▼31 未来を掴め

木ノ葉隠れの里の一角は隕石の落下により業火に包まれていた。

「紅先生!ミライ!」

チョウジは倒壊した家屋を避けて進みながら、力の限り叫んで辺りを見回した。水遁使いの消火作業も追い付かぬ勢い、猿飛親子の住むアパートは倒壊寸前だった。チョウジは躊躇わず足を踏み込む。名前を呼びながら。

「紅先生!」

小さい女の子の泣く声がする。蹴破った扉の奥で、紅が破損した鉄骨に脚を挟まれて身動きが取れずにいた。
炎の中の救出に、安堵した紅は微笑み、腕に抱いた愛娘を差し出してきた。

「この子をお願い!」

自分の命を乞わない。
鳴動は止まらず、火の粉を散らしながら天井の瓦礫が迫っていた。迷いは無い。

「倍化の術!」

チョウジはその瞬間得意の忍術で何倍にも体積を増し、身を呈して母子を庇った。

「ウグッ!」

「チョウジ……!」

痛みに歪むチョウジの目が、ミライの手にしているある遺影を捉えた。仲間たちが守り守られ合う今。恩師に託された明日。その未来を信じるからこそ今を精一杯に生きられる。そうやって自分たち忍は堪え忍んでここまでやってきたんだと。

「アスマ先生!ミライちゃんと紅先生はボクが守ります!!」

心に固く誓い、紅とミライを懐いて外へ転がり出た。


*

鳥は旋回し、瞬く間に高度をあげていく。墨の羽をはらりと落としながら。
今日に全てを懸ける意思の下、小隊は出動した。作戦会議にあたり、シカマルはシズクから聞いた真実をナルトたちに共有した。数日黙っていたことが隊長としてのシカマルの判断だったと隊員たちも受け入れた。揉めるほど子供ではない。皆大人の忍になった。
ナルトは決意を顕に頭上の人工太陽を見据える。その先には拐われた少女、大事な友、そして特別なひとがいる。

小隊の接近を感知し、敵方の編隊は直ぐ様出撃を開始する。
鷲獣の黒い影は空を覆い尽くす。

「援護を頼む!」

編隊の真下へ移動しながらシカマルはナルトに叫んだ。
ナルトは片手に宿したチャクラの塊を盛大に振りかぶった。

「螺旋手裏剣!!」

手から離れ、大きく弧を描く閃き。切り裂かれた鷲獣や傀儡はすっと落ちていく。
戦線から脱したある一羽、狙いを定めたシカマルの口元には笑み。

「影首縛りの術」

鷲獣たちの影を利用してシカマルは印を結ぶ。さらに標的の背に飛び移り、傀儡を鷲獣ごと操りながら進路を人工太陽へと向けた。
傀儡の印で開く、内部へ繋がる扉。

「続け!」

小隊は人工太陽に侵入した。
深層は、陽のもと大小の島が点在していた。人工太陽の内部にまた別の太陽が存在しているのも奇妙である。
中心に浮かぶ三日月型の浮島から、ドラの響きが空気を震わせて伝わってきた。何かの合図だろうか。浮島の頂には、古風な造りの城が聳えている。ドラはそこから鳴らされているようだった。

「敵の本丸に乗り込むぞ!」


城の上空を旋回すると激しい泡球の迎撃が開始された。その一つがサクラの墨鳥の羽を掠め、サクラの体が宙に放り出された。

「サクラちゃん!」

気付いたナルトが軌道を変え、落下していくサクラを受け止める。

「大丈夫か!?」

「ありがと、ナルト!」

依然として雨のように四人に降り注ぐ攻撃をかわし、四人は高度を下げて城の手前で飛び降りた。

「城まで走るぞ!」

「了解!」

走りながらシカマルはポケットから手袋を取り出し、時計の光る掌を隠すようにはめた。その様子を横目で見ていたサイが聞く。

「なんで手袋を?」

「気になって的確な判断ができなくなっちまう。ったくめんどくせェ」

四人は散弾降り注ぐ道をただひたすら走った。

「ナルト!ハナビのチャクラ感知できるか?」

「ハナビは……あの塔の中だ!」

ナルトは走る速度を落とさずに城の周囲を見渡すと、すぐにある尖塔を指さした。

「サイ!サクラ!ハナビを頼む!」

「わかったわ!」

隊は二分し、後続のサイとサクラにハナビの救出は託された。一方、ナルトの先導のもとシカマルは城内へと侵入し、真っ直ぐ中心部へと向かった。こちらは月の崩壊の暗躍者・トネリの元へ。

そこにヒナタがいることもナルトには判っていた。その事実がいっそうナルトのスピードを加速させ、正面から襲いかかる傀儡たちを縦横無尽になぎ倒していく。シカマルは後ろから援護しつつ、ナルトの勇ましい戦いぶりに対して満足気な表情を示していた。


*

ドラの重く低い音が聖堂に響き渡る。黒い婚礼衣装で身を包んだ新郎新婦は一歩、また一歩と礼拝堂へと歩んでいく。

「せっかくの結婚式だよ。もっと嬉しそうな顔をしろ」

トネリは沈黙の新婦に命じた。
心を操られたヒナタの唇の端が持ち上がり、弓なりになる。笑顔とは到底呼べない代物であった。傀儡の神官だけが整列する中を、そのまま二人は無言で進む。
トネリとヒナタは祭壇の前で足を止め、向かい合う。神官が御膳で黒いパンをトネリの前へ恭しく差し出した。花婿が花嫁にパンを口移しで与え、その行為を以て大筒木一族は婚礼を成立とするのだ。トネリは口に黒いパンをくわえ、ヒナタに顔を寄せた。

その時、何の前触れもなくトネリの体が後ろに傾いた。

見れば婚礼衣装の裾を引っ張る者がいる。

「その結婚、異議あり……なんちゃって」

婚礼の儀に全く相応しくない、汚ならしい風貌のくのいちが、トネリの裾を掴んで離さなかった。

「邪魔をするな!」

トネリは袖を引き、血や粉塵まみれのシズクの手を振り払った。神官が乱入者を捕らえようと駆け付けるも、シズクは手を翳し斥力で弾き返した。

「ヒナタっ!」

すかさず新郎新婦の間に割り込んで礼装のヒナタの両肩を掴んで揺さぶるが、虚ろな眼に自分が映るだけで反応はない。

「操られてる……ヒナタ、目を覚まし、」

ドスッ
瞬間、シズクの背中から胸を貫かれた。

「ううッ!」

トネリは泡球を引き伸ばした光剣で背後からシズクを刺していた。噎せた喉から吐き出される血。痛みに身を屈めたシズクは、手をヒナタから自分を貫いた刃へスライドさせる。
身体中から力の抜けていくような感覚に陥り、トネリによってチャクラが抜き取られていってることを自覚した。
花嫁から手が離れたことを確認し、トネリは剣が刺さったままのシズクを盛大に蹴り飛ばした。

「キミには何も守れはしない。ボクたちの儀式を遅れさせただけだ」

礼拝堂の壁面へ衝突した敵を見下ろしてトネリは囁いて相手な敗北を促す。泡球の剣で体が麻痺して動けないシズクは、歯を食い縛ってトネリを見上げた。
婚礼の儀が再び再開されようとしたその時、新たに静寂を断ち切る声がした。

「ヒナタ―――――ッ!!」


仲間の声にシズクは口角を釣り上げた。

「……今度はアイツか」

トネリは鬱蒼とした気分で溜め息まじりに目を閉じた。聖堂に突入して来る姿を見たくもないといった表情である。

「てめェ!!!」

ヒナタが婚礼を強要されていると察したナルトは、まっすぐトネリの元へ駆け寄り問答無用で殴りかかった。しかし傀儡忍がそれを制し、泡球の剣で斬りかかる。殺到する神官にナルトは行く手を阻まれた。

「ナルト これだけは言っておく。貴様の拳はボクには届かない!」

捨て台詞を残し、トネリはヒナタの腕を掴んで祭壇奥の通路へと姿を消した。

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