▼苦悩
日向一族同士による対決は、分家の日付ネジが圧倒的な力の差を見せつけたことで、既に勝負はついていた。
しかし、ネジはなおもヒナタへ強い殺気を向け、攻撃の手を止めることはなかった。
ああ、これはさすがにやばいなと、オレたち上忍がいっせいに止めに入る。掴んだネジの腕からは、冷たいチャクラが伝わってきた。
オレもこんなふうに屈折していた時期があったっけな。ミナト先生やオビト、リンと出会い、あの任務につくまで、大切なものにも気づかずに狭い観念に縛られていた。思い返せば愚かな幼少時代だ。
しっかし、あのガイが一年世話を焼いてそれでもまだ頑ななとこを見るに、このネジの抱える闇も相当深いものなんだろう。
忍の一族の因縁か。
まいったね、これは。
「医療班は何してる!早く!!」
ヒナタの容態は思わしくなく、紅が険しい表情で医療班をせき立てた。
「このままでは10分ともたない!緊急治療室に運ぶんだ 急げ!」
医療班に待ったをかけたのは、リングに降りてきたシズクだった。
「手遅れになります。ここで応急処置を」
「だが…」
担架がその場におろされると、シズクが医療忍者たちを掻き分けてヒナタの脇に跪いた。重ねられた手のひらと、チャクラを安定させるための深い呼吸。シズクは掌仙術を発動した手をヒナタの胸部におろす。
オレの近くでサクラが呟いた。
「あ!またあの術」
シズクの両手が纏う白い円は次第に大きくなり、ヒナタとシズクをすっぽり包むまでに巨大化する。それを見、ナルトもオレのベストをつついてくる。
「カカシ先生ぇ、シズクのあれ、なんて忍術なんだってばよ?」
「あれは掌仙術といって、チャクラで人の怪我や病を治してるの」
「しょーせんじゅつ?」
「医療忍者が扱う高等忍術だよ。ま、理論を説明したところでお前には難しいだろうけど」
「フーン そんなにスゲーの?」
「アンタわかってないわね!あの量のチャクラをコントロールして人に渡してんのよ!?」
サクラの言う通りだが、それだけじゃない。シズクの掌仙術は オレが知ってる普通の医療忍者のそれとは異なるものだ。肌に感じるチャクラは、強力な陽のエネルギー。ヒナタの血色がみるみるうちに良くなっているのも気になる。
「あの子……心室細動を処置する傍ら、攻撃された点穴も治療して ヒナタのチャクラの流れを促してる」
「なんせあいつはアカデミー時代から医療班のご隠居様に弟子入りしてたんだ。血のにじむような修行を重ねてる。実力は……」
そう、医療忍術の実力でだけみれば、中忍レベル もしくはそれ以上だろう。
やがてチャクラの威力が弱まり、シズクの掌から光が消えた。
「応急処置終了。緊急治療室に運びます。急いで!」
「は、ハイ!」
後ろでポカンと見物していた医療班は慌てて返事をし、急ぎヒナタを運んでいく。
その場に立ち上がったシズクは すぐには担架の後を追わず、困惑した表情をネジに向けていた。
「なんで?どうしてヒナタにあんな仕打ちをするの?」
シズクはネジに突っかかるつもりなんだろうか。
まったく ナルトだって聞き分けたのにお前が熱くなってどーすんのよ。揉め事起こしたらまずいでしょーに。
シズクのこういう直情なとこは、まだまだ幼いな。感情面のコントロールができて落ち着きが生まれたら、中忍昇格も現実的になるのにねえ。
「シズク、ちょいこっち」
「なあに、先生」
「仲間思いなのは結構だけど、もう少し冷静になりなさいよ」
「それは……難しいよ」
シズクは苦虫を噛み潰したような顔をして「医務室行ってくる」と言い残し、ヒナタのところへと去っていった。
「カカシ、お前の班は威勢のいいガキばっかりだなー」
サクラとナルトと共に上の階に移動すると、すれ違った髭面がカカシも大変だなと楽しそうに笑っていた。
「ネジの止めに入りもしないで、お前ひとりだけ高見の見物してんのさ、アスマ」
「まあまあ。下忍の世話は骨が折れるだろ?」
やれやれ。ナルトまでネジに宣戦布告までしてるし、このシズクといい、オレの班に平穏とやらはないのかね。
- 42 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next