▼ 澄み渡る空に

頭上へと引っ張られてた感覚がほどけるようになくなって、両足に体の重みが伝わる。開いた瞼の向こうに広がったのは真っ暗闇の赤い月ではなく 秋の、澄み渡ったきれいな青空だった。

すこし肌寒い風と低い太陽の位置、今は朝方か。

薄い木の皮のようなものに全身覆われていたらしく、身動きをする度に朽ちた破片が舞い落ちる。
いい夢を、見てたような気がする。

無限月読を受けちまってたはずだが 解除されたのか?ってことはマダラは―――

「シカマル!」

辺りを見回すと、栗色の長髪が視界に飛び込んできた。

「チョウジ!大丈夫か!?」

「うん!」

事態を掴めなくとも、親友の無事を確認できて不安はひとまず安堵に変わる。肩を叩きあった。
改めて周囲を注視すると、オレたちはほぼ一斉に“目覚めた”ようで、術から解き放たれて清々しい空気喜ぶ者もいれば、状況を掴めずキョロキョロと首を動かす者もいた。無限月読は解除されたとみて確実だろう。
今度は別の仲間がオレを呼んだ。

「シカマル!」

「サクラか…!」

「良かった 目が覚めて!」

「訳知り顔だな。サクラ、一体どうなってる?」

「込み入った話だから詳しくはあとで話すわ。とにかく、カグヤは封印できた……。終わったのよ」

「!?カグヤ?もうちょい詳しく話せよ。終わったってどういうことだ」

サクラは要点だけをオレに話して聞かせた。
無限月読を発動したのはマダラだったが、そのマダラすら利用して暗躍する存在がいたこと。抹消こそはできなかったが、黒幕はナルトとサスケが封印し、少なくとも復活の心配がないとも、つけ足して。
ナルトたちは一緒じゃねェのかと聞けば、ナルトとサスケは自分たちの戦いの決着をつけるため 二人だけで終末の谷へ向かったのだと言う。
サクラもまたカカシ先生と共に谷へ向かい、今ここにいるサクラは、本体のサクラが谷へ出発する際に残していった分身体、っつーことか。

「私もただの分身だから分からないけど、無限月読が解除されたってことは…多分……解決したハズ……」

サスケが死んでもナルトが死んでもオレたちは無限月読からは解放されないわけで、二人の戦いはつまり 最悪の結果には至らなかったみてえだ。

「マジで込み入った話みてーだな……」

あいつらの様子も心配だが、これ以上ここで二人のことをとやかく議論しても始まらねェ。

「まずはこっちで戦場の状況整理だ。総大将に事態を伝えて全体で把握しねーと。いのを探して皆に伝達すべきだ。たしか近くにいたハズだ」

重たい頭を総動員させながら、いのを探そうと振り返ろうとする。
が、サクラはそれをやんわりと制止した。

「それは誰か別の忍に任せればいいわ。誰かに頼んで……アンタはこっちに来てちょうだい」


一瞬、サクラの真意が読み取れなかったが、黙ってあとをついていくと、すぐに言わんとしてることが判った。
天から剥がされた荒々しい地形 剥き出しの岩肌に、ぽつん ただひとりだけで横たわるシズクの姿を見つける。その体の周囲1メートルだけが、目に見えない防御壁で守られていたように不自然に平らな地面のままだった。

「シズクの遺体はマダラの術が守ってたみたいなの。だから無事だった」

サクラは徐々に涙声になっていた。

「……私もさっき見つけたの。里に転送する前に、皆が幻術から起き始めたから……だから…アンタにも…伝えておこうと、思って…」

「……サンキューな、サクラ」


そばに駆け寄り、汚れた頬に手を当てる。
睫毛の一本一本まで まるで生きてるような横顔だった。だがその肌の石みてェな冷たい感触に、オレの心臓は握りつぶされちまったような痛みが走り、血の代わりにどっと感情が流れていく。

「シズク、…“螢火”で転生して闘ってたから………実感なかったけど、……」

オレの数歩後ろでサクラが呟く。ボロボロと涙を溢れさせてた。みなまで言わなくてもその気持ちは痛ェほどよく分かる。向き合いたくなくて、向き合わなきゃならねー現実だ。
動かねェ。
人形みたいな身体を目前に、もう二度と笑わないコイツを見て、オレも同じく実感した。


死んだんだ。


髪の毛先や服が焦げ落ちている程どこもかしこもボロボロだった。シズクは2日間、どんな戦いに身を投じたのか、ほとんど知らなねェ。オレがこの戦場に来たときにはシズクは既に十尾に力を奪われつつあり、あいつは自ら自分の命を転生してまで状況を脱した。目は片方、輪廻眼になってた。霊体になっても、最後の最後まで。


「んとに…バカなヤツ………」

(忍の心得 第25項、忍者は)

つぎに触れて、抱き締めてしまったら、もう留めなく感情が溢れだしちまうんだろう。温かくならない体温に絶望して泣き叫びたくない。暴れ出したくもない。脆いんだよ。この悲しみ、すぐにでもあとを追いてェ位に深いから。


(どんな状況においても感情を表に出すべからず)


「ちょっとなら…泣いたって、いいよね…だって……戦争は終わったんだから……っ!」

(任務第一とし 何ごとにも涙を見せぬ心を持つべし)

両手で顔を覆い その場にしゃがみこんで泣き始めたサクラを、ガキだとは笑えねェ。戦いが終わったんなら押し殺さなくたっていい。自分の目から静かに伝う雫を抑制する必要なんざねェ。


「……バカヤローが…」

これから行く先に光が見えなくても進めなんて、やっぱひでぇよ。お前。
最後まで隣にいるだとか、オレが叶えて欲しかった約束ぜんぶまとめて破りやがってよ。オレの人生計画丸潰れにしてくれやがって。あんまりじゃねェか。

抱擁がかえってくることはなくても、もうこれで最後だからと、固くずっしりと重い体を無理矢理に起こして抱き寄せた。今まででいちばん、軋むほど、掻き抱いた。
オレの幼馴染みで、
同期の仲間で、
彼女。
たったひとりの。

贈った指輪は安モンだったが、気持ちは本物だった。この戦争早いとこ片付けて コイツの薬指にはめてやるつもりだったってのによ。本物だって、いつか揃えてやるつもりだった。
こんなに冷たくなっちまって、受け取り拒否かよ。
最後の最後までオレとの約束破ってんじゃねェよ。

代わりなんかいねーってのに。

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