▼04 まさしく浦島太郎の君
こんな夢を見たの。
私は宇宙へ旅に出た。争いのない星を見つける果てしない道の終着に、世界中の人間がお引っ越しできるような綺麗な水の惑星を、見つけてね。
ここならもう大丈夫。そう思って故郷に帰ったら、シカマルもカカシ先生もナルトもサクラもサスケも、みんな、腰の曲がったおじいちゃんおばあちゃんになっちゃってて。若い私を誰だかも分からなかった。
新しい惑星は、時間の流れが違っていたの。あちらの一時間はこちらの十年だった。
そして私はあなたの最期を看取るの。
映画の見すぎだってあなたは笑うかもしれないね。
* * *
「シカマル、今日は第十班で紅のとこに行くって休みをとってたよ」
五影会談へ向かう前に、カカシ先生は耳寄りの情報を教えてくれた。
ミライちゃんが二歳の誕生日を迎える日。慌てて帰ってきたわたしは、今日がその、とても大事な日だと言うことを、すっかり忘れてしまっていた。
はじめましての挨拶をするなら、日を改めよう。これから先、私は木ノ葉に居るわけだし、急を要することはないのだ。婚約をした相手に再会するにも、焦る必要はない。奈良一族の本家や木ノ葉病院に先に顔出すのもいいかもなぁ。
以前よりも活気に溢れた町並みをゆっくり歩いていると、大通りに、輪廻祭バーゲンセールの段幕が掲げられているのが目についた。
「そんな時期かぁ」
輪廻祭。
今年は、今年こそは、きっとシカマルと――そう思案をめぐらせて商店街をくぐった私は、不意打ちでフラッシュの嵐を浴びることになる。
「わっ!?」
光に眩んだ目を開けると、若い忍を筆頭にちょっとした人垣が作られていて。
「シズクさん、取材を!」
「雨隠れの任務はいかがでしたか!?」
「よかったら一緒に写真お願いします!」
これ、どういう状況?差し出されるままに手を握り、ペンで色紙に名前を書き。されど一向に道は開かず。
すっかり狼狽した私を次に襲ったのは、なんと煙玉だった。
「わっ」
「誰だぁ!?」
紫煙に不満があがる中、左手首が後ろに引っ張られ、途端に視界がクリアになる。真っ先に目に飛び込んできた灰緑のベストを見て、胸の奥が僅かに揺れたけれど、手首を掴んだのは、コテツさんだった。
「しーっ」
コテツさんは人差し指を口元に寄せてジェスチャー。そうしてまるで恋愛映画のワンシーンのように、煙が晴れる前に、私たちは人垣から忽然と消えた。
* * *
閑散とした裏通りまで行くと、ようやくコテツさんは腕を解いてくれた。
「驚かせちまったな。お前の護衛にって六代目が言うもんでさ。このカンジじゃあ賊からっつーより取り巻きからだろうけど」
「ありがとうございます、コテツさん。助かりました」
コテツは少し笑う。
「お前の帰還を聞き付けてこんなに集まるとは、“真白の巫女”さんは大人気だな。戦争での活躍然り長期任務の成果然り」
「私はただ任務に行ってただけで…」
「30年以上膠着状態だった雨隠れとの外交をたった数年で繋いだんだからな。大したモンだぜ」
それに噂にはオヒレが付くもんだろ と彼は続ける。
「なんでも風影をおとしたとか」
「デマです!」
「果てには六代目火影とまでデキてるって話まで」
「それもデマですっ」
「まぁそりゃデマだよな」
正直面食らわずにはいられなかった。
“よその子”と呼ばれ、里に居場所の無かった幼少期。その私は、下忍になってから変化が訪れはじめた。任務をひとつこなす度に、少しずつ認められてゆく自分。嬉しいことに変わりないけど、存在を認められるというのは、いつになっても慣れのこない照れくさいものだなぁ。
“英雄”のナルトなんてもっと大袈裟な有り様で、里外から写真を撮りに来る客がいるくらいらしい。
「なんと言うか、こそばゆいものですね」
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