▼03 リトル・ミス・サンシャインへ

この家には チャイムを鳴らせばいつでも、はぁい、と明るい返事がある。
アイコンタクトでフォーメーションを確認。チャンスは一度きり。オレたちに失敗は許されない。

ガチャ。

鍵が解かれる音でゆっくりと扉が動き始める。
油断するな。見計らえ。
ドアが開ききったら作戦開始だ。

せーの、

「ミライ!誕生日おめでとう!!」

猿飛と書かれた表札の下で、不意討ちに驚いて見上げてくるちいさなターゲット。
笑った。

…よし、今日の任務は無事遂行だな。

* * *



「みんな、今年もありがとう」

「いえいえ!お邪魔しまーすっ」

料理皿片手に現れた紅先生。この人が敏腕上忍だなんて、誰が予想しようか。

「木ノ葉丸はまだ来てないんスか?」

「忘れ物を取りに引き返したわ。なんでも三代目様の蔵で良いオモチャを発見したとかって」

「うわーいい匂い!」

「お前が目ェ輝かせてどうすんだよ、チョウジ」

テーブルいっぱいに並んだ大好物の料理。色とりどりのリボンがあしらわれた包み。白いクリームに縁取られた真赤な苺のケーキ。
並ぶろうそくはまだ2本。こちらの気持ちとしては、“もう”2本と言った方が正しいが。

「もう二歳か…早いもんだな」

ハピバースデー、トゥユーの歌の最後に、ミライは勢いよく火を吹き消して、ニッコリ笑う。そして、たくさんのプレゼントに目を輝かせた。

「ミライ、プレゼント開けてみて!」

「うんっ」

めんどくせーけど、人への贈り物って、難しい。
特に女は。
事前申告では、いのはでかい熊のぬいぐるみ。チョウジはままごとセットだ。ではオレは、なにを贈るか。最初はパズルにしようかと手にとったが、たしか積み木は持っているし、チョウジのおもちゃの野菜となんとなく被る。

プレゼントを開けるたび、親譲りの目がきらきら輝く。
次はオレの番か。

「あ、えほん!」

迷った挙げ句立ち寄った書店で目についたのだ。カラフルな彩色で綴られた物語。字を読むようになったミライが高らかにタイトルを声にする。

「“ガマせんにんのだいぼうけん”」

すこし早いかと思ったけどよ、見つけたとき、ちょっと笑っちまったんだ。幼児向けえほんのコーナーにひっそりと、しかし確実に、伝説が語り継がれてたから。
最強のヒーロー・ガマ仙人が、宿敵オロチにさらわれたなめくじ姫を助けに行くお話。
どうも、真実ってのは脚色されてくもんらしいな。ガマ仙人は実際のところエロオヤジだったし、なめくじ姫は男に助けられるような健気な姫キャラじゃねえし、オロチは…オロチは、まあいいとして。

いつか大人になったとき教えられるといい。この三忍を育てたのがお前のじいさんだってこと。
アスマだったらきっと話して聞かせたはずだ。

「ママ、よんでー!」

「今日はミライが読んでみせて?」

嬉しそうに紅先生の袖を引くミライを見て、カカシ先生の気持ちがちょっと分かったような気がした。イヤ、オレは道を踏み外したりしねェけど。

「ガマせんにん は なめくじひめ の ピンチ に さっそうと とうじょう しましたっ」

ページを捲る。
語り継ぐ。

なあ アスマ。
二年なんて早いもんだぜ。アンタの娘、竹の子みてーにすくすく育って可愛い盛りだ。さぞ羨ましかろうよ。
ここはふたりきりじゃねえ。木ノ葉丸を筆頭に猿飛一族大勢。オレたち元第十班、キバたち元第八班。来年も再来年もその次も、誕生日を祝う。もう、決まりきったことだ。

「ミライ、アスマ先生に似てきたね」

飾られた写真を見て言ったチョウジの言葉に、紅先生はぎゅうっとミライを抱きすくめ、いとおしそうに頬擦りした。

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