▼12 出陣

「お前らの任務は拐われた日向ハナビの救出だ。シカマルを隊長に4マンセル……それと本人からの志願によりヒナタとシズクを加える」

奪還任務とは心底縁がある。
こういう厄介な任務がオレに振られるのは毎度のことだ。もう慣れてる。どんな任務でも、与えられたんならできるだけ効率よく遂行すりゃいい、そんだけの話だ。
ただ 今回ばっかりは内心穏やかじゃなかった。
ひっかかるのは人選だ。サイはわかる。敵と交戦してるし、能力をとっても攻守共に優れてる。医療忍者のサクラも必要な人材だ。
問題はあとの三人。
ヒナタはハナビの姉、そして敵にさらわれかけた被害者でもある。時として非情な決断が下されっかもしれねー任務で、身内の人間に冷静な行動がとれるとは思えねェ。
それに加えてナルトだ。非常事態に最大の戦力であるナルトを里の守備から外すってのは、カカシさんも相当大胆な手に出たな。

そしてもう一人の人物は――と考えて、《思い出せねェ》。
敵の扱う宝具のせいで、オレにはこの女の記憶だけがないらしい。記憶がねェんじゃ、こいつとの件に関しては もはや考えるだけ無駄だった。
いくら実力者だろうが何だろうが、隊員を六人も引き連れて極秘任務に向かうってのは結構な負担になる。

「シカマル 手を出せ」

促されるまま手を差し出すと、割烹着に眼鏡がトレードマークの天文方が印を結ぶ。向けた掌には、文字が刻まれた小さな円盤が浮かび上がっていた。

「時計……?」

「五影だけがもつ最高機密の時計だ」

同じ円盤を刻んだ掌を、六代目はかるく掲げる。

「これってば何の時間だ?」

「地球滅亡までのタイムリミットだ」

カカシさんの淡々とした口調。火影の後方に控えるイズモ先輩とコテツ先輩は息を飲む。示す円盤は今もなお時を刻んでいる。いうなれば月の接近に耐えうる、この星の寿命か。

「解せねェな。ハナビの救出にこんなもん必要ありますか」

窓に目を向ければ、遠方で小さな隕石が雲を引いて降りていくのが見えた。
これは天変地異の前触れでも自然現象でもなく忍術の仕業で、月を動かしてる張本人は、日向宗家跡取りを連れ去ったトネリかもしれない。そう六代目が仄めかした。

「何か根拠でも?」

「オレの勘だ」

忍がくさいとあたりをつけたなら、というヤツだ。六代目の読みはもう確実だろう。この人の勘はいっつも悪い方に当たるからな。

「あくまでもお前たちの主任務はハナビの救出だ。さらに敵が所有してる“天の羽衣”もあわせて持ち帰る必要がある。でも展開によっちゃあ、三つの任務を同時に果たしてもらうやもしれん」

「三つの任務?」

「ハナビ奪還のついでに……もし地球も救えれば救ってねって意味だな」

「地球を……随分と壮大な“ついで”ですね」

サイが無表情のまま突っ込みをいれた。

ついで、か。
まるで近所のスーパーに買い物でも頼むような言い方をしていても、これもまた六代目の中では絶対的な要件。
ハナビを救いだしたところで、地球が滅んだら任務遂行もクソもない。失敗はそのまま人類の滅亡に結び付く。
つまりヒナタとそこのシズクってくの一は囮。ナルトは二人の護衛役であり、敵を討つ決定打として召集された。

里の保全より元凶を取り除くために自分の教え子を送り込むのだ。最も信頼のおける忍として。六代目の火影としての冷厳な判断に恐れ入った。

「二つでも三つでも、まとめてオレが面倒見るってばよ!」

それを知ってか知らずか、ナルトは胸を張って期待に応えた。


*

プレゼント。猿飛家。笑顔のミライ。一楽のラーメン。共同墓地と慰霊碑。トネリと名乗る敵。

《知らない女》。

“お前は一部記憶喪失だ”と誰に説明されても、容易に頷けるもんじゃねェだろう。長期任務から帰還した同期の忍を護衛中に敵に襲われただなんて。
会えば何かわかるのかと思っていたがどうやらそうでもないらしい。適切ではない表現かもしれないが、第一印象と言い表す方法が浮かばない。
あのオッドアイの輪廻眼。気味が悪くもあるのは、片方が薄紫色の波紋の模様による印象だろう。

差し出された月浦シズクの手を取っても何も感じなかった。ああよろしくな。何気なく相槌だけ打ってあまり深入りしないでおくのが一番だと直感が働く。
女ってのは大概めんどくさい生き物だ。母ちゃん然り五代目然り、同期のくの一たち然り。この女も整った容姿の内にどこか粗暴さを秘めていそうだ。そんな風に見受けられた。

盗まれた記憶について詮索するのは時間の無駄使いだ。
小隊長として、冷静に、今は任務に集中を。


*

唯一つの文字を掲げ、明けぬ夜を戦い抜いた第四次忍界大戦より早二年。各里は契りを交わしそれぞれの故郷へと離散した。それぞれ里ののしるしを刻めど、未だ心には“忍”の一文字がある。
地上に敵はおらず。此度武器を向けるは漠然と広がる紺碧の空。残る戦は人相手ではない。防空態勢を整えた隊列に各里の長は檄を飛ばし、奮戦を督励した。

「えーい!よいか者ども!もうすぐ数多の隕石が地球に降り注いでくるぞ!」

雷の国雲隠れでは 忍界大戦総大将を務めた雷影が、光の如く隊列の間を駆け抜け、忍たちと拳を交えた。

同刻、土の国岩隠れ。

「一粒たりとも残さず破壊するんじゃぜ!」

二次被害を出さずして障害を打ち負かす最強の忍術・塵遁の使い手土影は、座禅を組み、チャクラを練る隊員たちに念を押す。

降り頻る雨の中、水の国霧隠れでは、心構えを諭す気高き声が響く。

「どんな小さな刃でも力になります。錆びたクナイは研ぎ直しなさい!」

蓄えた力を今使う時。水影は雨の先を見つめた。

かの寡黙な里の影が熱弁を奮う様は、先の戦争で皆の心を一つにした演説を想起させた。風の国砂隠れは風影とその姉兄といった若き指導者たちが里を束ね動かす。

「もし巨大隕石が落下すれば地球の明日はない…明日を望む者は今日を戦え!」

風はまだ吹いている。



火の国木ノ葉隠れ。朝が来て日は照り、歴代火影を刻む顔岩のもとに整列する隊員たちを明るく染める。

「この戦いは地球を、国を、家族と仲間を…そして未来を守るための戦いだ!」

「オォ―――――――ッ!」

かつて森だった頃、三人の若い忍が岩山より絶景を臨み誓い合った。
この地に住もうこの世の終わりまで。
いつの日か命が尽きる日が来るかもしれない。
しかしそれは今日ではない。
今日、今それが確か。
接近する死の気配を打ち消すが如く、六代目火影の声に合わせて忍たちは気勢をあげ、燃ゆる火の意志を示した。

彼方からは町一つ覆い隠す隕石が空を流れる。
そしてとある小隊が、天命を背負った任務へと出動した。

いざ出陣。

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