▼わたしが強くなる方法

ヒナタに続いて緊急治療室に運ばれてきたリーさんの容体に、医療班の隊員はみんな閉口した。ある程度の回復は見込めても、忍として任務に復帰できるようにするのは ほとんど絶望的だったのだ。

わたしたちにはこれ以上手の施しようがない。
これほどの重症を看れるのはきっと、“医療スペシャリスト”のあの方だけ。

リーさんは禁術を解放し、砂隠れの“砂漠の我愛羅”相手に何度も向かっていったという。意識を手放してなお 立ち続けて戦おうと身構えていたと。リーさんのことはよく知らないけど、彼が命がけで戦う姿勢、出会って日の浅いナルトやわたしたちに刻まれた。

*

本選の説明があるから、会場へ戻るように。
係員に声をかけられ、今日1日で何度往復したかわからない通路をひとり歩く。
リングに向かうと、サスケを除く本選出場者が並び、順々に箱から何かを取り出してるところだった。わたしは最後に並び、アンコさんに促されるまま箱へ手を伸ばした。

「よし 全員取ったな。その紙の数字を左から順に教えてくれ」

それは本選対戦カードを決めるくじびきだった。

「では、お前たちに本選のトーナメントを教えておく!!」

完成したトーナメント表の、いちばん左端に月浦シズクの名前を見つける。すぐ隣にキリュウ、右に向かってうずまきナルト、日向ネジ、我愛羅、うちはサスケ、カンクロウ、油女シノ、テマリ、ドスキヌタ、奈良シカマル。
果たしてくじ運は最悪なのか最高なのか、わたしをターゲットに選んだ湯隠れのキリュウ その人と戦うことになってしまった。
目線だけそらしてキリュウを見ると、奴は一瞬だけ口角をあげた。

ナルトは口をぎゅっと結び、拳を握りしめている。
ナルトの初戦の相手は、日向ネジか。さっきのヒナタの一件もあって なおさら負けるもんかと いっそう気持ちが高ぶってるに違いない。

「ね、ナルト」

「へ?」

「第二回戦で当たるね」

「…!そっ そーだな!」

ナルトの声は柄にもなく上擦っていた。

「わたしもナルトと本気で戦いたい。まずは初戦を勝ち進まなきゃだね」

「あっ 当たり前だってばよ!オレはぜってーネジに勝つ!!シズクも勝ってオレと勝負だってばよ!」

「とーぜん」

焦ったような顔が、途端にいつもの威勢のいい笑顔に戻って、差し出されたのはナルトの握り拳。1ヶ月後の戦いの舞台で果たす約束を交わし こつ、と拳を合わせた。
でも、まだわたしにキリュウは越えられない。
交わした約束のために、そしてわたしの忍道のために、今よりもずっと強くならなくちゃ。


夕暮れの帰り道。カカシ先生と木ノ葉病院に続く道を歩きながら、手短に報告を済ませた。なんだか今日は、ずっと隣に先生が居た気がするなあ。

「対戦相手は誰になった?」

「湯隠れのキリュウ」

「悪運の持ち主だねえ お前も」

「ヒナタやリーさんや みんなあんなに必死だったのに、不戦勝のわたしが本選に出れるのって なんか不公平な感じがするね」

「忍の試験に公平も不公平もないでしょ」

「そっか」

この数日で、中忍試験がはじまり、久しぶりに同期の仲間たちに会って、及びもつかないような能力を持つ忍に圧倒されて、わたしはわたしの無力感を募らせて拳を握り締めることしかできなくて。

「わたしね、なんにも知らないんだなあって思ったの。ナルトの九尾のことも、サスケを狙う大蛇丸のことも、サクラの決意も……きっと他にも、たくさん知らないことがあるんだよね」

傾いた太陽を背に、先の道に伸びる影を見つめて足を止める。カカシ先生も わたしより数歩先で同じように立ち止まった。

「いまはわからなくても、せめてもっと強かったら、少しは守れるかもしれないって今日思った」

「……」

「先生、わたし どうしてもあいつに勝ちたい。おねがいします!わたしが強くなる方法、一緒に考えてください!」

夕日に染まった先生の右目は、しばらくわたしを俯瞰したのに、やがていつもみたいに困ったように、細められた。

「お前には恐れ入ったよ」

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