▼伝説の三忍

山を降りて向かう先は、家ではなく、木ノ葉病院。

試験で深刻な怪我を負ったリーさんが、修行中もずっと、頭に引っかかっていた。なにができるっていうわけでもないけど、容態を確認しておきたい気持ちが勝った。
足早に木ノ葉大通りを抜け、目標の病院まで目と鼻の先まで差し掛かったところで、前触れなく地面が大きく揺れた。

「!!」

ズズン、という地響きと共に、視界が突然塞がる。真正面に現れた“なにか”に遮られ、久しぶりに目にした木ノ葉病院が見えなくなる。

「敵襲!?」

反射的に死の森の大蛇丸が思い起こされる。状況を把握しようと近くのビルに飛び上がったけれど、病院の敷地内を占領していたのは、大蛇ではなくて巨大な蛙だった。その背には派手な装束の大男と、見慣れた金髪頭が。

「ナルト!!」

大の字に横たわったまま動かないナルト。遠目に見ても、ぐおーといびきをかきながら爆睡してるようで。
ほっとしながらナルトの隣に立つ忍に目を向けると、額には木ノ葉マークじゃなくて、“油”の一文字があった。
長い白髪。口寄せの巨大ガマ。
――――あの人はもしかして。

「伝説の三忍の……自来也様!?」

わたしの声に気付くなり、その人は嬉々として「おおー!」と叫んだ。

「いかにもいかにも!そこの嬢ちゃん、さてはワシのファンだのォ!?」

「えっ イヤその」

見聞が正しければ、この方は木ノ葉では並ぶ者がいない偉大な忍でありーーーカカシ先生のえっちな愛読書の著者でもある。

「残念だがのォ、おまえさんはワシと遊ぶにゃあちと若すぎる」

こんな冗談を叩いてても、この人は“あの方”と同じ木ノ葉の三忍のはず。

「お聞きしたいことがあります、自来也様!綱手様がどこにおられるかご存知ありませんか!?」

「綱手ぇ?」

「仲間が中忍試験で重傷を負いました!綱手様は医療スペシャリストなんでしょう!?」

「……」

「あの方でなくては治せない怪我なんです」

真摯な眼差しと受け取られたのか、自来也様の先程のおっちゃらけた態度は打って変わって、声も静かなものになる。そしてどこか、表情に影がさしたようにも感じた。

「あいつのことはワシも知らん」

「え………」

「あいつが里を去ったのは忍界大戦が終わってすぐのことだったかのォ。なんせ最後に会ったのは十年以上前だ。連絡も取り合ってない」

「そんなに……どうして綱手様は里を出られたのですか!?」

「ちと事情があってな。アイツは忍の仕事から手を引いた」

木ノ葉の伝説の三忍は、今や里にはひとりもいない。
大蛇丸は里と道を違えた。里の外を見聞して回っている自来也様ですら、帰還はほんとうに稀なこと。
自来也様ならと綱手様の居場所を知ってると思ったのに。
その人にしか、リーさんを治せないのに。

「医療忍者ならチカゲばあさんもいるだろ。あの鬼バアさん、死んどらんだろ?」

「チカゲばあ様はご健在ですが、既に隠居なされていて……今回のことも自分達でなんとかしろと」

「ババアの言うとおりだ、若い嬢ちゃん。お前も忍なら自分で解決することを考えるんだのォ」

自来也様は朗らかにそう言い、にかっと笑った。
……そうか。そうだよね。
わたしはもう忍なんだ。人に頼ってばっかじゃだめだ。一番つらい本人より、サポートする側の医療忍者が弱音を吐いてどうする。

「ありがとうございます。解決できるよう尽力します」

「うむ、いい返事だ!あと五年経ったらもう一回来るん、」

「五年経っても犯罪です!」

「近頃の若いおなごは手厳しいのォ」

「あれ?ふたりが一緒ということは……もしかして自来也様がナルトを教えていらっしゃったのですか!?」

「そうだ。忘れるとこだった。このガキ、ガマブン太を口寄せしたらチャクラをすっかり使い果たしたみたいでのォ」

ぐうぐうといびきをかいてるナルト。その寝顔には、たしかにうっすらと疲労の色が見える。
こんなおっきな動物の口寄せに成功するなんてすごい。万年ドベだったのに、まったくナルトのやつほんとに驚かせてくれる。あれ?そういえばナルトって、エビスさんと一緒に修行してたんじゃなかったっけ?

「後の世話を頼むぞ」

じゃあの、と自来也様は笑みを浮かべてクイと親指立てた。
これにてドロン。
自来也様が消えたあとには、大振りの木の葉がはらはらと舞っていた。見た目も登場も、さらには帰り方も派手な人だ。 
病院の地面にはガマの巨大な足跡がくっきり残されていた。

「……土遁の修理代、高くつきそうだなぁ」


*

自来也様の来訪から3日が過ぎた。
回診中にナルトの病室を覗けば、相変わらず気持ち良さそうにぐーすか眠っている。
いくら回復力の高いナルトといえど、忍はチャクラを使い果たすと体調を崩しやすいもの。

ナルトに熱がないか計っている最中、カーテンが開いたかと思うと、シカマルが顔を覗かせた。

「シカマルっ!」

「お前 修行から帰ってたのかよ!」

「うん。久しぶり」

「連絡ぐらいしろっての。母ちゃん心配してたぜ」

「ごめんごめん」

修行を終えて医療班に戻ったら、その間お休みしてた分の仕事は山盛り。この3日は木ノ葉病院に寝泊まりしていたのだ。

いつものように眉間にシワを寄せたシカマルは、今日は珍しく、片手にフルーツの大きな籠をさげている。

「それナルトに?シカマルってば、やさしーっ」

「アホ!チョウジにだよ」

「チョウジ君は食事禁止でしょ」

「さっき聞いた。だからこっち持ってきたんだよ。ナルトも入院してるっつーからよ」

シカマルが不服な様子でベッドの脇に手土産を置き、椅子に座ってナルトを見やる。ひでェ寝相だな、と笑いつつ。
何だかんだでやっぱやさしーとこあんじゃん。

「シカマル、時間あるならナルトを見ててよ。もうちょいで目を覚ますはずだからさ。わたし、回診の途中で」

「お前ほんと忙しねェ奴な」

「じゃあまたね」

手を降りながら席を立った。
ナルトの次はリーさんのとこだ。少しでも体調が落ち着いてたらいいけど。


*


「リーさん、具合どうですか?」

個室のドアを開けると、しんとした空気に包まれる。
リーさんは静かに眠っていた。
窓辺には、この前サクラが持ってきた水仙が風に揺れている。

怪我が悪化してないのが幸いとはいえ、やっぱり高度な治療が必要になる。
今のわたしにはできない。
急いで治療法を続けてるから、どうか待っててくださいね。
あなたがもう一度忍に戻れるように。

脈と体温を控えていると、入り口からかすかな音がした。
扉は閉めたはずなのに、廊下からの光が病室に漏れている。

誰かがお見舞いに来たのかな?
振り返ると、そこには、思ってもない人物が立っていた。
赤い髪に、額の愛の字。
背に負った巨大な瓢箪。

「……砂漠の我愛羅……!?」

砂は不気味な音を立て、こちらにじり寄ってきていた。
さらさら、さらさらと。

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