▼第五話

時計の針がてっぺんに近づくに従って、下の子の瞼が重くなって。
また明日ね。
そうシズクが小声で告げても、長女はなかなか食い下がらない。

「まだ途中だよ!それで?里はオロチ丸に乗っ取られちゃったの?母さんのピンチに誰が助けにきたの?」

「もう遅いからまた明日ね」

まるで千夜一夜の約束。
既に寝息をたてはじめたシカダイに首まで布団をかけ直し、しぶしぶベッドの中へ潜ったモミジにも、もうおやすみと囁いた。


宵になってまたさぁっと降りだして、小雨は今日の夕食の匂いもあらい流していく。
こどもたちを寝かしつけるとシズクは濡れ縁に座り直し、よみかけの手紙にもう一度、懐かしそうに目を通した。


一足早いけど、18歳のお誕生日おめでとう。
ほんとにほんとにおめでとう。

18歳というと、先生が例の本を贈ってくるかもしれないので、丁重にお断りしてね。
皆にたくさんお祝いしてもらってください。

私からも、誕生日プレゼントを同封してみました。
雨隠れは繊維業が結構盛んで、刺繍も有名なの。
せっかくだからと思って、伝統の刺繍をしたお守り袋を里の人から教えてもらったんだけど、恥ずかしながら大失敗です

ひどい出来でしょ。

あんまり下手すぎて、かえって面白いから送ってみました。
笑ってやってください。

中に安全祈願のおふだが入ってるから、それだけもらってね。

それと、お知らせがあります。
任務の中間報告として、十月になったら数日だけ木の葉に帰れることになったの。
誕生日には間に合わないけど、会いにいってもいい?



「私が送った手紙、ずっと持っててくれたんだね」

やがて廊下から顔を覗かせたシカマルに、シズクはひらひらと手紙を揺らした。

「また記憶喪失にでもなったときに便利だからな」

こんな言葉ひとつで今日笑いあったことも、気付かないうちにいつかきっと忘れて、また笑っている。それでいい。

まるく光る月。
眺めのいい家の屋根をノックする雨音。
影で繋いでおかなくてもいい、当たり前のぬくもり。

庭先に咲くお気に入りの樹の花が、来年には一回り大きくなるように育てよう。

いくつも歳をとりながら、シワくちゃになるまで、縁側で二人して見守ろう。

夜を朝にあらい流すのを。



行きましょう

きまぐれ翠雨

包まれて

ひとつの傘で

笑っておくれ

- 495 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -