▼21 美しき騙しあい

足跡はねぇが、この奇妙な地底空間のどこかにハナビの 或いはこの場所自体に関する手掛かりがある。
オレたちはすぐに森を発つことにした。
後方に顔を向けると、皆それぞれ身支度を整え探索の準備を開始していた。ナルトとサクラと、隣にはシズクの姿もある。

墨で出来た妙な手触りの羽に手を置き、オレはシズクに声をかけた。

「後ろ乗れよ」

不意をつかれたのか、当の本人はきょとんと目を丸くしている。

「いいの?」

「嫌だってんならサクラかサイの後ろでもいいけどよ」

「嫌じゃない!全然!」

頬に赤みまでさして、こんな些細なことで嬉しそうにしてる顔を、目撃しちまって。
先に乗り込んでおきゃ良かったな。なるべく自然振る舞おうと努めてオレは鳥の背へ足をかけた。


あくまで仮定に過ぎないが、シズクとオレは少なくとも恋人同士だ。最有力なのは、婚約関係。
それすら済んでる可能性だって否定はできない。

解せねえのは、この班が隊員総出でグルになってオレの欠けた記憶を欺いてやがるってことだ。
この憶測を口にすれば、シズクか他の誰かが白状するに違いねえ。だが今、そんなことしてどうする。この星の命運がかかってる任務の最中にわざわざ関係拗らしてまで明らかにする真実じゃねえ。だからこそ、こいつも皆も白を切り通してんだ。


「シカマル君、ニ十キロ先に集落が見えるわ」

新しく情報を掴んだヒナタがこちらに報告を入れた。

「地底に集落?」

「怪しいね。どうする?」

「……降りるか」

これが今唯一の手掛かりなら、危険は承知の上で行くべきだ。オレはハンドシグナルでサイとサクラにも合図を送った。

「きれいな街だったんだろうね」

上空から見渡す全貌に、後ろのシズクがぽつりと呟いた。
集落は小高い山の麓から山頂までを覆うように整然と広がり、秩序正しく建物が並んでいた。まるで古代の遺跡、遠くからでもその古さが窺い知れる。人の影はひとつとしてない街並みに一行は警戒して降り立った。
街並みには木々を配して土レンガ敷きの家々が立ち並び、塔のような構造物も目立つ。蔦や雑草が絡まり、完全なる廃墟となった状態であっても、たしかに美しいと例えられるモンだった。
木ノ葉の里と比べても集落の文化度は高い。だがもう数百年もの間放置されてんのか、敵どころか人の気配がまるで無ェ。

「昔は忍の里だったみたいだ」

錆びたクナイや忍具が転がっているのを見、サイが言う。

「こっからは三手に分かれての情報収集に切り替える。手掛かりになりそうなモンを見つけたら呼んでくれ。ただし発煙筒は使うなよ」

「了解!」

「ナルトはヒナタと組め。二人は麓付近を探索だ」

「お、おう」

「わかったわ」

「サクラとサイのペアは中腹エリア」

「何か見つけたら呼ぶわ」

サクラはガッツポーズをし、サイはうっすら笑みを浮かべる。
残るひとりには、僅かだけ顔を向けた。

「で……お前はオレと高台から山頂までだ」

「うん」



数百年も宿主のいない室内は閑散としたものだった。所々黒く焼け焦げたような痕跡を確認しながら、街の中心部から高台へと歩みを進める。

「火事の痕がある」

「戦でもあったみてーだな」

ランドマークに思われる建物まで行き着き、オレが先導して廃屋へと侵入した。暗闇まで進んでランタンの灯りを翳せば、正面には細かな壁が見通せた。
一歩一歩進む度に、土埃を被ったその球体が何なのか徐々に分かりかけてきて、胸糞悪い気持ちになった。

「とまれ シズク」

室内の壁という壁を隠すそれは膨大な数の人骨で、背筋を凍らせるような堆積は足元から天井へと続いていた。

「とにかく、尋常じゃねェな……」

海の向こうの大陸にゃ、骸骨寺ってのがあるって本で読んだな。修道院の地下に何万っつー数の人骨が敷き詰められてるらしい。
突として、シズクがその場にしゃがみこみ、影が切り替わる。こんなモン見て気分が良いヤツはいねェだろう。いのなんか、こういうの見て卒倒しそうだしな。

「おい、大丈……」

「数のわりに下層の白骨があんまり劣化してないね。同時期に一斉に積まれたみたい」

声をかけようと口を開くと 先にシズクの方から言葉が発せられた。

「骨に外傷が残ってるのも多い。死因は外的要因かも」

そうか、コイツ医療忍者だった。
ランタンの灯りを少しだけ傾けて、髑髏の山からシズクへと視線を滑らせた。痕跡を探す瞳に、長い睫毛が影を落としている。
真剣な 凛とした横顔に 思わず見とれそうになる。


「……シカマル?どうかした?」

刹那、色違いの双眸がこちらに向けられた。

「いや、……そろそろこの廃屋出て、ちょい休憩入れようぜ。この近くにまだ手掛かりがありそうだしよ」

「そうだね」

調べものを済ませて骸骨の山をあとにし、再び空の下へ出た。



シズクが見渡す遺跡に人の影はない。
たしかに人が生きていた、その痕跡だけが残っている。

「ちょっとさびしいね。誰もいなくなった街なのに、景観は美しく残ってるなんて」

「そうだな。美しい、か」

ペインが襲来した直後のオレたちの里とまるで逆だ。木ノ葉は人間が生き残って街並みが消え、この街は場所が残り人が消えた。
人のいない街はこれからなにも進まない。ここもやがて朽ちてなくなるんだろうな。
そんなふうに考えていると、シズクが徐にこんなことを言い出した。

「美しい、で思い出した。“男にとって最も美しいものは、惚れた女の笑顔。女にとってそれは、初めて見る我が子の顔”」

不意打ちだった。
オレはシズクの横顔を見やる。そして、ある確信を持ってオレはこいつにカマをかけた。


「ヘェ なかなか大層な格言だな。お前のか?」

「えっ!あ ううん……忍の先輩に昔教えてもらったの」

嘘つくなよ。オレもそれ、知ってんだ。
ガキの頃オヤジに叩き込まれた男女論の一部としてな。


「シカマルよぉ、男にとって最も美しいモンってのはな、惚れた女の笑顔なんだぜ」

「またオヤジの格言かよ。めんどくせー」

「ンな顔すんな。後学のためにも覚えといて損はねェぞ」

「女の笑顔ねェ……んじゃ、女にとって最も美しいモンは何なんだよ?」

「そりゃ ガキが生まれた瞬間だろうよ。はじめて見る我が子の顔ってヤツだな」


オレもシズクもお互い似た者同士らしい。

こんなのは騙し合いだ。
答えに気付いてもまだオレは知らない振りをする。
お前だって演技して笑う。こうやって保留し続けること自体だって危ねェってわかってて、都合のいい解決策すら見当たらず黙ってるなんてよ。

悪ィけど お前に抱いていた感情も記憶もきれいさっぱり無ェんだ。無ェもんはあげられもしねェ。お前の気持ちにゃ今までのようには答えてやれねェんだ。
ここまで来ると前の自分が疎ましい。

なあ、なんでお前はオレで、オレはお前だったんだよ。

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