▼14 無限大に強くなる
この最悪の状況招いといて、何でお前は憑き物がおちたような清々しい顔してんだよ、ナルト。
つーかさっきは男泣きしてた癖に何だよ偉そうに。
しかしカカシ先生の策が失敗になっちまったからにはうだうだ卑屈な考えはナシだ。
“火の意志を引き継ぐ”か。
ンな威勢良いこと言われていつまでも臆病風吹かせてるようじゃあ、腰抜けだよな。
「アイツを倒せばいいのね!」
「やりましょう!」
ここまで来ちまったら、敵倒して里の窮地も救っての大団円じゃねーと死んでも師匠に会わせる顔がねェ。未来永劫笑い種になっちまう。
いっちょやるか。
「仕方ねーなぁ……!」
対する卑留呼は一人で多勢を相手する気はハナから無いらしく、立ち上がったオレたち三人の前に口寄せされたのは、皆に足止めを任せてきた例の巨大キメラだった。
コイツとはもう会いたくなかったんだがなァ、溜め息をつけば、サクラが豪語して外套を脱ぎ捨てた。
「私に任せて!!」
「そういえばカカシさんに頂いた本によると、女性は愛する人のためなら無限大に強くなると」
「うるさいっ!」
「そっちは頼むってばよ!」
ナルトは卑留呼の佇む城跡を捉えていた。
オレはカカシ先生の方をちらりと盗み見る。瓦礫の上に膝をついたカカシ先生が、城から脱出してきた時からずっと、シズクを横抱きにしたままだった。
影分身でオレたちの気を逸らしてまで師匠を追ってったあのバカは、一戦あったのかかなりの深手を受けてる。胸部の損害は見るも痛々しい。…ったく、毎度ながら無茶しやがって。
「シズク、お前は回復に専念した方がいい」
「イヤ!私も一緒に戦う!」
「この超バカ!懲りねェな。そのケガで戦えるわけねェだろーが!カカシ先生の言う通りだ。ここは危ねェるからナルトの影分身に運ばせっから離れてろっての」
語を荒げてきつく叱咤するもシズクは怯むどころか口をへの字に尖らせた。
めんどくせーことに、強情になると驚くほど母ちゃんの不機嫌顔に似やがる。
「サイの言うこと聞こえてなかったの?シカマル」
「お前なあ、」
シズクは安全な場所へ避難させようとしたカカシ先生すら押し退けた。
「女の子は大切な人のためなら無限大に強くなるってね!!」
すくっと立ち上がったシズクを、白いチャクラが渦のように取り巻く。胸の傷はちょうどその流れの中心、欠けた一部分はみるみるうちに塞がっていく。肉体の再生に従って、シズクの仏頂面も自信満々の笑みに変わっていった。つい先刻までの弱虫な泣き顔すら、猛烈な勢いで吹き飛ばされていくみてェだった。
「これでいいでしょ」
全く女ってのは逞しいもんだぜ。“女心早分かり読本”も中々にハッタリではないらしい――まあ、ついちょっと前までメソメソしてやがったんだ。どうせなら、お前はしたり顔のが何十倍もいい。
「さて!」
完全回復すると強靭な眼差しを以てシズクは立ち上がった。オレと同じようにカカシ先生も呆然とし、半ば呆れながら困り顔で笑った。
その後を追う。
「ホントならオレの命と引き換えに全て片付いてたハズなんだがなぁ」
「文句なら聞かねーぜ。オレはカカシ先生に教わったことを守っただけだかんな!」
見上げた空は金環日蝕でぼんやり淡い。オレの術には心底不向きな環境だ。
少ないチャクラ量とこの陽の光で出来るか。
深呼吸しそっと低めた声で呟くと、誰かがゆっくり肩を叩く。サクラとサイはもう位置についてる。カカシ先生やナルトも岩陰に潜んだ。
一度戻ってきたそれが誰かなんて、振り向かなくても判ってる。
「大丈夫、任せて。私が光をつくるから」
癪だけどな。
お前は炎。
そして光。
「いくよ……火遁!!」
作戦開始だ。
*
影縫いで幾多の陰を支柱に巨大キメラを捕らえ、サイに合図する。
「今だ!」
「忍法・超獣偽画!」
「桜花掌!!しゃーんなろーっ」
サクラの渾身の一撃で足場ごと陥落し、僅かな隙が出来た。
脇目をふれば、卑留呼の真上には厚い暗雲が立ち込めている。
カカシ先生とナルト、シズクは様々な術を繰り出す卑留呼相手に距離を詰めることが出来ずにいるようだった。
アイツは“鬼芽羅の術”が生んだ四つの血継限界を持つ化け物。
しかしまだ五人目のカカシ先生を取り込んでない以上完全体ではない。
包帯で覆われた全身を具に観察すれば、胸あたりに縫合の痕跡を見つけた。
「ナルト!アイツのカカシ先生を取り込む場所はまだ空洞だ!今奴の唯一にして最大の弱点は胸の傷だ!」
巨大キメラが大口を広げてオレとサイ目掛けて猛進してきやがる。万事休すと思われたとき、キメラの牙より先に迅速な何かにかっ浚われる。
数拍置いてそれが、赤丸の背だということに気がついた。
オレが足止めに残してきた奴ら全員、これといった被害もなく降り立った地面に勢揃いしていた。
「みんな…!」
「来てくれたんだ!」
無事だったんだな。
女が好きなヤツのためなら無限大になれるってのは、確かに正しいみてーだ。
だが男もまた然り。
それにこうも言える。
“仲間同士力を合わせりゃオレたちは無限大に強くなれる”ってな。
オレたち全員でならこのバケモンも倒せねェ相手じゃねー。
「よォーしィ!みんな行くよ〜!」
チョウジの掛け声を皮切りに、一斉攻撃をかけた。
- 395 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next