▼SCENE4「雪忍襲来」

雪絵が上陸を拒む真意を知ることなく、ひたすら北へ進路をとり、明朝。 撮影クルーはついに雪の国へと続く真白の大地へと足を踏み入れた。
だれもか寒さに体を震わせ 暖を取ろうと集まる中で、カカシだけはひとり、荒涼とした氷山を見つめていた。

「先生?どうかしたの?」

普段とはどこか異なる眼差しにシズクは声をかけたが、「…ん、なんでもないよ」と、カカシは曖昧にただ笑ってみせただけだった。



「シーン36 カット22 アクション!!」

「お前は…魔王!」

極寒の大地に風雲姫の声が響く。五感が鈍るような寒さの中、撮影を見守るカカシは 氷山の一角に潜む気配を察知した。
なんでもない わけはない。勘は命中した。
役者たちの後方の氷壁、隠れ蓑の類いで雪景色に紛れようとも嗅覚は誤魔化せない。
恐らく“奴ら”だ。
これ以上前進させるまいとカカシは的確な先手を打つ。

ドカァン!
カカシの先制攻撃は偶然にも悪頭魔王の熱演と重なり、自らの背後で轟く爆発音に 魔王はポカンと口を開けた。

「ど どういうこと?」
「何すんだよアンタァー!!」
「全員下がって!」

助監督の怒声を意に介さずカカシは俳優の前に立ちはだかった。
煙の引いた氷壁には、鎧を纏った男が一人佇む。

「ようこそ 雪の国へ」

その人物の名前をカカシは知っている。男の名は狼牙ナダレ。雪隠れの忍者だ。
潜入していたのはナダレ一人ではなく、別の頂に氷遁使いの鶴翼フブキが降り立つ。

「歓迎するわよ 小雪姫。“六角水晶”は持ってきてくれたかしら」

カカシは目を見開き 背後の雪絵へと振り向いた。

「小雪姫だって……!?」

「流石ははたけカカシ。これ以上は近づけなんだな」

さらにもう一人。雪山から現れた大柄の男・冬熊ミゾレも鋼鉄の鎧を装備している。敵勢が引く様子はない。カカシは下忍たちと撮影班に素早く目配せした。

「お前たちは雪絵さんを守れ。全員船に戻るんだ!」

下忍たちは事態の急変にも冷静に、上司の命令に対して速やかに護衛対象へと足を向けたが、ナダレもまたフブキとミゾレを標的へと向かわせた。ここからは戦闘になる。クルーが避難する時間を稼がなくてはと 筆頭であるナダレの元へカカシは駆ける。

「久しぶりだなカカシ。今度は逃げないのか?あの時みたいに」

「狼牙…ナダレ」

一瞬のにらみ合い。再会を果たした二人 因縁の戦いに火蓋が切って落とされた。


「よくわかんねーけど なんか映画みたいになってきたぜェ!風雲姫のねーちゃん!ここはオレが守ってやるってばよ!」

ナルトは奮起して外套を翻したが、雪絵は体を強張らせていた。
違う。ここは映画の世界でもない。現実だ。そして現れた忍は自分の正体を知っている。だからここへは来たくなかったのに。
彼女に向かって、巨漢の雪忍がスケートボード型の忍具で接近を図る。自由自在に高速移動するミゾレに対し、木の葉隠れの小さな背丈の忍たちは苦戦を強いられていた。

「氷遁・ツバメ吹雪!」

「火遁・豪火球の術!!」

飛来する氷の燕がサスケの火遁によって跡形もなく消え去った。
その刹那、 雪絵の表情が固まる。

炎。

「…!」

「早く!皆船に戻って!」

足が 膝が凍りついたように動かない。サクラの誘導で俳優たちが慌てて走り出しても、雪絵だけは従わずにその場に立ち尽くしていた。

「雪絵さん!」

「姫様ァ!!」

"姫様"?

血相抱えて雪絵の傍らへ引き返して来たのはマネージャーだ。なぜ三太夫までもが自分をそう呼ぶのか、答えは一つだ。

「三太夫…アナタ…」

そして再び 敵の氷の柱を焼き付くさんと空から豪火球が放たれた。

暗やみに煌々と燃え盛る灼熱の炎。舞い散る火の粉。透明な氷の中に閉ざされ 眠る幼い自分の姿。

鮮明なフラッシュバック。
雪絵は体をがたがたと震わせ、頭を押さえて雪に膝をつく。

「姫様!?」

三太夫の声に、ミゾレと応戦していたナルトとシズクは僅かに視線を逸らしてしまう。どうして雪絵は逃げようとしない?異変を来した彼女が気にかかったが、ここで注意を払うべきはミゾレの攻撃だけではない。木の葉の忍にとって不馴れな氷上は、雪忍には地の利。
敵の猛進撃の最中に足元を取られたナルトに大きな拳が迫る。「ナルト!」その直前に シズクはナルトを突き飛ばして敵との間に割って入った。

「シズク!!」

「うっ…!」

強烈な一撃を代わり受けたシズクは勢い良く吹き飛び、氷壁に沈んだ。
一方 眼下の部下たちに気を配りながらナダレと対峙していたカカシが、氷壁に身を埋めたシズクを目撃した。彼女とナルトへ 敵の追撃が再び迫っている。
窮地。カカシはナダレに背を向けて印を結んだ。

「水遁 水龍弾の術!!」

海から立ち上ぼる巨大な水龍がミゾレへと襲い掛かり、僅かな間が生まれ、ナルトがシズクを助け起こす。カカシも地上に降り立ち 三人は背中合わせになった。

「シズクっ!大丈夫かってばよ?」

「いたたた…あいつの怪力、想像以上なんだけど」

「先生 あの鎧なんか変だってばよ!」

「あれは雪の国が忍者用に独自に開発した チャクラの鎧ってヤツだ」

「チャクラの鎧?」

「覚えていたか」

いつの間にか追ってきたナダレがカカシの頭上に佇み、余裕に満ちた笑みを浮かべていた。

「この鎧は体内のチャクラを増幅し、様々な術を強化してくれる。体の周りにはチャクラの壁が作られ、更に 貴様らの術を無効化する逆位相のチャクラも発生している。どんな忍術・幻術も通用しない」

「どうりで打撃が重いわけね」

真っ青な顔でしゃがみこむ雪絵を見、カカシは背後の二人に囁いた。

「シズク 動けるか」

「うん」

「なら、お前は雪絵さんを背負ってサクラと船に戻れ。ナルトはその間、敵の足止めだ」

「オウ!」



「氷遁・破龍猛虎!」

ナダレが氷の龍を繰り出し、カカシもまた間髪置かずに水龍弾で対抗する。だが相性において優位に立った氷の龍は、 チャクラの鎧によって一層の強化を得、 水龍を侵食し粉砕した。
チャクラの鎧に忍術が効かないなら真っ正面からつっこんでいくしかない。直感したナルトは、雪絵たちに接近するミゾレへと文字通りの体当たりを食らわせた。

「このガキィ!!」

相手が強化してんならこっちだって。潜在的な部分でそう確信したのだろう。自分より一回りも二回りも大きな拳を片手で受け止めたナルトの目は、澄んだ青ではなく 燃えるように赤く染まっていた。

「今のうちだシズク!」

「うん!雪絵さん!船に戻りましょう!!」

シズクが雪絵を担ぎ上げ、船の方角へと駆け出そうとする。
しかし雪絵が何故かこれを押し退けて拒み、はずみに雪絵の体が氷上に転がった。仰ぎ見た空。そこへまたしても、鮮やかな業火が広がる。
その光景が雪絵の記憶に重なった。


焦げる匂い。炎に包まれた屋敷で、パリン 父上とよく覗きこんだあの六面の鏡が割れた。炎の揺らめきが瞳の中でゆらゆら揺れている。奥には父上がいる。
倒れて動かない父上が。
雪舞う夜に火の粉を吹くあの美しい風花の城が。

「顔を出さないで!敵に気づかれます!」

雪化粧した庭の赤い寒椿は?
紋付きの着物を来た従者たちは?
父上は?

「父上ぇ―――!!!」

矢の刺さった橇から身を乗り出した。危なくても 届かないとわかっていても叫び続けた。犬橇は暗い暗い雪道へとひた走り、揺られながら 炎に包まれた雪絵たちの家が遠ざかる。
涙を流したのはあれが最後だった。


「雪絵さん!?」

「何やってんだ!早く行けェ!!」

「姫様!早く船へ!」

「…イヤ…」

「姫様!早くしないとお命が、」

「死んだっていい!!」

かな切り声を上げた雪絵がシズクの手を払う。“死んだっていい”その言葉は演技ではない。震えた手にしてはあまりにも強い力が真に拒絶を示している。

「行かない!雪の国になんか行かない…っ!!!」

雪絵はそこで意識を手放した。

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