▼とある昼さがり(鹿誕)

「おい、シズク班長はどこいった?」

木ノ葉病院・医療班。
最初に気付いたのは医療忍者のカンポウだった。班長宛ての書類を抱えて訪れた彼は、うずたかく報告書だけが積まれたデスクに首をひねる。その椅子に座っている筈の班長が見当たらない。

「シズク班長ならデスクに…ってあれ、居ないィ!?」

「さっきまでここにいたのに!」

忍は音も無く去るべし。シズクは忽然と姿を消していた。

「探してこい!夜に火影様に提出の書類がまだだぞ!」
「また奈良んとこじゃないか?」
「…邪魔したら半殺される」

判子待ちの報告書を手に半狂乱に陥る班員たち。
同席していたモエギは、青筋をたてながら肩身の狭い気持ちで隅っこに立っていた。

(皆さんへ伝言を頼まれたけど、こんな状態じゃ言えない…まさかシズク師匠が休憩がてら銭湯に行ってしまったなんて…っ!)


*

「こんにちは!」

ドアをノックして顔を覗かせたシズクは、今日もかわいい。しかし目を輝かせてこう聞くもんだから、オレは奈落の底に突き落とされるのだ。

「コテツさん、シカマルいます?」

ちくしょう!リア充、否、シカマルだけ爆発しろ!


「シカマルなら…」


指差した先には、比喩でもなく山のような資料に半分埋もれるようにして巻物に目を通すシカマルがいる。お前聞こえてんだろ!嬉しいくせによ返事位しろ!

「…おう、どーした?」

「あのね、おべんと作ったんだけど、食べる?」

シズクが手にした花柄の包みが神々しいほどに眩しい。彼女からの、シズクからの、て、手作り弁当…だと…!?まさしくオレたちのマドンナ!
イヤイヤ待てよ、シカマルは関所の任務のときはいつも母親が作った弁当を持ってきてるはずだ。証拠に、所持品の保管してある棚にはたしかに奈良家の家紋が入った緑の弁当包みが。

「あ…、おばさまの作ったお弁当あるよね。ごめん!」

とたんに表情を曇らせるシズク。

「シズク、じゃあオレが」

「いやその弁当はオレが!」

「オレも食いたい!」

待ってましたと言わんばかりに資料棚から顔を出す野郎共。

「では皆さんで…」

「ちょい待ち」

するり、とオレたちの手から特製弁当を強奪した、しゅるると黒く細長い蛇のようなそれ。続く先は術の足元、花柄の包みはシカマルのてのひらに収まった。

「オイシカマル!」

「影掴みの術使うとはなんと小癪な!」

巻物の山から身を脱していたシカマルが、シズクに向き直る。

「今日かあちゃんの弁当忘れてきたからよ。もらうぜ。サンキューな」

「…うん!」

シズクの顔がぱあっとみるみるうちに笑顔で綻んだ。誰が見たって幸せそうな、満ち足りた微笑み。くそう、かわいい。やっぱり笑顔がいちばん似合う。しかし、しかしだ。納得がいかねえ。

こっからが勝負だ。

「任務がんばってね!」

手を振りながら彼女が部屋の扉を閉じた、その瞬間から戦いは始まったのだった。

弁当もシズクもオレたちまだ諦めてねえんだからなオイ!

「てめーウソつきやがってシカマル!弁当あんじゃねーか!」

「シカマルお前食ほそいから食いきれないだろ半分寄越せえぇ」

「シズクの卵焼きィ…!」

「唐揚げ!」

「ちょっ何すんスか!」

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