▼ちょっと違うだけ

強い日差しが照りつける、夏日。カカシに連れられ、シズクは里の西部に位置するとある山道を歩いていた。
頬には汗が伝う。

「ねぇ先生、どこまで行くの?」

「この山の頂上まで」

少し急ごう。
蝉の声に紛れてそう言うカカシの歩調は 心なしかいつもより速かった。

「これから行く先に住んでる奴に お前の修行を手伝ってもらうつもりだ」 

「わたし、てっきりサスケと一緒に修行するんだと思ってた」

「お前にはお前の、あいつにはあいつの、それぞれに合った修行をつける。大蛇丸の動向も気になるから、しばらくは離れた場所でお互い集中した方がいい」

「これから会うのはどんな人なの?」

「それは会ってからのお楽しみ」

カカシは答えを保留し、先を急ごうとする。里から遠退くにつれて道は細くなり、背の高い木立が太陽を遮るようになった。

「で、本題に入るけど」

カカシは徐々に歩幅を緩め、シズクと並ぶ。

「シズク お前には2つの修行を平行してやってもらう。まずひとつは剣術を覚えること」

「剣術?」

「ああ。今のお前は戦闘時は体術系近距離タイプだが、手の内の読めない対戦相手に素手で突っ込んでいくのは賢明とは言えない」

シズクが対戦相手の様子を思い返した。

「あいつ、たしか腰に長い刀を差してたよね。あれに対抗するためにわたしも剣術を鍛えるの?」

カカシも頷く。

「奴の腕を凌ぐのは容易じゃないだろう。とはいえ剣術は訓練しといて無駄になることもない。これから行くところはオレが信頼してる鍛冶屋で、腕利きの剣術使いでもあるんだ。お前はそいつのとこで、基礎を学ぶこと」

「了解!もうひとつは?」

「残るひとつはチャクラの性質変化だ」

そう言ってカカシは忍具ポーチから一枚の紙を引っ張り出した。

「これ なあに?」

首を傾げたシズクに、カカシは「チャクラの感応紙だ」と告げた。

「チャクラを吸って育つ特別な木から作られている。これでチャクラ性質を判別できるんだ。こんなふうにね」

カカシは人差し指と中指に感応紙を挟むと、ほんのすこしチャクラを練った。
途端、紙に一閃の皺が刻み込まれる。

「紙に皺が入ったろ。これはオレのチャクラが雷の性質だってコトを証明してる」

「やるやる!」

シズクは意気揚々とカカシの手から感応紙を受け取り、チャクラを流してみる。

が、しかし。

「わっ!……って、あれ」

感応紙には瞬く間に鮮やかに燃え上がったが、次の瞬間には何事もなかったように元の紙に戻っていた。

「一瞬燃えたみたいに見えたけど」

もう一度練るも、同じように感応紙は元通り。

「焼け付かずに再生したか。やっぱりな」

「やっぱり?」

下がり眉のシズクを見、カカシは一人納得したように頷いた。

「この感応紙で調べられる五つの性質の他に、二種類の根元的な基盤となる性質が存在するってのは知ってるな」

「うん。陰のチャクラと陽のチャクラでしょ?」

精神エネルギーを元に、陰遁は創造の力。
身体エネルギーによる陽遁は生命の力を司る。
医療忍者にとっても基礎的な知識を、シズクも無論知らないはずはなかった。

「五大性質はその基盤の上に存在するものだ。あくまで推測だが、お前は陽性質のチャクラが強すぎるんだろう。今の感応紙の反応がその証拠だ。一瞬“火”の性質変化が見えたが、強力な陽のチャクラが邪魔してる」

「それって、わたしは五つの性質変化の方は使えないってこと…?」

前向きなシズクでも流石に気を落としたのか、不安に駈られて自然と歩みが遅くなっていた。
カカシは足を止めて励ますように言う。

「チャクラの練り方が異なるだけだよ。うまく調整して使い分ければ五大性質変化も使えるはずだ。それに、陽の性質だって悪いことはない。お前のその力は何よりの強みだ。でしょ?」

カカシの柔らかい笑顔に、つられてシズクもすこし微笑んだ。

「…カカシ先生、あのね、わたしがチカゲばあさまからはじめて掌仙術を習ったとき、すごく怖い顔をされたの。医療忍術は難しいチャクラコントロールを要するのに、わたしは最初からなんにも考えずにできたから。それって、チャクラを練るのが上手なわけじゃなくて、わたしの陽のチャクラそのままを放出してただけだったんだよね」

シズクはジャングルのような森のなか、高い高い空を見上げて追想していた。

「陰陽のチャクラを調節しなければならない忍術は高度でチャクラの消費も激しい。医療忍術や、お前の同期のシカマルやチョウジみたいにね」

影真似は陰性質、倍化の術は陽性質の秘伝忍術である。使用する一族は、遺伝的に最も適合しやすい体質を備えてるのが常だ。
シズクは返事をしながら頭の片隅で想像した。
自分の力も、譲り受けたものなのかな。
例えば顔も知らない、父や母から、と。

「こっからはさらにオレの憶測だが、お前は死の森で大蛇丸に何らかのダメージを受けたって言ってたでしょ。あのときの話からしておそらく、奴の陰のチャクラが微量お前に侵入したんだと思う」

「大蛇丸のチャクラが?うえー……」

「つまり陽のチャクラしか持たなかったお前に、陰のチャクラが組合わさったってことでもある。二種の基盤が整えば、五大性質変化もしやすくなるだろう」

「…大蛇丸はなんでそんなことしたのかな」

「それはオレにもなんともな」

大蛇丸の真意はカカシにもわからなかった。
その奇行に関しては、今はまだ肯定も否定もできない。しかし、それを利用しない手はないだろう。

「ここから目的地まではまだだいぶある。歩きながら、まずは感応紙に変化が現れるまでやってみるんだ。陰陽のチャクラはその感対紙には変化しないから、陽遁のチャクラを使い果たせば自然と反応が現れるよ」

「よーし!やるぞー!」

かくして、シズクの修行は幕を開けたのだった。

- 45 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -