▼24 NO FEAR

あのきれいな街に 人が住んでた頃を想像したの。
木陰で休む人や走り回るこどもたち。夜に灯る家のあかり。星座をなぞる家族。
あなたたちは私たちの知らない時間を生きてきた。
今よりも きっとずっと素敵だったんだ。


翌日には集落を離れ、また別の手掛かりを探し移動した。その途中で日が月に変わり、梢の森で野営をすることに。月は丸く欠けることなく、星の落ちそうな夜だった。
ヒナタと影分身の私がナルトの監視の目をぬすんで森へ消えたのを確認し、月灯りを頼りに歩いて横たわるシカマルの背中を叩く。

「シカマル」

肩にそっと触れると、シカマルは直ぐに目を覚ましを起こした。

「何かあったか?」

「こんな時間にごめん。ちょっと話したいことがあるの。その……二人だけで」

ちらりとナルトを見た。まだ居眠り中。これはゲンコツものだけど、かえって好都合だ。

「二人だけで?」

「そう。トネリの件で」




一昨日のトネリの話と、昨日ヒナタから口止めされた話。どちらも洗いざらい全部、シカマルに打ち明けた。
シカマルは私から視線をそらし、腕組みをしていた。木に腰を預けた彼の 冷ややかな怒りを孕んでいる声が、夜に溶ける。

「何で黙ってた」

彼は頭の中で、神殿で読んだ忍文字の詩と辻褄合わせをしてるのかもしれない。

「私がヒナタに頼んで口止めしてたの。皆に知られたくなかった。地球じゃない場所であっても、輪廻眼が罪深いものだと思われてるとか こわくてさ」

私は大嘘つきだ。
そして思ってもない言い訳で、シカマルを再び騙そうとしている。こんな散々な嘘で塗り固めてしまっては、“天の羽衣”を奪還した後でも簡単に帳消しになったりしないだろう。
ごめん。もう1つだけ嘘を重ねさせて。

シカマルからやや距離を置き、私は木々の隙間から空を見上げた。昨日の誰もいない街は、煌めく星座の下に広がる暗闇になってるのかな。

「オレたちに黙ったままどうする算段だったんだよ?」

「囮作戦をするつもりだった」

「囮……?」

「トネリは必ずヒナタを迎えに来る。だから私たちは彼について行って、居場所をつきとめようとしてたの。トネリのところにはハナビちゃんもいる。例の転生眼ってやつもきっと近くにあるはずだから」

「駄目だ」

険しい声だった。

「ンな危ねェ橋は渡らねえ。言語道断だ。オレもそうだが、ナルトやサクラが囮作戦に頷くとでも思ってんのか?皆に真実を伝えて作戦を建て直す」

「敵を欺くにはまず味方からって言うでしょ。トネリを信用させなくちゃ何も見つけられない!」

お互い語を荒くして反駁し合う。私はシカマルの傍らへ寄り、彼の掌に向けて指を指した。

「時計を見せて」

挑発してもシカマルは動かなった。時計の示す時刻を確認する必要はない。カカシ先生の言っていたタイムリミットを、私はとうに覚えていた。
さあ言うんだ、彼の焦りを掻き立てるためにひどいことを。

「任務は今日で3日目。あと4日しかないでしょ?」

「あと4日ある」

「あとの4日も、このまま無人の集落を見つけては手掛かりを探してウロウロする?その間に里には隕石が、」

「んなこたァわかってる!!」

シカマルの射抜くような鋭い視線がこちらに向けられた。ほんとはこんな顔させたくない。
ごめんね、いつも困らせて。

「…トネリが“私たち”を連れて本拠地まで行けば、シカマルたちはそのあとを尾行できる。確実に敵の退路を追える」

「無謀だって言ってんだろ。話が確かなら、大人しくさえしてりゃヒナタはトネリに優遇される。けどお前はどうすんだよ。輪廻眼は恨まれてんだろ?何されるかわかんねェんだぜ。オレたちが直ぐ合流できる保障はねェ」

「保障なんていらない。約束もいらない。シカマル小隊は絶対合流できるから」

「……お前、ナルト以上に強情なんだな」

「そうかもね」

この星そのものすら いつ滅亡しちゃうかわからない瀬戸際にたっていて、この地にあるものでかわらないものなんて、不確かじゃないものなんてない。
知ってる人がいるなら、どうか教えてほしい。
運命って何。
恋と愛って何。
身の回りにはいつもわからない問題ばかり転がってるの。
でも私には、たったひとつ信じられるものがある。
私は、シカマルのことだけは確かに信じている。

最初に会ったその日から私にとってシカマルはもう大切だった、なんて聞こえのいい言葉かもしれないけど。
私の中の特別な気持ちは過去じゃなくて記憶じゃなくて、紛れもなく 今目の前にいるあなたの優しさを受けてふくらんだ気持ちだ。
怖いけど大丈夫。
病めるときも
死ぬときも、
私はあなたが望むなら戦う。
癒す。
盾になる。

私はあなたを信じてる。

「あのトネリって人とはできれば戦いたくなかった。何か手に入れるために争ったり、奪い合ったり、それが続くのは空しい」

「……」

「だから……戦争が終わってから、出来るだけ武器や術で戦わないようにしてきたの。そりゃあ時には力を使わなくちゃその場を解決できないことがほとんどだったけど、でも、力を使わずに言葉を使えば、これまで敵対してきた人たちや里とも分かり合えるんじゃないかって思った」

顔についてる眼で物を見る人もいる。この忍の世界には、不思議な力を秘めた眼もたくさんある。
でもあなたは心の眼で、物を見て、私を見つけてくれた。捨て子で よそ者と疎外されていた私を、他の人となんらかわりないように接してくれた。
私が間違うと、力ではなく、言葉で正してくれた。

私は“真白の巫女”なんかじゃない。最初にその方法を示してくれたのはあなただった。
あなたは否定するだろうけど、様々な物事を理解しつつ できるだけ平和な解決を望むあなたこそが潔白で。
私は見様見真似だったの。

シカマルに背を向けて、再び空を眺めた。
月が綺麗だ。
たとえ偽物でも。

「私は甘かった。里への帰路で私がトネリを捕まえてたら、もっと早く対処できたのに。それが火種でヒナタやハナビちゃんやシカマルや……もしかしたら地球全体にまで」

「……」

「だから今度こそ逃がしはしない」

地上の街をこのあたりの遺跡群の二の舞にはさせない。

「そんでも囮は危険すぎるだろうがよ」

「大丈夫。シカマルならぜったいに、正しく隊を導いて合流してくれる。私はそう信じてる」

私の強情っぷりに根負けしたのが、シカマルがついに折れて、呆れたようにため息をついた。

「よく言うぜ。なんだってそんなに確信が持てるんだよ。オレが下手打つ可能性だってあるってのに」

なんで?
そんなの、疑うまでもない。


「だってシカマルだもん」


記憶じゃない。過去じゃない。
私は今目の前にいるシカマルを愛してる。信じてる。
見えなくたって この気持ちはここにある。

There's some who see with the eyes in their head, and there's some who see with the eyes in their heart.

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