▼続・休日謳歌譚

はー、長湯しちゃったな。極楽ごくらく。
湯船をあがって体にタオルを巻いていると、脱衣場から突然の騒音がした。
そして、

「きゃ―――――!!」

という、いのたちの叫び声がした。

なんだなんだ。脱衣場の悲鳴に戸を開けると、そこには、突き抜けた天井に、着替え中の女子たち。
そしてなぜか リーさんがいのに締め上げられているではないか。

「ナルトお前!!」

そこに、タオルを腰に巻いた男子たちが続々と女湯の暖簾をくぐって入ってくる。ちょっとみんな、なにかアクシデントだからって堂々と入りすぎてない?

「リーよ!リーが覗きをしてたのよ!」

リーさんが覗き?まさかぁ。ナルトじゃあるまいし。

「何だと!?けしからん!」

「ゲジマユお前……」

仲間たちから(主に女子から)非難の目を向けられ、無言の涙を流したリーさんは、いのの腕を振りほどいて脱衣場を飛び出していってしまった。

「野郎 逃げるとは余計あやしい!!」

「みんな追うわよ!」

……え、追うの?

*

綱手様やおばさまを見ればわかる通り、女の怒りというものは、なかなかどうして恐ろしいものです。
いのとテンテンが駆けていく様子は、さながらS級犯罪者を見つけた追い忍のようでした。
――――と、わたしは無人になった脱衣場に残っていそいそ服に袖を通し、髪を乾かして、銭湯の売店コーナーへ赴きました。
談話室の長椅子には、ほら 既に先客が。

「シカマルもやっぱ残ってたかぁ」

長椅子でだらりと体を伸ばし、コーヒー牛乳を飲んでいるシカマル。

「行くわけねェだろ、あんなめんどくせーゴタゴタ。風呂ぐらいゆっくり入らせろっての」

そりゃそうだよね。シカマルだもんね。
空いている右隣に座り、わたしはフルーツ牛乳の紙蓋を引っ張りあげた。

「んま〜いっ。やっぱ銭湯はコレだ」

「……」

「なあに?あ、牛乳ヒゲになってる?」

「ちげえよ!お前さっき なんつーんだ、その」

「?」

然り気無さを装いながらも口ごもったシカマルに、思わず ふふ、口の端が緩んでしまった。

「裸見られたかって?気になる?」

「別に」

「シカマルかわいー」

「うるせえな」

ちょうど同じころ、路地裏で 下着泥棒の容疑をかけられたナルトがみんなにボコボコにされているなどとは、わたしたちは、知る由もなく のんびりフルーツ牛乳に舌鼓をうちましたとさ。

*

なにが「のんびりフルーツ牛乳に舌鼓をうちましたとさ」って閉めようとしてんだよ。
今日の話はまだ続くだろうが。

下着泥棒の一件がようやく片付いた後の談話室。事の顛末を聞き、オレとシズクは御愁傷様と密かに心の中で唱えた。リーは女湯を覗きするタイプじゃねえし、ナルトもあれで不器用だからな、企みこそすれど実行はできねえだろ。
ただ、サクラやいの、テンテンは激昂が収まらずに銭湯をあとにし、ヒナタも傷心のまま帰っていった。

「ったくナルトのヤツ、とんだトラブルメーカーだよなァ!」

着替えを済ませたキバ。文句を言う割にゃ随分と楽しそうだな。

「なあ、なんでナルトのヤツ銭湯誘ったんだよ?今日一緒に修行してたわけじゃねえんだろ」

と、リーにキバは訊いた。
疑いが晴れたものの、リーはすっかり悄気てやがる。

「今日、カカシ先生の伝言を伝えにナルトくんのお家に行ったら ナルトくんがひとりで退屈そうにしていたように見えたんです」

「退屈そう?」

「ハイ。せっかくの休日に、なんだか寂しそうに見えたので……それで……」

成る程。そういうわけだったのか。
家族や一族の親戚がいるオレたちと違って、ナルトは物心ついた頃からアパートに一人暮らしだからな。休日も誰か誘ったり誘われたりしない限りは、当たり前のようにひとりで過ごすことになる。


「ボク、これからナルトくんの家に行ってみます。覗きの疑いをかけられたときも、ナルトくんは身を盾にしてまでボクを庇ってくれました。青春の熱き友情には応えなくてはなりません!」


「……ね、それなら皆でナルトのとこ行こうよ!」

リーの提案にシズクも手を挙げた。

「シズクお前、女子サイドじゃねェのかよ」

「……仕方ねェな」

やれやれと顔を見合せつつも、やはり全員が立ち上がるのだった。

―――ドンドンドン。

乱暴なノックと共に、キバがよく通る声でドア越しのナルトを呼んだ。

「何でかリーが遊びに行こうってんで来ちゃったぞ〜〜!!さっさと開けろ〜!!」

しかし返事はない。

「まだスネてんな さっきのことで」

「ニオイで居るってのは分かってんだけどな」

中々出てこないナルトを煽るように、全員おおげさに声を張り上げる。

「出かけてるな。なぜなら出てこないからだ」

「なんだ居ないのかぁ、残念」

「しかたない。帰るか」


ナルトの気持ちを害してしまったとリーは項垂れたが、部屋の内側では ナルトがドアにぴったりくっつき、仲間たちの様子を伺っていた。
とんがらせていた唇を、徐々に緩めながら。

「タイミング悪かったな。じゃ皆さん、帰ると」

「まったく何だというのだね〜!君達は!忍術の勉強で忙しい時に〜」

シカマルがだめ押しの一言を飾る前に、ドアが開く。そこには 嬉々とした顔のナルトがいた。

「しかたな〜い!付き合ってやるってばよ!」


誘導されたと知ってか知らずかは、別段大事なことではない。
気分を良くしたナルトに皆一安心し、靴も並び変えずに部屋に上がり込んでいく。
その午後は珍しく、ナルトのちいさなアパートが賑やかな笑い声で満たされることになった。

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