▼04 トライアングル

「ナルトに伝えてくれないか。もしオレがこの里からいなくなることがあっても、後を追うような真似はしないでくれって」

まどろっこしい遠回しな表現だが、誰だって同じ解釈に辿り着くはずだ。
“オレはこの里からいなくなるが後を追わないでくれ。後を追う者がいたらシカマル、お前が止めてくれ”
ってな。
たった一言の範囲内に気づけばちゃっかり頼み事を上乗せされちまっていた。
詳しいことは判らねェ。ただカカシ先生に何かあるなら問答無用でナルトは追うに決まってる。それは止めなきゃならねー。


背中におぶった体がずり落ちねェように注意しながら オレは目当ての屋根に降り立った。片手で窓に触れる。コイツんちの窓に鍵がかかってないことは昔っから知ってる。
サンダルを脱ぎ、ひやりとした外気が流れ込んだ室内に忍び込む。そのままベッドまで、シズクを起こさねェようにゆっくり横倒しにした。
邪魔そうな額宛てをほどいて、履いたままのサンダルも ガキのお守りをする感覚でそれも脱がせて。
そのあいだに シズクの閉じた瞼から涙が伝い、月明かりに照らされる。

「カカシ…先生…」

仮にも好きな女に他の男呼ばれるなんざ 御免だぜ。
カカシ先生、マジでずりーよ。シズクのこと泣かせたからってちょい前にオレを殴ったの、棚にあげて、アンタだって泣かせてんじゃねェか。
大体聞いて呆れたぜ。仲間から拒絶されることがシズクの最大の弱点だと判ってて、強引に突き放さなきゃなんねーくらいアンタも必死だったってのかよ。
あんな付け焼き刃の嘘に騙されるヤツいねーよ。

本人を除いては。

「…カカ…シ……」

ああ、くそ。
顔を近づけ、涙混じりに寝言を呟く唇を塞ごうと思った。だが掠めも出来なかっま。起きたときに繰り返されるのもオレの名前じゃないと判りきっててそんな真似すんのは、所有欲の塊じゃねェか。

シズクの首元までシーツを引っ張って オレは部屋を去り、カカシ先生の様子を見張るために再び月の下へ。
あとはナルトだ。
めんどくせー頼みだが、これも男の約束だしな。





呼び出されて赴いた火影室での伝令は、素っ気ないもんだった。

「はたけカカシが里を抜けた。今日より奴は木ノ葉の里とは何の関係もない」

「!?」

「如何なることがあろうとカカシに関わるな。無論その後を追うことも許さん。この事を各班ごとに終始徹底するように」

「でも…綱手様!」

シノやネジは疑問を胸に抱きながらも沈黙を保ってた。第7班の教え子としてサクラは必死に食い下がるも、五代目はとうとう顔を上げることなく オレたちに解散を命じた。

「シカマルは残れ。話がある」

面々が火影室を退出する中、オレだけが引き留められた。おおよそ察しはついてる。

「シカマル お前からの一報は感謝してる。で、シズクはどうしてる?」

「写輪眼の催眠が効いてるんで、家で寝かしてあります。それと カカシ先生が言った通り、ナルトがあとを追おうとしました。一応牢に閉じ込めましたが…」

「あのバカ、要らぬことを…」

「カカシ先生のこと……この間の巨大な幻影と関係あるんすね」

オレは確信を持って五代目を質した。
夜半 正門に現れたカカシ先生はふらふらと歩みもどこか覚束なく、明らかに様子がおかしかった。
誰の言葉にも耳を貸さず、あまつさえ厳戒警備のコテツ先輩やイズモ先輩に容易く拳を向ける。

後を追ってやってきたナルトを引き止め、約束通りカカシ先生の背中が見えなくなるまで見送ったが、あれで本当に良かったのか?

「カカシ先生は里を出る時明らかに何者かに操られていました。だが先生は覚悟の上でそれを受け入れた。何故ならそうするしか敵を倒す方法がなかったから。違いますかね」

「相変わらずキレる頭脳だねえ」

その返しは残念なことに“イエス”か。

「綱手様はそれを許可したんすか!」

「ああ。私が里の為に死ねと命じた」

「な……!」

それから五代目は、事の次第をオレに洗いざらい話し始めた。
卑留呼とかいう例の人物は、かつては五代目や自来也様と同期の仲間で、比類なき力を求めた末に大蛇丸同様に里を去っていったらしい。木ノ葉隠れの忍と名乗ったのは、完全な嘘偽りじゃなかったってわけだ。
敵の計画は宣戦布告した通り、拐った忍の術を自らに取り込んで強化し、忍界を手中に治めること。そのために、ご丁寧に17年前 わざわざカカシ先生に術式まで施してたって話だ。

「卑留呼の術式に気付いたカカシに、私はさらに別の時限式の術を施した。戦時中の最後の策ってヤツさ…卑留呼に取り込まれる直前にカカシは意識の有無に関係なく万華鏡写輪眼を発動し、神威で卑留呼ごと異空間に消える」

「…!それじゃあカカシ先生は、ハナから殉職が確定してる任務に出たってことすか」

「そうだ」

木ノ葉の里を守るための突破の苦肉策。まるであん時と同じ棒銀じゃねェか。
だからナルトを止めろとか、去り際にシズクにあんなひでェことを。

「卑留呼は取り込んだ四つの血継限界を自在に使いこなす。暗部の手練れ達も皆やられた。今、あやつに敵う戦力は木ノ葉には無い。他に解決の糸口が無かった」

「……それがカカシ先生や五代目の最善の判断っスか」

「ああ」

五代目は静かに頷いた。

「それが私らの火の意志だ」


くそ、シズクに一体何て説明すりゃいいんだよ。カカシ先生が一人犠牲になるため里を抜けたって知ったらアイツ泣いて暴れて、手遅れと判ってても追うに決まってんだろ。

オレに汚れ役押し付けて言い逃げなんてマジでずりーっスよ、カカシ先生。




*

今宵の目覚め、私の人生史上最悪に痛いものとなった。

「しゃーんなろ――――――――っ!!!!」

横っ面に叩き込まれた怪力パンチの激痛。下手すれば顔面は複雑骨折で叩き起こされたらしく、もう、叫ぶことすらできず悶絶だった。

「いっ、〜〜ッ!!」

反転した風景に拳を構えたサクラと、御愁傷様という目でこちらを見るナルト。状況が飲み込めない。ひどい。ひどすぎるよこんなの。
壁にめり込んだまま涙が込み上げてきた。ぶっ飛んだタンスやら壁やらの修理費用ぜんぶサクラに請求してやる―――と考えて、ふと疑問が生まれる。

私は外にいたんじゃなかったっけ?

「やっと起きたってばよ!シズク!」

「サク…ラ…死ぬ」

「ごめん!こうでもしないと起きなかったのよ」

理由なき暴力反対。もう今後一切友達に綱手様直伝の怪力は使いません。すっかり腫れ上がった横っ面を治すためチャクラを集中させていると、ナルトがさらに突拍子もないことを叫んだのだった。

「大変なんだ!カカシ先生が里抜けしちまったんだよ!!」

「……え?」

ひっくり返っていた体は重力に従い、しずしずと冷えた床に触れた。

カカシ先生が、里抜け?

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