▼託された形見

満月も過ぎた頃の真夜中のこと。

「師匠、だめじゃないっすか、またそんなになるまで呑んで。急性アル中でポックリいきますよ」

ボロ小屋の屋根に乗り、ヌイの師匠のカジは今夜も月見酒。はたけカカシとその弟子が来てからというもの、カジは酒瓶を開けるペースが早くなっていた。

「おぅいヌイー、みてみろよ」

一升瓶片手に眼下を指さすカジ。その先にはシズクの姿があった。手のひらに木の葉を一枚乗せて何やら唸る姿。そのうちに、「う〜……できないー!」ヤケクソな叫び声が響く。

「あのガキ、まだ……」

「お前との組み手は三日間。性質変化は毎晩徹夜で修行ときて、こっちは4日目か」

「毎日!?体力バカか」

初期段階の性質変化を中忍試験の本選までに間に合わせようなどと、無謀すぎる。
カジはにっと笑ってみせた。

「おもしれえなあ、あのガキ、恥ずかしげもなく言ったぜ。戦う理由があるとよ」

「どこにそんな自信があるわけ。こうと決めたら一歩も譲らない性分?なんであそこまで……」

「周りが見えねえ程がむしゃらな時期は誰しもあらあ。オレん頃は今と違って、戦争に理由もクソもなかったけどな。理由なんて背負って戦うやつはな、お人好しだけだ。ヌイ、珍しいだろ。それほどの馬鹿は」

カジは空瓶を放って立ち上がると寝床へ戻っていった。ヌイはその後も、シズクの小さい影から目を離すことができずにいた。

翌日。ヌイとの太刀合わせに受け身も取らずに挑んだシズクは、例の如くドシャァァァと盛大に転がった。

「痛っ!ハア……今度こそ」

「おい」

「ヌイさん、もう止めろって言われても聞きませんからね、わたしは!」

「……そうじゃない。相手の反応を読んで動き過ぎなんだ。それじゃ身体の流れに乱れるわけ」

ヌイの突然のアドバイスに、シズクは思わず目を丸くした。

「これは剣舞の動きなわけだから、自分の体の流れを意識して」

「は、はい!」

シズクは気を引き締めて、もう一度木刀を取った。

*

ヌイを勝かしてはいないものの、四日目に入ってシズクの剣術の動きは大分様になってきていた。一方で、性質変化は難航を極めた。いくら時間を費やしても、せいぜい木の葉が熱を帯びるだけ。このままじゃ間に合わないとシズクは焦り始めていた。

「もー!なんでうまくいかないかな」

「はっはっは、苦戦してんなァ」

「カジさん!」

見かねたのか、珍しいことにカジがシズクに近づいてきた。

「まさかガキ嫌いのカカシが弟子をとるとなあ。山暮らしが長いと驚かされることばっかりだ」

「カカシ先生、ああみえて結構面倒見いいんですよ」

ハッハッハ、とカジは快活に笑う。

「カジさんとヌイさんはずっと山に住んでるんですか?」

「まあな。オレの隠れ家に弟子のあいつが逃げ込んできたってトコだ」

「……?」

「剣舞ってのは暗殺やら情報収集やら、危なっかしい任務に引っ張りだこになっちまうからな。戦う意味が見出せなくなっちまったんだろうな。それであいつは里の任務から離れてこんな山奥の鍛冶屋に住み着いちまった」

洗練された太刀筋を考えれば、ヌイが過酷な任務についていたかは明白だった。

「そうだったんですか……」

「それもあって、ヌイも内心お前に期待してんだろうよ。頑張れよ」

千鳥足で戻っていったカジの背中を見送りながら、シズクは頭を振った。
自分には戦う理由がある。ここで挫けてはいられない。

「おさらいしよっと。えっと、カカシ先生が言ってた火の性質変化のコツは……」


「性質変化にはそれぞれコツがある。火の場合は、普段の体温調節を無視してチャクラの熱を上昇させ、体積を発散するイメージで練るんだ。火は小さな一点から空気を取り込んで増大するだろ」

「風船を膨らませるみたいに?」

「ま、そんなとこかな」


「膨らませる……イメージは掴めるけど」


「先生、早く会得するコツはないの?」

「早くっていってもねぇ…無茶言わないの。性質変化は普通にやったら半年から一年はかかるってさっきも言ったろ。地道にやるしかないよ」



「でも試験に間に合わせたいし…ハア 寝てる間にうまくなってたらいいのにな」

そうひとりごちて、シズクの頭にあるアイディアが閃いた。

「……そうだよ!影分身!」




そうして、翌朝。

「ヌイさん、おはようございます!手合わせお願いします!」

「なんだよこんな朝っぱらから」

シズクには勝ち気な笑みが広がっていた。


一方、カカシのもとでサスケの修行は順調に進んでいた。数日間の付きっきりの修行の成果があった。サスケは本選までに雷の性質変化を習得し、千鳥を発動できるだろう。そうカカシは踏んでいた。

「問題はシズクかな」

シズクをカジのところへ放置して数十日。未だ連絡はない。性質変化は長いスパンで考えて、今回の試験は最低限の剣術さえ身につければなんとかなる。それがカカシの理想だった。しかしながら 今の里の状況を鑑みると、中々甘いことも言ってられない。

「サスケやシズクには、今のうちに自分たちの身を守る術を仕込んでおかなきゃな」

カカシが岩場から空を仰いでいると、黒い影がすいと飛んできた。

「!」

「どうした、カカシ」

「ん。ちょっとね」

あれはたしか、シズクの使役烏だ。

「サスケ、お前は修行を続けてろ。オレはちょっと野暮用だ」

その日の夜にカカシが山頂の修行場を訪れると、そこにはシズクがひとり 刀を片手に舞っていた。
剣舞と見紛える動き。夜風にまじり、真上の星を感じながら、剣先で空を切る。瞼を伏せ、体の動きひとつひとつ楽しむように笑ってる。シズクが手にしているのは由楽のチャクラ刀。その刀身が夜空に輝くのを見るのは、十数年ぶりだった。
カカシは息をひそめてしばしシズクを眺めていた。

「シズク」

「カカシ先生!」

「彼女に片膝つかせたのか?」

「うん。今朝ね!しかもカジさんてば、とっくに由楽さんのチャクラ刀を鍛え直してたんだよ」

「ま……そういう奴だよ、アイツは。で、どう?使い心地は」

「とっても軽い」

「そうだろうな。その刀はチャクラを刀身に灯すことで活きる」

「なるほど…刀に火を灯すのね。それなら」

シズクはふっと口の端に弧を描き、利き手に力を込めた。その瞬間、陽のチャクラが溢れたかと思うと、鍛え直されたチャクラ刀の柄には、白い火が帯びるようになった。
チャクラは白く美しい 目映いほどの一直線の光となった。

「どう?」

急成長を見せる弟子に、カカシはマスクの下で思わず笑みを溢した。

「上出来だよ」

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