▼22 古の誓い

シカマルは隊員に召集をかけ、街の外れに発見した神殿と思わしき廃墟に乗り込んだ。
神殿は至る所に“目”の意匠が刻まれていた。十字手裏剣を2つ重ねた、光や花のような模様である。
巨大な石像はひび割れ、壁や円柱の所々も崩れかかり、土埃の舞い上がりがその輪郭を和らげる。石像の傍らにある石碑にもまた“目”は施され、忍文字の一編の詩を縁取っていた。

「古の誓い。人、道を過りてかくの如し」

シカマルが忍文字の詩を読み上げる。

「転生の眼 蘇り、月の拳 人を砕くべし……か」

「どういうこと?」

「転生の眼とかいうのが月を動かしてる ってことかな?」

「もしかして、月とハナビの件が関係アリっていうカカシ先生の勘は……」

「ま、あの人の勘はよく当たるからな。悪い方に」


黙ったきり推論に加わらないヒナタ。
彼女の顔色を窺うシズクもまた口を閉ざしたままだった。

……白眼の姫よ……

「!」

長いトンネルの彼方から誰かが呼ぶようなか細い声がヒナタの耳にだけ届いた。
地鳴りと震動が突として小隊を襲い、足元の石床が一部崩れ落ち、砂埃があたり一面に立ち込めていく。

「なッ、何だってばよ!?」

「みんな、あれ見て!」

片腕で頭を庇いながら、シズクはもう片方の腕で石床を指す。収まったあとには、隠し階段が地下へと導くように姿を現していた。


階段を降り、ランタンで翳した地下には、壁も入り組んだ道もだだ広い空間が広がっていた。
数千もの石の箱が等間隔だけが静かに並んでいる。

「こりゃ棺桶だろ?ここは墓場か?」

突如、石の箱を縫って近付いてくるかさついた足音。

「誰かいる!」

ヒナタの声でシカマルがランタンを向けると、一人の老人が照らし出された。
くすんだ、ボロボロのみすぼらしい衣に身を包んではいるが、佇まいからは風格を感じる。

老人は目を閉ざしていた。

「白眼だ 白眼を感じる」

気配や他の五感で察知しているのか、老人は隊員の中からただ一人のくのいちに向けて手を伸ばしていた。

「おお、間違いない……白眼の姫よ!」

「ヒナタに近寄んな!」

ナルトはヒナタと老人に割って入り、正体を確かめようとランタンを持つ手を老人に突き付ける。開かれた老人の目は真っ黒の虚空―――眼球が存在しなかった。

「!」

唸り声を上げ、目の無い老人は突然の苦しみに体を折り曲げた。上顎と下顎が何らかの力によって強制的に割られていく。その奥からは光が見え、輝きを持つ泡の球が吐き出された途端に大きく膨れあがっては、困惑した隊員たちの顔を徐々に明るくする。
その泡の光の“記憶”は、白眼の姫だけが知り得るものであった。

光の消滅と共に崩れ落ちる体。

「ヒナタ!」

ぷつんと糸がきれたように気を失ったヒナタをナルトが慌てて抱き止めた。

「てめェ!ヒナタに何をした!?」

「……転生眼が……復活する……」

使命を全うし終えると、老人の体はガタガタと震え出し、頭が首からボトリと転がり落ちた。頭を皮切りに手や脚も次々と崩れ落ち、体の部位と溢れ出た液体とが、ばらばらとその場に散らかる。
床に転がる頭は未だ、声を紡ごうとしていた。

「……止めなくては……大筒木の……大筒木の……」

言葉が途切れ、再び地下は静寂に包まれた。


*

地下墓地を出た小隊は街の中心部へと退却した。
もう日が暮れる。不安もあるが、一行はこの集落にを今晩身を寄せることとした。

「あの男、大筒木とか言ってたが…大筒木って確か六道仙人の元の苗字だよな?」

とある廃墟の片隅。先程起きた出来事についてシカマルとサイは思案をめぐらせていた。

「ああ。大筒木ハゴロモは、六道仙人が出家する前の名前だよ」

六道仙人の一族の名が一つの鍵。しかしその大筒木を“止める”とは何を示唆しているのだろうか。

「ヒナタさんを“白眼の姫”と呼んでたのも気にかかるね」

「トネリがハナビを誘拐したことと関係がありそうだな……」


シカマルの視線の先には、通りの水飲み場でうずくまるヒナタの姿が。
ヒナタも今や一人前の忍。あの憔悴ぶりは異常だ。ところがシカマルの追及にもヒナタは何も思い当たることはないと首を振るばかり。青ざめた表情で取り繕われては一層何かあった筈だと、そうシカマルは違和感をもて余してしまう。

「……」

そんな彼女を傍らで心配そうに見守るナルトの姿をシカマルの目が捉えた。
二人がこの数日で急速に接近していることに、勿論シカマルも気づいていた。昨夜聞いたナルトとシズクの内緒話もその証拠だ。旧友として、ナルトが自分の恋路を走るなら背を押してやりたい。しかし今は任務の最中、小隊の切り札であるナルトには尚更、平常心で挑んで貰わなくては困る。自分だって面倒な案件を保留しているのだから。

(一度ナルトにガツンと言うべきか。けど軽はずみにチームワークを乱しちゃ元も子もねェ。難しいぜ……)

任務はデートじゃねェんだぞ、とシカマルは心の中で小さく舌打ちした。


*

一方、サクラとシズクは住居の一つに足を踏み入れていた。
完全に日が落ちてしまう前に、今晩の寝屋を探さなくてはならない。安全かつ敵の奇襲にも対応しやすい 高台にある広めの家屋に二人は目星をつけた。

「サクラ、この建物なら良さそうだよ」

「そうね。ここにしましょ」

何もないがらんとした空間であったが、野宿よりは快適だ。家の広間と思わしき場所にサクラは腰を下ろし、火を起こす準備に取り掛かった。
シズクもそれを手伝いながら、頭では先の出来事を思い返しているのか、小さく呟く。

「ヒナタ大丈夫かな。意識は戻ったし、体にも異変はなかったけどすごく顔色が悪かった」

「確かに心配だけど、隣にナルトもついてるんだし。ナルトに任せとけばいいのよ」

そう言ってサクラは意味ありげな笑みをシズクに送った。

「サクラ 気づいてたの?」

「当然でしょ。私を誰だと思ってんのよ」

「お、御見逸れいたしました」

思わず脱帽するも ナルトとヒナタ想いの交錯をサクラが見過ごすわけがないのだ。
恋と愛に生きる乙女として、第7班で長らくナルトと行動を共にしてきた仲間としての彼女の目を誤魔化せるものなどありはしない。

「シズクだって、素直にアプローチしたっていいのに」

「……今はやめとく」

シズクは困ったように笑って、曖昧な返しをした。

「相手が手の届くところにいても、アンタは自分の恋はいっつも後回しね。……よし、準備完了!シズク、みんなを呼んできて」

「うん」

「あ!ナルトがヒナタに下手なちょっかい出してたら殴ってきていいわよ」

「はいはい、了解しました」

シズクは自分の気持ちを出せずにまだ嘘で上塗りをしている。
サクラの強さ、そして強がりですら、眩しいと感じていた。

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