▼41 花あれ幸あれ雪あられ
待ちに待った輪廻祭当日がやってきた。
昨日の夜から降り続いた雪で、里は一面にふわふわの厚い雪の布団を被ったようになっている。
朝には目映いばかりの銀世界が広がっていた。
街の通りは朝から人が溢れる。里の復旧工事もそぞろに、まずは雪かき。
大人たちが腰を痛めて雪を道の脇に固めていく中、子供たちは無邪気に雪だるまや雪合戦を楽しんでいた。
日差しの降り注ぐ、そんな穏やかな午後。
雪かきが一足早めに終了している奈良一族本家に、使いの忍が慌てて駆け込んできた。
「御免下さい!」
五代目、六代目と二代続けで火影の使い走りに定着したコテツにとっては、すっかり通いなれた道である。
「ああどうもヨシノさん」
コテツがチャイムを鳴らすと、シカマルの母ヨシノが顔を覗かせた。
「ご苦労様」
「いきなりすいませんね。シカマルとシズクいますか!?」
「悪いわね。今日は久々の非番だからって出掛けてるのよ」
「ええっ」
すぐに眉を寄せたコテツ。しかし次の瞬間には歯を見せて、ガッツポーズに変わる。
「やりましたよヨシノさん!“天の羽衣”、ついに復元完了したそうで!これでシカマルの記憶もすぐに元通りに出来ますよ!」
「まぁ……それは良かった」
「で!二人どこ行きました?オレすぐ呼んでくるんで!」
ヨシノは微笑んではいたが、やんわりとした所作でコテツの計らいに詫びを入れた。
「そうねぇ。折角なんだけど今日はそっとしといてあげて」
「え?」
「今日は式場探しに行ったから」
*
「それでは当プランでご検討いただきました後、ご連絡くださいませ。ありがとうございました」
快い笑顔に見送られて建物を出たにも関わらず、二人は険しい表情だった。もっとも、シカマルが仏頂面であることは今に始まったことではないが。
「オレは今んとこでいいと思うけど」
「でも、やっぱり席数少なくないかなぁ」
少し歩いて大通りから外れれば、雪かきもされていない手付かずの道に行き着く。
「いいんじゃねーの。親しい内でこじんまりってのが」
内心は面倒臭くてたまらないシカマルが言葉を変えて諭すも、シズクはまだ納得していない。
「ええー……だって、同期のみんなとカカシ先生たちでしょ。紅先生がミライちゃんも連れてきてくれるって言ってたし、綱手様シズネ様チカゲばあ様、医療班のみんな、先輩後輩、もちろん奈良一族の人たち……できたら雨隠れの友達も呼びたいしー……あ!きっと焼肉Qのおばちゃんも、」
「おばさんはいいだろ。里中招待する気かよ、めんどくせー」
これだから女は。
シカマルは胸の内で溜め息をつく。しかし反駁すればするだけ怒りを買うので発言は控える。これが父から学んだ恐妻家の強かさである。
雪かきは下忍の任務。復旧作業に輪をかけて、里の忍たちが否応なしに駆り出される輪廻祭当日にこうして二人揃って非番が取れたのに、決めるべきことも決まらない。この様子では、ナルトとヒナタの式の方が早いかもしれない。
次なる会場に向けて雪の道をさくさくと進めば、途中、冬の澄んだ青空から一羽の伝言鳩が飛んできた。
まっすぐシズクの元に降り立った白い鳩。
その足にくくりつけられた紙片を広げて目を通す。
「カカシ先生からだ……“天の羽衣”復元完了したから、今すぐ火影邸に来いって!」
「へぇ。思ったより早かったな」
シズクが嬉々として読み上げるも、シカマルは我関せずといった物言いで、雪道を乱暴にかき分けて歩いていく。
「どうする?」
「いい。次の会場の見学連絡しちまってるしよ」
「でも先生すぐ来いって」
「直ぐでも後でも変わんねェよ」
シズクは片手に握ったままの文書をちらりと見、すぐにシカマルの後を追いかけた。
「そうだね。カカシ先生遅刻魔だし、たまには待ってもらうのもいっか」
左右にかき分けられた新しい轍を歩きながら、シズクの機嫌はいつの間にかすっかり元通りになり、にっこり笑っていた。
大小二つの影法師。
木々はやわらかな風に揺れるたび、きらきらと粉砂糖を二人に散らす。
踏みしめて進む白い絨毯。
雪のライスシャワーが降る道には、二人ぶんの足跡が。
「道作ってくれるなんて、ホント女の子に優しいなぁ。昔っから」
「女運が最悪だからな。昔っから」
いつまでも。
(完)
39 花あれ幸あれ雪あられ
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