▼答え

「ねえ仙人様。ほんとは敵なんていないんでしょ」

跪き、ナルトの身体へチャクラを一心に供給するシズク。穏やかで満ち足りた顔の彼女は、まるで祈りを捧げているようだった。


「正義とか悪とか、敵とか味方とか。そんなのこじつけ。誰もがそれぞれの理想に突き進んで生きてる、ただそれだけなんでしょう。忍はどうやって生きてけばいいかって、私たちそれぞれ違う選択肢を選んできただけなんだよね」

ナルトもオビトも。そしてマダラも。


「人を導く者は…己の死体を跨がれる事があっても仲間の死体を跨いだりはしないらしい…」

「…ならそれを確かめる為にまずお前が死体にならねばな」

「オレはもうアンタに跨がれる事もない。己の名を騙らせ他人に全てを任せる事は、仲間に託す事とは違うと今なら分かる。オレはアンタじゃない」


「マダラが言ってた。私たちは神樹からチャクラを盗んで得た存在だって。神樹にチャクラを返せることなら返したいけど、それじゃ皆生きていけなくなる」


今のオレは、火影を語りたかったうちはオビトだ。


「力を求め、神の実に手を伸ばした……ワシの母はすべての元凶であった。ワシは忍宗を興し、原罪をあがなおうとしたが及ばなかった。結果止められず、この世は未だ争いが絶えない」

「母…?」

「今地上におる忍たちも、ワシの母・大筒木カグヤの手駒に過ぎぬ。今宵 千年の眠りから母は目覚める。絶好の好機を逃しはせんだろう」

忍は武器。刃の下に心をひた隠し、何事にも耐え抜くのがこの百年余りの姿だった。それからすれば、うずまきナルトとは何と非常識的な存在か。

「ナルトって、相手ととことん向き合って話して、戦わずに分かり合えるんだ。だから皆、自然と仲間になっちゃう。その輪はどんどん広がってく」


「ボクは今…帰るべき場所を無くしたくないと心の底から願うようになった。ボクもオビトもこの世の中に自分の居場所がなくなってしまったと思い込み、皆を巻き込んだ。だが…もう自分が何者か分かっている… そして己が何をすべきかも!」

ボクは他でもない――カブトなんだと。

「武器を手に心を押し殺して戦うんじゃなくて、心をぶつけて闘う。それって、忍宗で平和を導こうとした仙人様と同じなんじゃないかな。これからは、忍は忍のまま、ありのまま生きててもいい世界が来るのかもしれない。そしたら忍はほんとに幸せになれるんじゃないかな」

私もナルトみたいに、新しい忍の闘い方で、無意味な戦いを終わらせたかったとシズクは密かに悔いを呟く。

「お主は戻らずともよいのか」

本人に告げていないものの、六道仙人がシズクの元へ降り立った最大の理由は、シズクを再び現世へと送り出すためにあった。創造主たる自分ならば、死者を蘇らせることは不可能ではない。六道仙人は生と死の狭間にいる若き転生者たちとそれぞれに話をつけていた。
眠りから覚めるであろう母と対峙し、ナルトとサスケは全てに終止符を打つと仙人を前に誓った。その契りとして、祖は二人に力を分け与え、地上へ帰す。同じようにシズクをと、そのつもりだった。

「私はいいんです」

しかし彼女はこれを断る。

「二人の中にある私のチャクラも発動してる。やるべきことはやりました。ホントは生き返りたいし、まだ戦いたいけど…それでも、二人がピンチなら、そばにいる仲間が助けてくれるはず」

六道仙人の前に佇むのはまだ齢17の娘のはずなのに、その声は凛々しく芯が通っている。その年齢は年長者からすればまだまだこども。しかし忍の年齢でいえば、一人前の大人である。
末娘シャシの転生者が立派に成長し、自分で道を選んだ。その事実にハゴロモの胸を撫で下ろす。
いますこし、地上では戦いが起きるだろう。世界がどちらに傾くかは最後まで分からない。それでもシズクは仲間を信じこれからを託した。ならば同様に、ハゴロモにも、自分のこどもたちを信じる時が来たのかもしれない。

「ならば 一つだけ知識を授けよう」

「知識?」

「インドラは、シャシの力が写輪眼を強化すると信じていた。シャシの力とは、あの世とこの世の狭間を渡る能力である。お主の使う 死人の魂を口寄せする術の これが正体。真の写輪眼使いが発動する須佐能乎もまた、現世ではない場所から呼び寄せられる覇者である」

シズクは咄嗟に、イタチやサスケが発現させたあの半透明の鎧武者たちを連想した。言われて見れば、自分が用いる“螢火”と外身のつくりが似ていなくもない。

「シャシの力を受け継ぐお主ならば、“螢火”から細道を潜り抜けるように、須佐能乎に干渉することも可能なのじゃ……最もお主がそれを望むか望まぬかは別の話だが」

干渉。
六道仙人の言わんとする真意を汲み取って、シズクはそれきりしばし閉口した。
“螢火”はもう効力を失ったが、三度 戦火に降り立つ抜け道を見つけてしまった。つい今しがた未練はないと偉そうに断言したばかりであるというに、知ってしまったら最後、動かずにはいられない。生来の性分を堪えきれずシズクの心はうずうずしはじめていた。
消え行く直前、ハゴロモはふと思い出したかのようにシズクに問い掛ける。

「そういえば、お主の名を聞きそびれておった」

「私は月浦シズク…雨月シズクともいいます。あ、お父さんはうずまき一族だったから うずまきシズクでもあるのかな?」

少女の辿ってきた数奇な運命、幾多の名を持つ由縁をハゴロモも空から見守ってきた。喜び悲しみ苦しみ、全部くるめて彼女をつくっている。

「随分沢山名前を持ち合わせたのう」

「私はどれも好き」

ハゴロモがちゃかすと、シズクは丸い瞳を弓なりにして、いたずらに笑う。ハゴロモも笑みで返した。彼は世界中のすべての民を子孫を持つ。いかつい形相も、笑顔は一人の祖父であった。

「うむ、良い答えである」

- 311 / 501 -
▼back | novel top | | ▲next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -