▼おまけ…特典映像はスクリーンの君

(overrain完結の直後位のお話です)




スクリーンが唯一の明かりとなる暗がりで、シカマルはもう何度目かわからない欠伸を噛み締めた。


“何を言うのです!あなたのお陰で、私達はどれ程勇気づけられたことでしょう!”

気だるげに座席に体を埋めるシカマルとは正反対に、隣の席のシズクは 風雲姫の涙に貰い泣き。
しょうがなく、シカマルは幼馴染み――否、最近に彼女に昇級した――から目を離し、画面へと戻したのだった。

任務で忙しい日々が続いてたから 当然この劇場内では眠気を誘われる。内容に集中しようにも、退屈だ。麗しの正義の姫君が悪の敵をやっつけるまさに王道展開。シナリオなんて先は読めてしまう。それでも、かなり前 雑用を押し付けられたがために自分がドタキャンした映画が、シアターで再放映しているとなれば、やはり行かないわけにもいかないだろう。


(しっかし…)

周囲の席を見渡して、シカマルは眉を寄せる。満員客は結構だが 問題はそのメンツ。全員が全員忍である。
“風雲姫の冒険”シリーズ完結編は、撮影のメイキング特典を収録したDVDの発売でかなり売り上げを伸ばしたと聞く。この上映も、本編とメイキングをわざわざ同時公開するようだ。

本編が終了し、特典映像の上映に移り変わったことでシカマルの疑問は晴れて解決することとなる。

(なんだよコレ)

思えば本編の視覚効果がやたらリアルだと感心していたが、それもその筈。
忍者の職務上の掟として ボカシが入ってはいたが、巨大な氷鯨をコピーして出現させたのは第7班の担当上忍ではないか。
豪火球はサスケの十八番忍術だし、影分身するオレンジの忍装束なんて、どう考えてもナルトしかいない。氷山の雪崩の隅の方に、ちらりとサクラが映っていたような気もする。


(オイオイ…まさか、)

女優・富士風雪絵を護衛する第7班の影がチラホラと映り、これはまさかとシカマルが額に青筋を立てたところで、その予感は現実のものとなる。

場面は雪絵が敵(悪頭魔王ではなくあくまで実在する敵のようだ)に拐われた後に移り変わる。
ひとりの下忍が、覚束ない足取りで雪の斜面を降りていく。疲労が色濃く、下忍は仰向けに転倒した。それを、カメラを乗せた台車が迎えにいく、というシーンらしい。

“こっちこっち!雪道走るより早いっスよ!”

“皆さんまさか行くってんじゃ…流石にダメですよ!さっきの見たでしょう!忍の戦場に民間人を連れてくわけには行きません!”


(この声…)

イヤな予感しかしない。


“止めたって無駄だせ 嬢ちゃん。オレたちゃ 雪絵の今の仲間だからな”

成る程 ドキュメンタリーながらなかなかにアツい展開だ。だが、まずいのはここから。


“…お願いしますっ!カントク!!”

仰向けに見上げてくる疲労困憊の下忍、シズクがドアップでスクリーンいっぱいに映し出される。それも、ボカシも何もかかってないではないか。シカマルは口に含んでいたウーロン茶を盛大に吹き出した。

(身内じゃねーかよ!!)

シカマルは隣に座る彼女の手首をおもむろに掴むと、映画館の座席をあとにした。



*


「まだ途中だったのに〜…」

「うるせェ」とシカマルはシズクの不服そうな溜め息を打ち切る。

「あんなん見てられっかよ。めんどくせー」

むしろシカマルの方が不平を言いたい側であった。
任務上の守秘義務とはいえ、シズクたち新米の下忍がいつの間にあんな高度な任務に出向いていたのか、本人から聞かされていないような気がする。
けれど、そんなことで文句をつけても幼稚だし、とシカマルは息をついて濁した。


「小雪さんがね」

シカマルの隣を歩くシズクが言う。「そんなに風雲姫に憧れてるんなら、アナタが風雲姫になればいいのよって言ってくれたの」


「風雲姫?お前が?」

「そう」

「お前の場合風雲姫じゃなくて風来坊だろが」

「シカマルまでっ!」


どうやら第7班の仲間たちにも散々馬鹿にされたらしい。
機嫌を損ねて眉をつり上げたシズクを見、シカマルは仏頂面を崩し、くつくつと小さく笑い出した

「お前は間違っても物語のヒロインにゃなれねーよ」


それでいい。

というよりその方がいい。


さっきみたいに、スクリーンのこちら側 不特定多数の観客に向かって、ああも嬉しそうな 無防備なまでの笑顔を注がれては、彼氏たる自分も気が気ではないじゃないかと、本人には内緒で シカマルは頭の中でひとりごちた。

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