▼10月10日
今日の日のことを、この先なんて伝えよう。
「柱間…か」
「うむ」
隣に腰を下ろしたのが誰か、聞くまでもない。自分の傍らに近づくのは怖いもの知らずのどっかの阿呆しかいないと、マダラ本人がよく知っている。
「お前もオレも…望んでも…届かないものだな」
「そう簡単にいくか!オレ達の生きてる間にできる事はしれてる。だから託していかねばな…先の者がやってくれる」
「相変わらず……甘い…な…」
お前はいつも楽観的だった。
マダラは柱間にそう言って笑った。
「それが正しいのかもしれんな……俺の夢はついえた。だが、お前の夢は……まだつながっている」
「急ぎすぎたな…オレ達は届かなくても良かったのだ。後ろをついて来て託せる者を育てておくことが大切だった」
「ならオレは無理だったって…事だ。後ろに立たれるのが嫌いだったからな…」
事を急いた柱間と、無理だったと最後に呟いたマダラ。
お互い一度死んで、再び世界に舞い戻って気がついたのは、自分たちはいままでもこれからも一致することは無いという結論だった。
我ら、もはや同じゴールラインは踏めぬ。
「こんな無様な姿を見たら…シズクは大笑いだろう…な…」
「笑って受け入れてくれるさ。あいつなら」
同じゴールラインが踏めなかったけれど、それが過ちではないだろう。悪くない。少なくともその昔、《一斉のせい》で三人は同じスタートラインを切れていた。
「ガキの頃……お前はオレ達はいつ死ぬかも分からぬと言った…互いに死なぬ方法があるとすれば敵同士腹の中を見せ合って、兄弟の盃を酌み交わすしかねェと。だが もう互いに死ぬ。今なら…ただ戦友として酒を酌み交わせる」
酒でも交わしながら、ゆっくり語り合おうじゃないか。いくら長話でもいいだろう。それぞれがどんな道を走ったか、自慢しあおうじゃないか。
「……戦友…か……」
「シズクは先に次のスタートラインに立って待っているぞ」
柱間は瞼を閉じたマダラにそう呼び掛けた。
「まあ……それ…なら……オレ…たち………も……………」
幕引きは晴れ晴れと、笑って逝った。
日は変わり、長い夜も終わりを告げ、まぶしいほどの朝日がさす。
「そうだ。言っとかなきゃって思ってたんだ」
ミナトは息子と正面から向き直った。
一番、だれよりも早く。
「誕生日おめでとう」
17回分の思いを込めて祝いの言葉を伝えた。
「本当に立派になったね、ナルト」
「…うん、サンキュー……」
「オレ達は外法の存在…いつまでもここにいるわけにはいかない。お別れだ」
ナルトが一度も逸らすことなく見つめる父の輪郭は、だんだんと崩れ始め、塵の欠片になりつつあった。
「クシナに色々伝えておくよ…」
父と別れる前に、思いが伝えられるなら、なおさら言葉にして伝えたいとナルトは思った。
母から託された気持ちにぜんぶ答えるには、この一時では足りない。けれど。
父ちゃん。
「おれってばちゃんと飯食ってっから大丈夫だって言ってくれ!好き嫌いしねーで色々食べてんだ。とんこつに味噌にしょうゆに…あ!ラーメンばっかじゃねーよもちろん!!それに好き嫌いもしねぇし!お風呂もほぼ毎日入ってるし!たまに木ノ葉温泉に行くし!!みんなには烏のギョウズイとか何とか言われてっけど!」
17年前の今日、ミナトとクシナのもとにちいさな希望の光が生まれて。
「それから、えっとえっと!友達もいっぱいできたんだ!皆いい奴なんだ!!」
赤ん坊のナルトはひとりになって。
あれから17年後の今日、ナルトには記念日を共に過ごす仲間がたくさんできた。
「勉強はまったくうまくいかなかったけど、まったく落ち込まないっていう自信つーかのかな…それは誰よりあったんだよね!!もちろん三代目やカカシ先生の言う事ちゃんと聞いてたぞ!尊敬してるし!!そこにいるから直接聞いてもいいってばよ!」
10月10日。
今日の日の幸せを、この先、なんて語り伝えよう。
事のはじまり大筒木カグヤを封印した日。
「あ!それと忍の三禁ってやつ!?エロ仙人についてた時に色々勉強になったってばよ!
三禁についちゃダメダメだったけど、エロ仙人は三忍としちゃかっけー忍で いちばん尊敬してんだ オレってば。
今日17歳になったばっかだから酒も女もまだよく分かんねェ!
母ちゃんみたいな女を見つけろって言ってたけど…それは……えっと…とにかく!母ちゃんの言った事 全部うまくいってねーけど、そこそこガンバってたんだ!!
第四次忍界大戦が終わった日。
いや、このどれよりもまず先に語るのは、この世界の英雄の生まれた日だということ。
「夢だってちゃんとある。オレってば、父ちゃんを超す火影になる!!ぜってーなるからな!!
あっちで母ちゃんにも伝えてくれ……
オレの事はぜんぜん心配なんかすんなって…!!
しっかり…やってんだって……!!」
大粒の涙を流して答えたナルトをしっかりと見届け、約束をして父は消えていった。
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