▼むすんで(鹿誕)

ねえさわらせてよ、後ろに回り込んでおねがいするのはすこし甘えたな声。シカマルは拒むけれどそんなのかまいやしない。無駄な抵抗はおやめなさい。君のちょんまげはもうわたしの手中、頭皮を刺激しないためにもじたばたしないほうがいいんじゃないのかな。そうそうあきらめて。一旦言い出したら聞く耳をもたないこの性格、シカマルがいちばんよくわかってるでしょ。

「勝手に解くな」

紐をしゅるりと引っ張ると、影みたいに黒い髪が重力にしたがって肩に降りて。まるで女の子みたいだ。うわあ、さらさら。ネジもさらさらだけどちょっと髪質が違うね。

「めんどくさがりのくせに切らないんだね」

「まあ、こればっかりはな」


「坊主にすればいいのに。楽だよきっと。剃ってあげよっか?」


「勘弁してくれ」

「奈良一族のアイデンティティってやつ?」

「そんなとこだな…おい、あんまいじんなよ」

いいにおりがする。見慣れてるといえば見慣れてる光景だけど、見るたびに毎回どきどきする。みんなの知らないシカマルを独占してる。別人みたいな、とくべつな。なんかうれしいな。髪を下ろすと顔立ちがずっと妖艶に見えるのはおばさま似だからなの、それともおじさまもそうなの?

「いいかげん直せよ」

お団子密編みツインテール、まるでお風呂場のこどものようにひっきりなしに試しては楽しむわたしにされるがままにしていたシカマルが、読んでいた本を閉じて、やっと口を開いた。ぶっきらぼうな言い方は別に怒ってるわけじゃなく、こそばゆくて照れてるらしかった。

「うまくいかない」

「へったくそ」

きちっとてっぺんで結べないといえば、シカマルは紐を奪い返すと口にくわえ、右手で髪をすきながらていねいにまとめていく。その姿が色っぽかった。セクシー?シカマルに?似合わないなあ。両手が塞がってる今がチャンスとばかりにちゅ、とちいさく口づければ、シカマルの口から髪紐がほろりと畳に落ちていった。毛先が頬を掠めてくすぐったいよ。

(いくらきれいに結ったって、私が乱してあげる)

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