▼門出(番外編・鹿誕)

門出を祝うにふさわしいいかにも晴々とした日差しの中、和装が苦手な彼女が音も立てずに進む。水化粧に包まれた明るいかんばせに伏せられた睫毛の一本一本まで清らかで美しい。たぶん、一生の中でいちばん美しい日だ。真赤のべにが弧を描き、満ち足りた笑顔をいっそう誇らしげなものとしていた。

シカマルが母ヨシノの顔を見ると、シズクの白無垢姿に涙を流して喜んでいる。息子が嫁をもらう。その花嫁もまたヨシノの娘でもある。シズクを半分育てたヨシノは立派な母親、喜びもひとしお。新婦の親族席に座る五代目元火影は朝から日本酒をあおってきたのだろう、頬が目に見えてあかく、シカマルは苦笑した。
白無垢かあざやかな色打掛けか迷ったとき、シズクが角隠しの由来を耳打ちしたことを思い出して。

角隠しの角は“怒り”、それを隠して、夫の三歩後ろを歩くおしとやかな妻となりますってことよ。

五代目火影は未婚で、シカマルの母は白無垢である。代々恐妻家の奈良家若頭としては角隠しを選べば良かったと内心思ったりもするが、シズクの晴れ着を見たらそんなものどこかへ吹き飛んでしまった。真綿で包んだようにやわらかく穢れなどしない。どこまでも白くきれいなまま。


「シズク、すっげーきれいだってばよ!」

雅楽の調べが響く厳粛な式の最中、空気も読まずに火影の笠を揺らして声高らかに叫ぶ友人がいる。サクラにでも叩かれたのか、ちいさく小突かれていた。ナルトお前は後で説教。


「緊張してるの?」

三三九度に入る前、シズクがオレだけに聞こえるようにそっと囁いた。

「さっきからキョロキョロして」

「あー、……そんなとこだ」

「もう。一度きりの白無垢だよ。ちゃんと見ててよね、旦那さま」

こういうときは女のほうが堂々としたものである。シズクは曇り一つない笑顔、しかし瞳が潤んでいるのをシカマルは見逃さなかった。純白の姿にひときわ光り輝くプラチナ。あまりに眩しくて。照れ臭くて。
隠れ親衛隊が油断なき眼でオレを睨んでいた。ちょっと気を抜いたら後ろから刺されそうだ。悪ィな、あんたらの意中の人物はこれから永遠にオレの嫁さんだ。奈良家の姓を名乗るのを、こちとら十年以上も待たされてたんだから。誤魔化しきれない笑みを、シカマルは差し出された御神酒の盃で隠すことにした。

- 489 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -