▼隙を窺う

シズクとカカシはカジの住む山を出、サスケの修行場近くに拠点を移していた。
鍛え直したチャクラ刀に、シズクは火の性質変化を流す。たちまち白い炎が渦を巻くように吹き出し、一閃の刃となる。

「さて、ここからは実践演習ね」

カカシは愛読書を忍者ポーチへとしまい、シズクに向き合った。

「これからお前には、火性質を纏わせたチャクラ刀でオレに挑んでもらう。一太刀入れてみな」

「一太刀?それだけでキリュウに敵う?」

首を傾げたシズクに、カカシは穏やかに諭す。

「オレの見立てじゃお前の火遁は陽のチャクラが融合した特殊なものだ。一太刀でも敵にぶつけることができれば致命傷レベルになりえる」

「最初の感応紙みたいに再生しちゃわない?」

「その刀に纏ったチャクラの火は、斬ったものの細胞に入り込んで成長を急速に進める。謂わば壊死させることができるんじゃないかな」

「うーん、イマイチよくわかんないけど……とりあえず今は先生に一撃入れればいいのね」

「そう簡単にいけばの話だがな。オレも本気でいく。お前を殺すつもりでね」

カカシはふっと笑みを浮かべ、笑顔でとんでもないことを宣言した。シズクがカカシと手合わせをしたのは、下忍合否のサバイバル演習が最初で最後。当時はカカシ相手に全く歯が立たず、力の差を見せつけられるばかりだった。
二人は間合いを取り、構えの片手印を結ぶ。

「では 始め!」


*

中忍試験本戦の開催まで一週間を切り、木ノ葉隠れの里は準備に追われていた。
市街地の一角にある“やまなか花”では、両親にかわって看板娘のいのが店頭に立っていた。花に囲まれたカウンターから顔を出し、つい今しがた来店したサクラと話し込んでいる。
第7班の隊員がことごとく雲隠れし、最近のサクラはやまなか花に通うのが日課になってた。

「しっかし、あんたもマメよね〜。リーさんにお見舞いの花持ってくってさ」

「だって心配じゃない。ひどい怪我だし」

「試験もないし、任務ないしで、暇よね〜。私なんか 食べ過ぎで入院したチョウジのお見舞いとか、そんなんばっかよ」

「私もおんなじよ」

「やっぱね。そういえばサクラ、最近シズクに会った?」

「ううん。修行でずっと外泊してるみたいなんだけど」

見舞いの花を選びながら、サクラは仲間の顔を思い浮かべ、少し寂しい気持ちになっていた。

「みんな、今頃どこでなにしてるんだろ」

サクラがため息をついた、ちょうどその頃。


*

「うわっ!!」

目前で迸った青い閃光に、シズクは悲鳴を上げた。カカシを出し抜くには遠く及ばず、シズクの命は皮一枚で繋がっているようなもの。ここにきてカカシが繰り出した雷切は、あまりの速さにシズクも回避が間に合わず、掠めたふくらはぎに激痛が走った。

「っ〜……!」

傷口から右足全体にかけて痙攣を起こし 立つこともままならない。それでもまだ運が良かった。雷切が命中して木っ端微塵に吹き飛んだ背後の岩壁を見、シズクの顔から血の気が引いた。
カカシの赤い写輪眼が冷ややかに光る。

「刀身を火で伸ばすのは悪くない発想だ。けどその分太刀を振るいにくくなって動きが鈍ってるよ」

「はい……!」

「火の纏い方も調整しろ。そんなじゃすぐキリュウに殺されちゃうでしょ」

「キリュウと戦う前にカカシ先生に殺されちゃいそうだよ……」

「もう降参?」

「降参なんて言ってない!」

不利に陥っては一度体勢を整えよ。シズクはチャクラ刀を一度手放し、得意の印を組んでチャクラを胸に溜めた。
忍法・毒霧!
吐き出された紫の霧に、カカシ先生は腕で防ぎながら後退する。その隙にシズクは間合いを取り、姿を眩ませた。

「ったく、チャクラ刀を使っての戦闘だって念押ししたろ。剣術でかかってこなきゃだめでしょうが」

どこかに身を潜めた弟子に投げ掛ける、カカシの息はまったくあがっていなかった。


「ハア、ハア……いてて」

一方 シズクは肩で息をしながら、足を引きずるようにして、出来る限り遠くに逃げ隠れてた。
この程度でカカシの追跡を撒けるわけもない。纏まった時間稼ぎにもならないが、せめて足の治療位はしなくては。シズクの掌から溢れたチャクラは傷口をやわらかく包み、痛みを和らげていく。

「しっかし雷切って、速すぎてほんと……とんでもない術だなぁ」

額の汗を拭い、空を仰ぎ見る。手合わせを始めたのは早朝だったにも関わらず、今や日が傾きつつあった。

「一瞬でもカカシ先生の隙を作れればいいんだけど」

カカシは木ノ葉の里随一の忍だ。写輪眼を持つ上に、長年暗部に籍を置いていただけに経験値もトップクラス。
写輪眼が使われだしてから既に五時間が経ち、いくらカカシといえど瞳術を発動すれぱ体力は消耗していくはずだが、日が暮れてはますます不利になる。シズクとて己の体力が保つ間に手を打たなくてはならない。そのカカシの一体どこに弱みがあるだろう。

「弱点か……。……そういえば」

アカデミーの頃、シカクのもったいぶったような言葉が、咄嗟にシズクの頭に浮かび上がった。


「格上の忍者に出会したときでも早々に諦めちゃならねェ。忍だって人間だ。屈強なヤツでも男は男男。必ず弱点はあるもんだぜ」

「ふうん。じゃあ、おじさまの弱点は?」

「俺か?まあそりゃあ、かーちゃんのキツイ一喝だな〜」

「……」


「どんな優秀な忍にも必ず弱点はある。うんうん。たしかにおじさまは怒鳴られるとたちまち威厳を失ってたけどー……」

っていうかソレ、忍の欠点じゃなくてただの性格じゃん。おじさまが恐妻家なだけじゃん。
そもそもあの助言、もしかして のろけ?
シズクは腕を組み、思案に耽る。同じように弱点があるとすれば、それはカカシの性格に基づくものなのかもしれない。考えを巡らせた末に、シズクはある確信をに抱いた。

「そうだ、あれだ!あれならぜったいにカカシ先生の注意を向けられる!」

シズクは呼吸を安定させ、最大までチャクラを練り上げて、刀に火を灯した。

「よし!やるか!」

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