▼01 キャラバンはどこだ
ネルグイを挟んであーだこーだ言い合いを始めたナルトとサクラ。その数歩後ろをついていくシズク。
「遠出する任務も いつもこれくらいのんびりしてたらいいよね。ピクニックみたいで楽しいし」
国境くんだりまで来て暢気なこと言うもんだぜ。
前のふたりにゃ聞こえないように声のボリュームを下げて、オレはシズクに話しかける。
「つーかよ、迷子ペットの捜索ならお前ら三人で良かったんじゃねーのか?Dランク程度にわざわざ四人も動員しなくてもいいだろ」
「まあね」
シズクは頷くと、オレに歩調を合わせて並んだ。
「でも シカマルが居てくれたほうが三人でもあんまり気にしなくて済むからさ」
ふたりとも、いつもの調子に戻ったけど、やっぱりね。
そうあいまいにされた物言いに、あんまし考えねーようにしてたことが頭をよぎる。
もしかしたら今日の任務、オレじゃないメンバーでフォーマンセルを組んでたかもしれねェってこと。
退院して間もないナルトに、五代目に弟子入りしたてのサクラに、シズクに、―――本当ならこの景色に、もうひとり、あいつが。サスケが居るはずだった。ナルトとサクラが他愛もない口論をしてる最中、もしかしたらサスケは今のオレみてェに、シズクとやや後ろを歩いてたんじゃねーかと、思う。
あの任務が成功してたら。
この任務のために里を出発して随分経つが、いままで誰も、いっぺんたりともサスケの名を口に出しちゃいねェ。話題にすることを暗黙のうちに避けてるみてえだった。
そうか、オレがいんのは五代目の機転っつーことだったか。
「ね、シカマル」
「…なんだよ?」
「シカマルとの任務ってのも、なんだか新鮮だねえ」
オレを察してか、シズクは笑みを作ってさりげなく話を変えようとしてるらしかった。
「そういや そうだな」
コイツなりの気遣いに、内心オレはほっとした。あんまし暗い気分に浸ってても、滅入っちまうよな。
言われてみりゃあ、シズクと同じ任務についたのはこれがはじめてだった。同期で幼馴染みで、つまりは腐れ縁。日頃散々顔合わせてんのに、里の外でコイツと会ったことはねェな。
たしかに変な感覚だ。
「フォーメーション猪鹿蝶ができなくて寂しいんじゃない?」
「アホか」
「そうそう、第7班は里外任務に出るとトラブルに見回れるジンクスがあるんだ。それはもうかなりの確率で」
「まじかよ。めんどくせーな」
「頼んだぞ小隊長っ」
いけね、はにかんだ顔をついまじまじと見ちまった。
「キャラバンの道は…こっちだな」
誤魔化すように、オレは地図に目を落とす。
「もうすぐ?」
「ああ。あの岩山の向こうだな」
「今回はスムーズに終わりそうだね。その子送り届けて私の用事も済ましたら、もう任務完了だもんね」
ペット捜索の依頼主が薬草の煎じ手だとかで、シズクはこの任務のついでに五代目の使いで派遣されてたんスよね。
だから当初の予定では、その橋の先の村で依頼主にフェレットのネルグイを引き渡して、目当ての調合薬受けとって終わり、の筈だった。
だがそれは頓挫しちまった。
なんでかっつーと、目的地の村が、跡形もなく破壊されちまってたから。
橋の手前で立ち止まり、目的地と地図とを照らし合わせて見上げる。そこでオレはある異変に気が付いた。
「あの畑の向こうが依頼のあった村なんだが…どーも様子がおかしくねーか」
「へ?」
「昼時だってのに人の気配がまるでしねえ」
「そういえば…」
「そうかぁ?」
「何かあったのかも」
なるほど。第7班のジンクスは早速アタリ。
「こいつがトラブルってか」
不確定要素ばっかの憶測だったんスけど、こういう時は忍の勘ってのも案外バカにならないんで。
任務内容うんぬんはとりあえず抜きにオレらは先を急いだんスよ。
「こっからは偵察パターンに切り換えだ。オレは西側の森に回るから、サクラとナルトは逆側から、シズクは北側から向かってくれ」
「了解!」
めんどくせーことになってなきゃいいがと、三方向にわかれ、オレは西側から警戒して近づいた。
「!」
木陰から窺い見たのは、目を覆いたくなるような光景だった。
「こりゃあ…」
ハデに荒らされるっつーレベルじゃなかった。民家は叩きつぶされて粉々、地面にゃクレーター並みに大きく抉れた跡がいくつも広がってた。視線を投げても、被害を一目で把握できねェ。異様な雰囲気だった。
〈キャ!!〉
そこに、無線越しにサクラの悲鳴が流れてきた。
「オイどうした!」
〈なんだてめーは!のわっ!!〉
ナルトの声だ。
「ナルト!」
何度か呼ぶが応答はなかった。
「サクラ、何があった!奇襲か?」
〈急に妙な奴らが…!〉
「すぐ向かう!」
妙な奴らってのが村を襲った犯人でまず間違いねェだろう。サクラも敵と応戦中か、切れ切れにしか声が入ってこねェ。
そのうちシズクからも報告が入った。
〈シカマル こっちも敵襲2名!〉
ナルトは一向に連絡寄越さねェし、聞いた様子じゃサクラはナルトから引き離されて単独で戦ってるらしかった。
シズクも同じく一人。
どっちに増援すりゃいいか、逡巡してる暇もなく。
「シズク、ナルトたちの方角で合流だ!」
〈わかったっ〉
木々を跳躍してるうちに、ザザ と無線は途絶えた。
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