▼したり顔でさながら悪魔(鹿誕)

目線の先の彼女は、エメラルドのマニキュアにふうと息を吹きかけていた。瞬間。なによと適当にあしらわれた、わたし。奥の窓からの光が、いのの金色をいっそうきらきらさせてる。きれいになりたい、もう一度いうと、やっとこちらを向いた。

「本気?」

「うん」

バカだって思っているんだ絶対。だって今日の私は支給されたTシャツ。寝癖も直していない。いつもそうだ。家にはかわいい服なんて一着もない。大体、アカデミー時代、サクラといのがお洒落に夢中になる一方、私といえば遊び仲間は例のイケてねー派で毎日外で走り回っていた。

しかし私は危機感を募らせている。なぜなら昨日、奈良シカマルは年上上忍から告白を受けていた。儚げで色っぽい美人だ。偶然にもその場に居合わせた私は絶句、キバは隣で鼻の下をのばして見とれていた。いかにもヤマトナデシコに勝てるわけない。きっとシカマルの好みの、知的美人系。テマリさんといい、なんでこう、いつも。
暁討伐以後、シカマルの実績が周知のものとなったのか、若しくはもともと人気があったのか、どちらにせよ、くのいちの間でも話題に出るようになって。

いきさつを聞いたいのは、あんたもかわいいとこあんのねー!と大袈裟にわらった。気恥ずかしくて白い陶磁のカップの取っ手をいじってみる。つるつる。女の子の髪も、肌も、きっとこんな風に白いものなんだ。私には遠いんだ。

「仕方ない、協力してやるわ!」

いのが腰に手を当てて、ただし条件があるわよっと睨んだ。絶対逆らわないこと。いいわね?そういてニヤリと不敵にささやいた。

「ハイ!よろしくお願いしますいの先生!」

私は悪魔の手を取った。


*

目の前に広がる書類の海に、ため息すら出なかった。喉が渇いたし、肩も痛い。目がしぱしぱする。コレ追加な、とイズモさんがファイルをどっさり抱えてきた。泣くかと思った。昨日は助っ人を2人呼んだが、結果的に足を引っ張っていた。キバがこの手の事務作業に向いてないのは明らかで、チョウジには大量の飯を奢らないといけなくなるので。

しかし他に協力者と言っても、任務やら医療班やらで忙しいシズクから貴重な休みを奪うのは気が引けた。今日のは内容を頭に入れなくてはいけないので、手伝い云々じゃないのだが。

首を慣らしながら欠伸をひとつ漏らすと、コテツさんが窓の外を熱心に眺めている。

「なんかあるんすか」

問いかけると、コテツさんは興奮したように言う。

「すっげぇ美人がいるんだよ」

「はぁ、」

「ほんとすげーかわいい」

隣ではイズモさんが呆れたように笑ってファイルに整理を続けている。もしかして、と昨日声をかけてきた特別上忍が頭をよぎったが、顔をあげずに書類に集中した。
ゲンマさんもこっち来て見てくださいよとコテツさんが手招きすると、ゲンマさんが奥の本棚からやって来て、窓の前に並んだ。

「なんだ、シズクじゃねーか」

「は?」

思いがけずオレは顔を上げた。
間の抜けた声がコテツさんのとカブってしまった。

「ゲンマさんなにいってんですかー似ても似つかな…」

「シカマル、こっちきてみてみろよ」

ゲンマさんに促される前に、オレは既に立ち上がっていた。このヒトは鋭いから、あなどれないのだ。



三階の窓から見える女は、長い髪をなびかせて関所の前に立っている。口をあんぐりあけてなんにも言えないオレは、さぞかしアホだろうな。
警備の忍と話をしている、どうやらもめているらしい。コテツさんの言う、似ても似つかない、というわけでもないが、服装や雰囲気はがらりと変わっている。だがあいつだ。絶対。

慌てて入り口まで降りていくと、彼女と向かい合う形になった。いつも寝癖だらけの長い髪は真っ直ぐに腰まで伸びている。ふわりと、柔らかそうな肌に長いまつげの影が落ちる。つけまつげってやつか。口紅に化粧に、控えめな香水。まなざしだけが変わらない。
極めつけは、軽い色合いの大人っぽいワンピース。丈が短く体のラインが一目でわかるそれ。目のやり場に困った。

「ねぇシカマル、なんとかいってよ。中にいれてくれないの」

「お前そのカッコ、」

「たまにはね」

コテツ先輩を始め、道行く人が振り返ってを見つめている。通りがかったオヤジがいやらしー目でシズクの足を盗みみていた。オレ相手でもそれは無防備すぎる。はやく足、しまえよとも言えず。


「どう、色っぽい?」

今日も今日とて彼女にしてやられるのだった。

- 347 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -