▼SCENE1「憧れの風雲姫様」

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ACTION!


見渡すばかりの荒野は全くの作り物であるのに、この手が雨風にさらされて悴むのは何故だろう。

不毛の焦土に並び立ち、男たちは絶望感に打ちひしがれた体を震わせた。

“この嵐の先に 安寧秩序の理想郷がある。
旅に出よう。
姫様を支え 我らの願いを叶えるために”

望みを絶やさず過酷な旅路を乗り越え、戦い抜けてきた。
けれど未だ広がるは凄惨たる暗い世界で いつまでも虹に手が届かない。

「俺たちは 何処にも辿り着けない…」

この先に 道はない。呟いた助悪郎の剣先は地に向いている。獅子丸は立ち上がることができなかった。

「無理だったんだよ…こんな旅は」

「ここまでだ…もう 諦めよう…」

ついには鰤金斗までが、枯れた大木を身の支えに弱音を吐いた。もはや 我らの命此処まで。
しかし諦めを口にした三人の前で立ち上がる背中があった。

「道はあります」

振り向いたのは 息も止まるほど美しい一人の姫君である。

「信じるのです。必ず探し出せると」

「しかし…姫」

「諦めないで」

「姫」三人の胸に再び希望の火が灯りかけたその時、それをせせら笑う声が轟いた。

「フハハハハ、風雲姫よ!貴様にはこの先を行く事は出来んのだ!!」

「魔王!…まさかこの嵐も貴様が!」

まさしくこの悪頭魔王こそが元凶だった。魔王の手駒・鎧武者たちが風雲姫一行を取り囲む。背後で刀を振りかぶった武者を 風雲姫は舞うように裾を翻して剣を引き鉄の鎧に還すが、後方では数えきれぬ武者が待ち構えている。

「諦めるがいい!観念しろ 風雲姫!」

「私は諦めない」

彼女は眼差し一つで世界を変える。

「この命ある限り、その全てを力に変え 必ず道を切り開いてみせる!!」

やがて風雲姫の身体を包み込むように 七色に輝くチャクラが輝き始めた。

「姫!」

「七色のチャクラが燃えている!」
「行こう!俺たちもチャクラを燃やすんだ!」

三人は守護者として再び主の下へ馳せ参じた。

「はああああああっ!」

剣先から放たれた虹色のチャクラは、姫とそれを支える三人の猛者たち四人の力。その莫大なエネルギーを以てしては悪頭魔王の黒い竜巻など無力に等しかった。魔王は七色の光につれられてどこか見知らぬ地へと飛ばされていったのだった。
七色の光は褪せることなく 天を竜のごとく駆けていく。
打ち破れた暗雲。竜巻は止み、いつしか穏やかな空には、あざやかな虹の橋が架かる――


―――そのラストシーンに、月浦シズクは涙を滝のように溢れさせた。
もっとも、仲間と四人揃って天井にぶら下がっている本人は、席に座る客が謎の雨漏りに迷惑していることなど露知らずに 完全に悦に入っていた。

「風雲姫さまっ…!」

彼女の傍らでナルトもまた嬉々として歓声をあげた。

「いやったー!いいぞ風雲姫ェー!よくやった!やっぱ正義は勝つんだよォ!」

なんだなんだ、天井にいるうるさい連中は。
不穏な空気が漂い始めた劇場に、とうとう映画館の支配人が険しい顔つきでわけ入ってくる。

「くぉらァ!そんなとこで何やってんだァ!忍び込んでタダ見しようなんざふてえ小僧だ!」

「いやそーじゃねェって!映画見ながら修行してただけだってばよ!」

「修行ォ?」

「券ならある」

と、フォローを入れたのはサスケだ。支配人はこどもたちの顔を順々に見回しながら、ドスの効いた声で一言。

「お前ら木ノ葉の忍者だなァ〜!?」

「へっ!その通り!いずれ火影の名を受け継ぐスーパー忍者!うずまきナルト様たァオレのことだってば、」
「うるせぇ!!」
「出てけ出てけ〜!」

ナルトの啖呵は打ちきりに。あいにく仲間の月浦シズクに、眼下で繰り広げられている喧騒は届かなかった。彼女の心はまだ、スクリーンの中にある。

“さあ 参りましょう。虹の向こうへ!”

「はい 風雲姫様っ!!……あでっ」

頭にドリンクの空ボトルをしこたま食らいつつ、シズクは涙ながらに 風雲姫の言葉に頷いていた。

* * *



こうして劇場を追い出された第7班の4人は、近隣の空き地で担当上忍・はたけカカシを待っていた。内容の詳細は告げられてはいないが これから第7班は任務に向かうことになっているのだった。

「あーあ。カカシ先生遅いわねぇ〜」

「いつものことだ」

「良かったよなァ さっきの映画!オレすっげー感動したってばよ」

「何言ってんのよ!アンタが大騒ぎするから最後まで見られなかったんじゃないの!あーあ、助悪郎役のミッチー様のお姿をもう少し焼き付けておきたかったのに」

しかし背後にいるサスケを横目に、サクラの声色は急に変わる。

「あ!もちろんサスケくんが一番なんだけどっ」

「サクラちゃん相変わらず男のシュミ悪いってばよ」

「何ですって?」

サクラの有無を言わさぬ圧力。

「いや何も…」

これ以上余計なことは言うまいとナルトは心に誓い、チラリと隣に目を移した。
シズクはシズクでだんまりをきめこんだまま パンフレットを胸に抱いて余韻に浸っている。心ここにあらずといった呆けた表情である。

「風雲姫様、ホントにすてきだったなあ」

「だよなだよな!」

ぼんやりと映画の看板を見上げながら、ナルトも同意した。

「どこかにいねーかなァ、風雲姫みたいなお姫様。あんなお姫様のために戦えるなら忍者も本望だよなァ」

「くだらない。所詮映画の話だ」

「はあ……それにしてもカカシ先生、どうして任務の前にこの映画を見ておけなんて言ったのかしら」

「まさか今日の任務、お姫さまの護衛だったりしてね〜」

このとき自分が溢した冗談が 次の瞬間に本当になるなどと、シズクは考えもしなかった。


「…!」

歳若くともこどもたちは忍の端くれ。
耳は蹄が地を蹴る音を拾う。
こんな繁華街のど真ん中で馬など扱う者はまずいない―――敵襲か。
近づく騒音に身構えた四人は、その正体を目撃することになる。
塀を軽々と乗り越えて登場したのは、白馬に跨がった女性だった。
風に靡く結い上げられた漆黒の髪。
鼻梁通った凜とした顔立ち。
翡翠の衣。
その美しさに釘付けになる。

「え……風雲姫!?」

その姿はまさしく風雲姫その人で、四人は唖然とし 口が塞がらなくなった。先ほどまでスクリーンの向こう側にいた人間が、自分たちの目の前に飛び出してきたかのような錯覚。一体全体これはどういうことだろう。これは幻術なのだろうか。
続く鎧武者の騎馬隊も、つい先程まで見ていた映画のキャラクターそのもの。

「ここ、まだ映画の中なの?」

突然の事態に困惑しながらも シズクの口は逆三角形のまま、嬉しそうに固まっていた。

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