▼06 引力の夜
21時34分。
寒ィと思ったら、日が暮れた空に雪が降り始めてた。すぐにでも暖を取りてェところだが、今日の成功を祝って、ささやかながら第十班で、一楽へ。
馴染みの店には案の定、馴染みの先客がいた。ナルトとサクラも後輩をつれて今来たとこらしい。
「ラーメンがうまい季節になってきたなァ」
「アンタは春夏秋冬ラーメンばっかりでしょ。ナルト」
「ホント好きよねえ〜、ラーメン」
「ああ 大好きだってばよ」
無事作戦が成功を修めたことに、ほっと一息。
熱いラーメンを啜りながら、オレは始終嬉しそうに笑ってたミライを思い浮かべる。
不器用な男にとっちゃ、女心ってのを満足させるのは至難の技だからな。
その悪いほうの例として、女心をまるっきり理解していないナルトのやつは、先程やって来たヒナタのことでサクラに叱咤されても、わけもわからず困惑したままだ。
人生初のモテ期に、里の英雄ときたらヒナタの気持ちもサクラのアシストも棒に降ってやがる。
「まったくもう。私、ヒナタんとこ行ってくる!」
「何だ?オレ、何かした?」
「さあな」
ナルト、お前の頭は筋肉かラーメンでできてんのかよ。そう突っ込みたくもあるが、同じ男という括りでしっぺ返しを食らいそうでめんどくせー。
触らぬ神に祟りなし。
いのは呆れてため息をつく。チョウジはラーメンに夢中。
オレは我関せずとばかりにラーメンを啜った。
「ナルト先輩行っちゃったね〜」
「きっとすぐ戻ってくるよ!」
話を複雑にしてることに気づきもせず、英雄に夢中の若いくの一らは、テーブルで焼きたての餃子に箸を伸ばしてる。
そこで、小耳に挟んだ会話。
「あ、そうだ、見て見て!さっきシズクさんからサイン貰っちゃったの〜っ」
「……シズク?」
どんぶりから顔をあげると、両隣のいのとチョウジも同様に箸を止めて、丸くした目でオレを見た。
* * *
年頃の女子が夜道を一人で歩くなら、フツー心配して送っていくのが男のマナーよね。せっかく気を利かせてやったのに、バカナルト。
ま、わかってないのがナルトらしいんだけど。
「ヒナタ!」
私はヒナタにやっと追い付いて、肩を叩いた。
「ヒナタ、気にしないほうがいいわよ。アイツって本当に鈍感なんだから」
「うん……」
ヒナタの返事は小さかった。さくさくと、柔い雪を踏み締める二人分の音が響く。
「編んでたマフラーさ、ナルトに渡すつもりだったんでしょ?」
ヒナタはまた小さく頷いた。
輪廻祭を目前に、若い女の子たちがひっきりなしにナルトを囲ってることもあって、控えめなヒナタは、いつも自分を優先できずにいるみたい。
「大丈夫よ ヒナタなら。自信持って!」
「ありがとう……。でも、なんでそんなに応援してくれるの?」
「そ、それは…」
だって放っておけないじゃない?
幼いころから誰かを一途に想い続けてると、心の天秤はもう、報われるとか報われないとか、そんな簡単な揺れ方すらしなくなるでしょ?なんて、ヒナタに自分を重ねてるなんて言えないわ。
手芸屋さんに通いつめる健気なヒナタみかけちゃったら、後押しせずにはいられないわよ。
「ハハハ まっ、お互い頑張りましょ!」
「あ、ありがとう」
ヒナタはお辞儀して、パタパタと小走りで電灯の下を駆けて消えていった。
うまくいくといいね。ヒナタ。
* * *
同刻 日向邸
良く研がれた鋭利な三日月を横切るように飛来する三つの影。獣の嘴と翼は鷲、脚や鍵づめは太く獅子のもの。
顔と手足を包帯で覆った異国の忍が数人ばかりが、音もなく庭に舞い降りた。まるで位置を把握しているかのように迷いなく階段を駆け登り、次々に襖を開く。
最後の襖が開かれたその時、クナイを手に待ち構えていたハナビは、僅かに悲鳴をあげてまもなく、意識を失い 敵の腕の中へと崩れ落ちた。
同刻 東の森
今日は殊更綺麗だ。きんと切り詰めた冬の夜風に舞い散る雪の影。感情の淡いボクでも胸に込み上げるものがある。自然はすべての師。白い息を吐きながら、竹林に腰を据えて流れるように絵筆を走らせていた。
「月、随分大きいな」
こんなに月が眩しい夜には、なにか奇妙なことが起きる。
美しい画面を切り取っていると、突如として異様な影が視界を遮った。
「!」
飛行する三体の獣には忍衆の一団が跨がり、波風立てずに低空で去ろうとしていた。不気味な外見だ。顔は包帯で隠されている。内一人が意識のない少女を担いでいる。
「ほっとくわけにもいかないな……忍法・超獣偽画!」
巻物から飛び出した墨絵の鳥に飛び乗って、鷲のような獣の後を追う。向こうも手練れか、勘づくのが早い。森へ逃げる忍衆をさらに高速で追うも、光る泡の玉が投げつけられる。しるりと交わせば玉が樹木に衝突し、大木が呆気なくへし折られる。一気に間合いをつめた瞬間、敵の影に隠れていた少女の顔が青白い月明かりに照らされた。
「日向のハナビちゃん?」
* * *
「うそ、シズクもう里に帰ってきてるの?」
「あと数日かかるって話じゃなかったっけ」
「なんでもご帰還の予定を早めたそうですよ?わたしたち、サインもらおうと思って待ち伏せてたんですけど〜。 コテツさんがシズクさんをどこかへ連れっていっちゃって!」
「……マジかよ」
「あっちゃー……。シカマル、探すの手伝ったげようか?お礼は今日の代金でいいから」
22時05分。
やっとのことで、しゃがみこんだ背中を見つけた。
頭の後ろで結った髪を支える簪は、一年前にオレが手紙と共に送ったものだ。振り向き様にトンボ玉がきらりと光る。
月夜に浮かび上がる、驚いた表情。
すぐに、切なそうに瞳が歪められる。
んな顔してんじゃねェよ。オレがこの短時間でどうやってお前を探し出したと思ってんだ。いのにラーメン代奢って感知協力頼んだんだぜ。
「……シカマルっ!」
抱きつきゃ許されると思ったら大間違いだ。超バカ野郎。
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