▼SCENE12「春」

「宝は!宝はどこだ!」

力押しでシズクを一蹴したドトウが周囲を見渡す。しかしドトウの望む隠し財産は一向に姿を見せず、代わりに雪の下の固い地面が、蒸気をあげながら顔を覗かせていく。

「発熱機だと!?これが風花の秘宝だとでも言うのかァ!」

何かの間違いと祠へ足を向けたドトウに、近づくは鳥の囀りのような連続音。

「喰らえ 千鳥!!」

振り返ったドトウの胸部――チャクラの鎧の核が存在する位置目掛けてサスケの千鳥が接近する。

「その程度の術がこのワシに通用するものか!」

サスケはドトウの一撃を腹に食らい、氷柱に容赦なく叩き付けられたが、サスケの千鳥は鎧の核に決して小さくはない亀裂を入れていた。

「ナルト…風穴は開けた」

後はお前がやれと、遠退く意識の中、サスケは仲間に詰めの一手を託す。

「ナルトォ――――――――!!!」



呼んでる。

(オラ…化けギツネ!)

仲間の声に応えるために、ナルトは自分の中のもう一つの力に呼び掛ける。

(こんなとこで縮こまってんじゃねェぞ!根性見せろォ!!)


再び歩み出したドトウの足元が、小刻みに振動しを始めた。振り返れば、灰色の海が火のように赤く染まり、次第に大きな揺れとなる。

「な…何だ!」

振り向いたドトウは目撃した。隆起した海面から宙に放たれるように飛び出してくる、何十という数のあの金髪の下忍の姿を。

「今までの借り!利子付きで返してやるぜェ!!」

多重影分身はナルトがチャクラの抑圧を克服した証である。ドトウは両腕から黒龍を放ち、見境なしにナルトの影分身を襲う巨大な竜巻を編み出した。

「双龍暴風雪…!!」

竜巻で黒く濁る視界に、佇むのは仁王立ちのドトウだけ。

「終わりだ!これで何もかも終わりだ!ハハハハハ!!」

高笑いがつんざく。目を細めた雪絵は、しかし、ある気配に気が付いた。

「まだだって 言ってんだろうが!!」

まだ終わりじゃない。
ナルトとその影分身が作り出す球体は、雪煙を掻き消すのだ。自信に満ちた強気の笑顔を携え、何度でも立ち上がって。


「終わりってのはなァ!正義が勝って!悪が負ける!ハッピーエンドに決まってんだよ!!!」


「ナルトォ!!」その眼差しは 凍てついていた雪絵の心にも火を灯した。

「私は信じるわ! アナタは 風雲姫が認めた、最強の忍者よ!!!」

「んなこたァ、判ってるってばよ!!!」

大地を蹴って駆け出したナルトに、地平線から差し込む光。氷壁は呼応するかのように目映いばかりの光を放ち始めたかと思うと、六角の中心にあるナルトの螺旋丸に虹色の輝きを与えたもうた。

「七色のチャクラ…!映画と同じ…」

鮮やかな七色に 雪絵やその場に駆けつけたサクラたち ドトウですら その美しさに目を奪われ、動きが空振りした。

「喰らえ!螺旋丸!!!」






夢か、幻か。

虹の氷壁を覆う氷が粉々に砕け散った瞬間 世界は芽吹く。

「な、なんだァ!?」

音の波紋が伝わるより早く、大地に緑が伝わった。

雪絵が手をついていた氷柱は、苔むした岩肌に変わる。
足元は青々しい草花。かつて絵巻物を見ては想像した、色とりどりの野原だ。
コートの下の肌が汗ばむようなあたたかな風。木々には分厚い葉が繁り、空を映す湖も抜けるような青い色をしていた。

「こりゃあまさか…立体映像ってやつかァー!」

草原のどこかで監督のマキノが叫んでいるようだ。
夢じゃない。
幻でもない。
雪絵は否定する。
この花の香りも、蝶々のはばたきも――――


「未来を信じるんだ」

懐かしい声がした。

「そうすればきっと、春が来る」

七色に輝く巨大な姿見、段々と鮮明になっていくのは、幼い頃の自分だった。

「小雪は 春になったらどうしたい?」

「小雪はねえ、お姫様になるの!」

私はすぐにそう答えていたんだ。

「ふうん どんなお姫様?」

「んーっとね、優しくって…強くって…そんでもって、正義の味方のお姫様!」

「はははは、そりゃ大変だなァ」

こどもらしい欲張りな夢に 父上が笑っている。「私、あんなこと言ってたんだ…」忘れたことすら 忘れていた。


「でも諦めないで、その夢をずーっと信じていれば きっとなれるさ」

立体映像に現れたもう1人の姿が、幼い私に夢の鍵を託して、首に結んだ。
目をまん丸にして姿見を見つめる私の肩にやさしく手を添えて、こちらを覗き込む。

「見えるだろう?ほら、ここに とってもきれいなお姫様がたってる」

父上が、今の私を見つめてたしかに微笑んだ。
夢じゃない。
幻じゃない。
氷の心も春が来る。胸が溢れるようにあたたかくて 少し痛んで、目から熱いものがどんどん込み上げてきてもう止まらない。
信じた夢はすべて現実のものになる。

「でもね、小雪悩んでるの。もうひとつなりたいものがあって!」

「なんだい?それは」


「女優さん!」





「……あははは…!」

父上と一緒に 私も思わず笑い声をあげてしまった。
そうだった。思い出した。

私の本当の夢。

ねぇ幼い小雪姫、あなたはもうひとつなりたいものの方の夢を 先に叶えちゃったわよ。ひねくれて随分理想とは違ってるかもしれないけど。
これから、もう片方の夢も叶えてあげなくっちゃね。

聞かせてあげたくて、涙が溢れて止まらない。
今はただ、からりと晴れた空のように 嬉しい。
まるで春の芽吹きのように。


「へへ。“小雪”さん、やっと笑った」

「…これで、ハッピーエンドだぜ」

そよ風をうけ、揺れる柔らかな草花。
小雪姫に咲いた笑顔と大きな虹の橋。
雪の国の春なんて、いったい誰が想像しようか?
それは冒険した者だけの秘密。

未だ広がる虹の向こうを見ながら、シズクとナルトが満足げに笑って目を閉じた。

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