▼愛の人

我が手駒にするために埋め込んだ呪印札が見当たらぬと漏らせば、オビトは心臓を貫かせ、札を潰したと静かに答えた。

「何の因果か…2人ともまったく同じやり方で排除するとは面白い」

もはや事実を隠すつもりも無し。正直に己が告げてやるとオビトの半面がみるみるうちに歪んでゆく。
そう、のはらリンに尾獣を埋め込むよう霧隠れの忍を操ったのはこのオレだ。驚くまい、お前とて分かっていただろう。血霧の霧隠れで糸を引いていたのもオレだったのだからな。人柱力が仲間に処理されたのは流石のオレでも想定外だったが、まあいい。お前を闇に落とせれば計画はほぼ成功だった。


「なぜ…なぜオレだったんだ!?」

「お前は心の底から人に優しく、愛情深かった 老人介護は得意だっただろう?」

リンへの、仲間への、火影への、忍への深い愛情。光が強くなればなるほど、そこに巣食う闇も深くなるのだ。

「いったん堕ちてしまえばそれは逆にこの世界への深い憎しみへと変わるからだ。そういう奴ほど…」

そういう奴ほど踊らされ易いのだ。
気付いてしまったからにはこの続きは決して言うまい。

「返してもらうぞ その左目」



憎いか。その恨みさぞ深かろう。しばし待て。もうじき月は波紋の化粧を纏い夢が実現する。お前の待ち望んだ世界も叶えてやろうではないか。リンもカカシもいる世界でお前を火影にでも何でもしてやろう。
輪廻の力を持つ者が月に近づきし時、一夜限りの花に無限の夢を叶えるための月に映せし眼が開く。

「今!!一つとなるのだ!!」

世を照らせ、無限月読




愛の反対は諦めだ。
オレは諦めなど選ばぬ。この世界がどう仕様もないならば世界の螺巻きを正しく巻き直してやるだけだ。全ての夢を叶えよう。お前たちの望みはお前たちのものだ。悲しみごとは舞えぬ。全てを脱ぎ捨て辿り着け。神の木から下がる簑の揺り籠、オレにはその中で忍たちが見る夢が見えている。どうだ忍たちよ極楽の世界は。欲する物は手に入ったか。愛する者は健在か。オレは地獄を天国へと変えた。

「もう理解しろ。全て終わったのだ」


「違ウ…マダラ」

わずかな揺れ。

「!?」 

同時に体の中枢から末端へと痛みが走った。己が身体に目を落とすと、背後から貫かれ、風穴から漆黒の手が突き出ている。

何がどうなっている。

「オ前ハ救世主デモナク…ソシテ終ワリデモナイ」

「!?」

「ナゼ、オ前ガオビトトハ違イ全テヲ利用スル側ダト言イキレル?自分ダケガ違ウト思ウノハオコガマシクナイカ?マダラヨ」

「黒ゼツ お前は何を言っている!?お前を作ったのはオレだ…!お前はオレの意志そのものなんだぞ!」

お前をつくったのは他ならぬオレだ。物たる黒ゼツにオレは全幅の信頼を置いていた。人は人を騙し裏切り、失望させられる。だからオレは何度も失望してきた。
しかし黒ゼツお前は人ではない。人にあらざるからお前だけは信頼していたというのに。

月の眼計画に多少の誤差は生じていても最後までうまく運んでいた、そう思って疑わなかった。オレのコマはよく使われてくれた。おかげで全人類を幻の下に眠らせることができた。このオレが手綱を握り、人類の幸せを掴む瞬間が目前にまで迫っていた。

「ソコモ違ウ…オレノ意志ハ――――カグヤ ダ」

手を伸ばして届くというに何故だ?コマを裏切り続けてきたオレが最後に裏切られるなど笑止千万。
弟への。仲間への。火影への、忍への深い愛情。
眼下には無限月読の床に眠る者たちが無数に広がっている。その中に星のように青く輝く点がある。我が須佐能乎。透けて、地面に横たわるあの娘が見えた。

「…シャシ…」

うちはの石碑にはじめてその名を見つけた。癒しのチャクラを持ち、うちはの者を強化する存在。

あのときオレは咄嗟に腐れ縁の雨月シズクを連想したのだ。だがあやつはオレと道を違え、こちらにくることは無かった。ならば同じ力を持つ孫娘をと思って疑わなかった。

「イズナはもういないけれど…これからはわたしたちが兄弟だよ、マダラ。この里の仲間みんながね」

「うるさいなあ!マダラこそ、ちゃーんと立派な火影になってよっ」

『わたしは…マダラ、お前がいない里に帰るのなんてイヤだった!ずっと、ずーっと…お前が好きだったから!』


やつの孫娘を見ながらも、思い出されるのは雨月シズクの姿ばかりだった。

「……シズク……」

「私たち忍も幸せになれる日がくるかもしれないだろ?」

お前がそう夢見たときから、オレもこの日を待ち侘びていたのだぞ。

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