▼ここで待ってる

異変はすぐ体に伝わる。瞬く間に硬直し、ひび割れた皮膚からボロボロと朽ちていく。大筒木カグヤの共殺の灰骨。その骨刃が貫いた者…モロに喰らったオレ諸ともあの世へ誘う。
何が決意だ。笑わせるな。カカシ、お前に必要な覚悟はそれじゃない。もっと他にあるだろう。


「カカシ……お前は当分こっちに居ろ…直ぐに来んじゃねーぞ」  
 
オレはとうに過ぎし儚き世捨て人。だからそんな顔をするな。これで最後だからと、戦いをほうりなげてオレのもとに駆けつけた忍に胸の内を明かそう。


「ありがとうな ナルト」

背中に伝わる温度で、かろうじて感覚が残っていると実感した。

「……!」

お前と戦ってようやく夢幻から目が覚めた。お前はオレの鏡。見ていると昔の自分を見てる様で。振り返っても誰もいない自分をいまさら後悔して。だが不思議にそれすら嬉しく感じる。火影になった自分を何度も繰り返し想像しては高ぶった心、あの何とも言えない気持ち。お前がそれを思い出させたからだろう。里に仲間がいる。火影としてそれを守る。
そう想像するだけで、心の穴が埋まっていく気がしたよ。

「お前にはこれからまだまだ多くの苦しみがあるだろう…だが…それでもお前は変わることなくその忍道を貫き通せ」

いつかオレに言ったな。


「まっすぐ自分の言葉は曲げない、それがオレの忍道だ…だったか」

「ああ…」

「ナルト…お前は…必ず火影になれ」

背中の感覚が無くなった。
行き場のなくなった手を回し、ナルトは僅かに残されているオレの掌をと力強く握りしめた。
お前の手は暖かいな。

お前とオレは脆いところまで似たらしいな。笑顔を作ろうとしても、目に溜めた涙が見えるぞ。
最後に精一杯を振り絞った答えを聞かせてくれ。

「………ああ!!!」



「待ってたよ」

「…そうか…待たせてすまねェ…」

道に迷ったみたいだね。そう言いながらも彼女は微笑んで待っていた。
ここに来るまで色々あったんだ。本当は彼女にあわせる顔がない、悔いながらも来てしまった。

「リン…オレ…リンとの約束…」

「ううん オビトはずっとがんばったじゃない」

「!!」

「ずっと見てたんだよ」

約束を果たせず愚かに生きてきた人生を、リンがそう笑ってくれるだけでオレも自分で自分を許すことができる。やってきたこと全て、なかったことにしなくていいんだと。リン。最後にもうひとつ、ワガママ言ってもいいか。

「リン…もう少しだけ待ってくれないか?」

ほんの少しでいい。もう少し遠回りして行きたい。

「今度は誰を助けたいの?」

「カカシだ」

リンの少し呆れたような顔は、親友の名を聞いて優しい笑みに変わった。

「あいつが何もできないで畑に突っ立ってる文字通りのカカシみたいになってるのは…なんかシャクなんだ!」

「色々あったけど やっぱり仲がいいんだね」

「そ…そんなことねーよ! あいつとオレは水と油だ!」

ごまかせどお見通しなのだろう、リンは今まで見たなかで一番嬉しそうに笑っている。

「すぐに行けるの?」

「ああ…チャクラってのは2つの世界を繋げる力だ。カカシに会ってくるよ」


「わかった。ここで待ってる」



いまさらオレが素直になったって嘘くせえだろう。みなまで言ってはやらないからな。上忍祝いのプレゼントでこの眼をやったのに、それが帰って来たんじゃ寝覚めが悪い。ただし貸すだけだぞ、お前はオレにとっても英雄だ。いつまでも背負わせたいわけじゃない。お前はさいごは本当のお前に戻るんだ。
今度こそ届くだろう。この眼がオレとお前のしるし。もう少し見ててやるよ、お前の世界。



「カカシ……そもそも他国にまで轟かせた自分の勇名を忘れちゃいないだろ?」


世界はきれいに色づいて見えるよ。
お前の眼だからかな。

カグヤの左腕に潜んでいた黒ゼツを逃しはしまいと、ナルトは六道の黒棒を振りかざした。
他方、カグヤの左腕の傷口からは体内の尾獣チャクラが溢れ出す。ナルトに眠る尾獣に反応し、回帰を望んだのだ。十尾の人柱力になったオビトと同様に絶え間なく膨張を繰り返し、カグヤの姿は人に成りきれぬ獣と化す。

十尾となったカグヤからは数多の触手が放たれる。標的は三人の若い忍。オレの弟子たち。

「サスケ その白い手につかまんな!一瞬で取り込まれちまうぞ!!しかも速ェー!!」

「分かっている!」 ナルトもサスケも持ちうる全ての力で応戦していた。

お前の言う通りだよオビト。先生であるオレが畑の案山子みたいに突っ立ってるわけには行かないよな。先生ってのは、教え子を守り、導くんだ。ミナト先生はいつもそう、オレたちの前に光のように現れて。

「キャ!!」

「サスケ!お前の瞳術でサクラちゃんを!!」

(オビト、ありがとう)

神だろうとなんだろうと、オレの大切な仲間に手を出させやしないよ。

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