦に振る。ここでもやはり 目先の興味に惹かれず己の任務をまっとうする彼の責任感が幸いした。
ヤマトはシズクを連れてカカシから距離を置いたが、取り出したインカムの周波数を合わせるフリをしているだけ。
小隊長の用件は最初からナルトではなくシズクにあった。

「ヤマト隊長、ナルトの無線とは…」

「その前にキミに忠告がある」

「忠告?」

「シズク、キミとの任務はこれがはじめてじゃないし、ボクらの時代でのカカシ先輩との仲を見れば キミの考えそうなことは大体想像がつく」

先回りした言葉だった。シズクは隊長の言わんとする警告を察知し 目を落とした。

「いいかい。任務において時空間の矛盾が生じた場合、過去の者と未来の者、双方の記憶を抹消する封印術がかけられるのがセオリーだ。任務遂行以外の余計な記憶は無かったことになる」

「……わかってます」

「そうだろうね。幼いカカシ先輩ですら熟知してる規則をキミが知らない筈はない。わかってる筈だ。彼に何を吹き込もうとも無駄だよ。筆記での手渡しも禁じられてるってことも」

「でも」

「ダメだ」

忸怩たる思いを抱えつつも、シズクは本心を口にする。

「ヤマト隊長には変えたい過去はないんですか?楼蘭のことだけじゃなくって、カカシ先生のことや木の葉のことも、これから起きる悪いことはなんだって……今なら止められるかもしれないのに」

「変えたかった過去なんていくらでもあるさ。だがそれは忍の使命じゃない。キミは変えた結果に対して責任が取れるとでも思ってるのかい?それで君ひとりがいなくなる程度で済むのなら一向に構わないけどね」

「大きな変化を起こすつもりはありません。ただ…」

「先輩に父親の末路を話す?彼に親友たちの死を止めさせる?それとも君の家族を守らせる?今目の前の任務にあたっている忍に、これから起こることを突きつけるのはあまりに残酷なんじゃないか?」


ちいさなの蝶のはばたきも 世界の裏側で嵐を起こす。
隊長の責務として部下の甘い考えを冷静に咎めつつも、シズクの心情を推し量れないヤマトではなかった。
負けず劣らずの過酷な少年時代を過ごしたヤマトゆえに頷きたい気持ちは大きい。実験体にして唯一の適合者。大蛇丸が去った後 ダンゾウの元へ保護されキノエとして“根”に所属していた日々。カカシとの出会い、戦い。そしてテンゾウになった日のこと。
そのすべてはこれから起きるのだから。


激動の戦乱を共に潜り抜けてきたヤマトなりの思いやりなのかもしれないと、ややあって、シズクはゆっくりと頷いた。

「……すみません。慢心が過ぎました。カカシ先生を見て、あんな小さな子でも任務についてると考えたら…つい」

「判ったならいいんだ。ボクとしてもキミの気持ちは痛いほどわかるからね」

「……」

「キミはどんなカカシ先輩を想像してたんだい?」

「え?」

「先輩の幼少期だよ」

「そうですね……もっと肩の力が抜けてて、けだるそうな感じ…かな。だから6歳のカカシ先生がこんなに生真面目で、生意気だとは思わなくて。意外だなぁって」

先輩がめっためたに言われていることには目を瞑って、ヤマトは後輩としてせめてものフォローに興じた。

「キミのよく知る 一見だらしないカカシ先輩はこれからつくられるんだろうね」

「これからつくられる?」

「そう。カカシ先輩に訪れるのは何も苦難や不幸だけじゃない。その全てを経験して先輩は大人になるわけだし、幾多の試練を乗り越えてキミの先生になるはずだ。それなのに彼から取り上げるわけにはいかないだろう?」

シズクが回避させたいとのぞんだこの先の出来事の数々。それらは、自分たちがはたけカカシに会うためにすべて必要なことであるとヤマトは念押しする。
過去のあらゆる出来事が今後必ず起こり、また結果として今の自分が出来上がった事実を肯定して。

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