▼治癒の力

シズクを育てるって宣言してからというもの、反対の声は、日に日に強まるばかりだ。15歳のお前に赤ん坊が育てられるわけないだろ、とか。自国かも他国かもわからない捨て子は危険だ!とか。あたしが頼りないのは同意しますけどね、そろそろ聞き飽きたな。
出自に関わらずこの子はたったひとりの人間だ。あたしと、この里の人たちと、何も変わりやしない。命に軽いも重いもない。そのことについては、一歩も譲らないと決めた。

*

カカシたちもみんな任務で里外に出ているから、シズクを内緒で、今夜の医療班の夜勤に連れてきた。待機室でふたり、何事もなく朝が来るのを待っている。
シズクは爆睡していて、すやすやと気持ちよさそうに寝息をたてている。良かった、シズクが寝つきよくて。

「夜泣きが酷かったら木ノ葉病院まで連れてこれないもんなー」

起こさないようにそうっと、ふにふにのほっぺに触ってみる。もう、かわいくてしょうがない、きっとシズクは世界一かわいい生き物に違いない、なんて、いかにも親バカなことを考えている。
ミルクも、おしめの交換も、初めはわからないことだらけ。ま、あたしだって伊達に医療忍者やってるわけじゃないし、人の世話なら、ある程度要領を得ている。シズクの世話にもなれるまでさほど時間がかからなかった。
それでも任務との両立は厳しかった。
忍界大戦が終わってまだ苦しい時期、木ノ葉の医療班は人手不足。今日の夜勤だって医療忍者はあたしひとりで、あとは一般人の医者とナースが在中してるだけ。
医療班の大御所であるチカゲばあさまも、さっさと隠居してしまったし。師匠の綱手様は戦争のあとすぐに里から出て行ってしまったし、親友のシズネも一緒についてっちゃった。

「元気でやってるかな…」

2人が抜けて、仲間も、多くの忍が殉職して、間もない今。戦争は終わったのに、どこかしんみりしていて、里全体が暗い影を振り切れないでいる。
あのカカシですら、オビトやリンを失って、二人のいる“あっち“にカカシも半分いってしまってるみたいに、なっている。
こんな今こそ、しっかりしなきゃね。


「由楽、急患だ!」

乱暴に扉が開いて、当直の医者が慌てて入ってくる。すぐ後を追うように担架が3つ運ばれてきた。
忍たちは緑の忍者ベストではなく、淡い灰色の防具を纏い、額に仮面を下げていた。

「暗部!?」

怪我は酷い有り様だった。三人とも急所を刀で斬られ、敵のチャクラが練り込まれた致死性の高い毒に侵されている。
暗殺戦術特殊部隊の名のとおり、暗部小隊の班員は任務が続行不可能となったらその場で自害するケースがほとんどだ。木ノ葉病院に瀕死の暗部が担ぎこまれてくる場面など目にしたことのない。

「致命傷と…どうやら毒が…」

「わかった、すぐに看る!」

直接毒抜きをして急いで1人目を見終わった後、すぐ2人目に取りかかったが、すでに手遅れになっていた。何度も試みた電気マッサージも効果がなく、機械音だけが鳴り響く。
心肺停止。

「まだ…まだ諦めない!」

「由楽、これ以上続けても…」

「でも!」

「無理もない。この有り様では…俺のような普通の医者は忍の治療には限度がある……」

「…クソ!!」

どん、血で濡れた拳で台を殴る。じんとした痛みがゆっくり伝わってくる。ただただ無意味に、チャクラを放出するばかり。

「仲間も助けられないで なにが医療忍者だ!!なにがっ……、」

里を守りたいなんてよく言えたものだ。結局なにもできないじゃない。
知らず知らずのうちに、師匠の背中が頭を過った。

「たすけて 綱手様……」

今思えばこのときが、すべての原因だった。



「ふぎゃああっ」

突然が泣き出したかと思うと、シズクが白く光ったのだ。

「なっ…!?」

「びええええっ」

この光は、はじめて会ったときと同じ。
いや、光ってるんじゃない。シズクの体から、チャクラが漏れ出てるんだ。目を凝らすと、シズクの背中からチャクラが伸び、一対の鳥の羽のように形状を保っているのが見えた。
白く暖かいチャクラは屋全体をすっぽりと包まれてしまった。

「なにこれっ…チャクラ!?なんでシズクが!」

高密度のチャクラに、身動きが取れない。

「由楽、見ろ!!」

「え!?」

「患者の傷口が!」

信じられない光景だった。心肺停止の忍の赤く爛れた皮膚が、発現した白いチャクラに覆われたかと思うと、時間を巻き戻したかのように急速に塞がっていく。

「そんなバカな……由楽、患者の脈が戻ったぞ!」

暗部たちの怪我は、不思議な治癒の力によって、ほんの一瞬で完治してしまった。あの白いチャクラは、羽のように伸びたチャクラは、医療忍者が使う掌仙術とは全く別に物だ。心臓が止まった人間を蘇生させるなんて、綱手様の禁術であっても……。
慌ててシズクに目を向けると、あの子はまるで何事もなかったかのように、また眠りについていた。
赤ん坊が、しかも印も結ばずに。


「シズク、あんたって一体」

シズク、あんたって一体、何者なんだ。

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