▼さよなら

大筒木カグヤが千年前、最後に目に焼き付けたもの。それはハムラとハゴロモ、二人の息子の姿だった。
今、最後に目に映るうちはサスケとうずまきナルト、二人の姿はかつての面影に重なった。

計画はあと一手だ。忍たちから力を取り戻し、“この世界を実を食べる前の軸に戻す”ただそれだけの事。この眼を瞑ることなど―――…
カグヤの第三の眼、額に宿る神樹の眼は忍の力を以て封じられる。まるで扉が閉まるように。

残されたものはおめおめと黒子に戻ることを選んだ。だが暗躍者が舞台から逃げることをナルトは許しはしなかった。

「そういや お前親離れしたくねーんだったな」

「き…貴様!!」

「今までずっと陰に隠れてコソコソしてたお前の事だって見のがしゃしねーよ!!」

「お前などただオレの創った忍の歴史の一部!お前の様なガキにオレは、」

ナルトの脳裏には死んでいった師匠や仲間の顔が溢れるように浮かび上がった。大事なものは何一つ忘れない。この場に及んで生きる者を侮辱する暗躍者、お前は知らないんだ。
この世界はお前が語っていいものじゃない。

「忍の歴史っつーのは……いろんな忍者の生き様と死に様だ!!」

「!?」

「親離れもできねェガキがカン違いしてんじゃねーってばよ!!」

説教と共にぶつけられる、拳は怒りだけが込められたものではなかった。喜び、悲しみ、苦しみ。ナルトがいままで見てきたもの、会ってきた人すべての思いがおりこまれて。
もう二度と繰り返さず、明日は別の朝を運んで来ますように。殴り飛ばされた黒ゼツは、母の眠る地爆天星に絡め取られるように封印された。


「封印終了!!これでめでたしめでたしだってばよ!!」


ナルトは第7班の元へ戻ると、三人の仲間と顔を見合わせた。 そしてカカシの背後に佇む須佐能乎にも顔を向ける。これで終わったな 口には出さずに、ニカッと笑いかけた。

須佐能乎は答えるように微笑み返した。役目が終わった術は消え去るのが定め。須佐能乎体はゆらゆらと靡き、色素を失い始める。

「行っちまうんだな」

サクラとナルトはそれに気付くと、安堵の表情を切なげに歪めた。

さよなら

消える刹那、須佐能乎はいっそう輝きを放ち、生前のように明るい笑顔を見せた。

大好きだよ、みんな



あとには何も残らない。

空白を見つめ、サクラの頬には涙が伝った。
カカシがそっとサクラの肩に触れ、僅かな再会を喜び、別れた悲しみを分け合った。
声は聞こえない。
触れられない。
それでも確かにここにいた。
それを四人は証明できた。




任務が終わったら、忍たちは家に帰る。
ここより遠く離れた地で、仲間たちが第7班の帰還を呼んでいた。

「お帰り……ナルト」

「父ちゃん」

ナルトが地に足をつけると、待っていた父が息子に駆け寄った。ポカン、と思わず面食らったのは急な口寄せによる帰還だけではない。ありふれた言葉でもナルトにとってはそれが、生まれてはじめて家族から聞いた瞬間であった。

「ナルト、サスケ、そして皆 よくぞ世界を救ってくれた」

六道仙人は若い三人の功を労い、彼らの師の名を呼んだ。

「お前がはたけカカシだな」

「……?あ ハイ」

「よくぞ皆を導き、母を封印してくれた。これこそ神の御業よのう」

自分には勿体無い言葉とカカシは目を伏せる。

「私はほとんど何も出来ませんでした。こいつらと…多くの仲間たちのおかげです。それに…かつての友が私に力を貸してくれましたから」

「だから言ったのだ。よくぞ皆を導いたと。お前は迷いながらもナルト達の師で、オビトの友であり続けた。でなければおそらく母は止められなかったであろう」

二人の視線の先には、九喇嘛に手を振るナルトの笑顔がある。


「おーい九喇嘛ァー!!オレと離れてさみしくなかったかぁ〜!!会いたかったぜェ〜!!」

「でけえ声で呼ぶな!さみしくなんかねーよ!!ワシの半分はそっち入ってんだろが!!」

「フフ……あの九喇嘛がはずかしがって慌てておるわ。だがこれこそワシが思い描いたモノ。尾獣達でさえ己から協力したくなる。そういう忍が現れたのだからな」

「オビトの事も本当はナルトが……彼がオビトを戻してくれた」

「そうか。ならその話はあの世でオビトに詳しく聞くとしよう」

「…!」


こんな風に弱い懷も過去も全部さらけだして、二人で話せる日を願ってた。

「オレは忍の世界を無茶苦茶にしてしまった。今さら何を言って去って行ったらいいのかも分からない…」

悲しげに影をおとすオビトにカカシは笑って返した。最後は敵でなく友として。人助けばかりで遅刻していたあの頃の友。
オレにとってはそれだけでいい。カカシはようやく伝えられた。

「………ありがとな…カカシ」

どうかあたらしく前に進めるようにと、オビトはカカシに貸したものを持って帰る。

「じゃあな もう行くよ。リンを待たせてっから」

「遅刻の言い訳は考えてあるのか?」

「ああ。だらしないヤツを助けてくるって、今度の今度は前もって言ってあんだ」

そう親友はかつてのように はにかんだ。
本当の別れ。
同時に、しばしの別れ。



写輪眼のカカシは今日かぎりで終わりを告げて、明日は新しい名前を運んでくる。

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